食事管理
巣の機能確認を済ませ、ドリラーと対面させた後、腹が空いたとのことで、エネルギーを補給させることにした。
エルヴィーナは、あまりエサにこだわりがないようだ。しかし、きちんと味わいはするらしい。エルヴィーナはエネルゴンキューブと同じ容量で作られたミクロサイズ(私からしたら)の非球面型栄養素ペレットを一粒一粒と噛み締めていた。顔はほころび、これ以上の幸福はないと笑んでいる。
ご馳走でもなければ酒でもないというのに、こうも美味であるとエルヴィーナは味覚で感じ、それを周りに顔で表現する。その反応は中々周りに影響を与えると私は考える。現に私も不足しているわけじゃあないのに液状エネルギーを摂取しているくらいだ。このエネルギーに苦い、甘いなどの味はない。おそらくエルヴィーナが食するペレットだってハッキリとした味はないはずだ。
「美味いのか」
エルヴィーナの表現を受け止めても、疑問は晴れない。問い出すとエルヴィーナは和かに答えた。
「もちろん美味しいよ! ペレットの割には食感にすごいこだわりがあると思うの。さすが定番」
「食感?」
「外側は硬めなんだけど薄いんだよね。だから歯で皮を切れば、そこから弾力もある柔らかい中身が口の中に広がってね…楽しい……」
ほんのり甘いのがまた美味しさを引き立てるよね……。と、先ほどとは違った安らいだ笑みを浮かばせる。
驚いた。ペレットはペレットでも、開発はえらく力を入れていたようだ。
「あ、そうだ。ショックウェーブも食べてみる? た、食べれる? 薄味なほうだけど、うん、味は保証…するよ!」
どうやらエルヴィーナは私が彼女自身の補給物資を狙っていると見たらしい。…。……否定はしない。確かに気にはなっている。スキャンによって配合されている物質は判明している。己に取り込んでも害はないものだ。まあ、ペットの餌を口にするといえば聞こえは悪いのだが、別にかまわんだろう。
「いただこう」
私の応諾に嬉々としたエルヴィーナは私の左手にペレットを置いた、が。
「はい! ……あ?! ………ちっちゃい!」
サイズの違いを再自覚したエルヴィーナは驚愕し、焦った様子でペレットが盛られた受け皿と、砂粒にも見えるペレットが置かれた私の左手を見比べた。
「あ…ど、どうしよ……これだけじゃあこの美味しさが果たして伝わるかどうか…で、でも伝わることが確定するくらいあげたらわた、わたしの分が……!」
エルヴィーナはぐるぐると目を回し百面相を繰り返す。ゆがんだり、はっとしたかと思えば、目をぐっとつむり、にやついたけども、眉を寄せ、わだかまりが広がらんとばかりに苦悩を見せる。
食事の楽しさを伝えたいという動機。でも自分も食べたいという欲求。でも、しかし、だって、それでも、と迷いを断ち切れない感情。
葛藤に葛藤を重ね繰り返す。そうして遂にエルヴィーナは決心をしたのか、自身が持つ受け皿をすべて私に差し出してきた。
「はい!!」
「いや、この一粒で十分だ」
「あれえっ!?」
「ああしかしくれるというならば、全て貰ってしまっても構わないのだが」
「えっ。…えっえっ?!」
真剣な顔をしたエルヴィーナは私の狂言に大口を開けて驚愕した。エルヴィーナからミクログレインを受け取った時点で(先ほど既に行っていた為、無駄なことではあるのだが)再スキャンをしていた。エネルギー変換率、構成物質、人間が感じるであろう味。おおよその目途はついていた故に、量もサイズもほぼ関係はなかったのだ。それを説明するも、エルヴィーナは理解がまだ追い付いていないのかショートを起こしたように固まっている。
何も言わず泳がせたかいがあった。予想以上の結果に思わず排気を吹き出してしまう。
私の意図にようやく感づいたのか、エルヴィーナはひと時考え込んだがそれは一瞬。私を糾弾すべきと判断を下し実行に移した。
「あっ! 笑った!! け、けどそれ! しかも、それ!! か、からかわれた! からかったな!! も、…もー!!」
赤々と染めた頬を膨らませ怒りを表現しつつも、目には涙を浮かべ恥じているエルヴィーナは私の左手を感情に任せコッコッと叩く。当の本人は懸命に攻撃を繰り出すが、痛くも痒くもない。むしろ金属を相手にしているエルヴィーナのほうが痛手であろうに。
なんとも愛らしい姿だろうか。これはこらえきれるはずがないだろう。
「っふは、はっはっはっは!」
いやはや。一枚食わされた。
しかし改めて思う。覚悟を決めた人間の表情はなんとも勇ましく美しいのだろうか。エルヴィーナでさえ過程はどうであれその姿を見せた。…まあ、直ぐに崩れたし、崩したのは私だが。“勇ましい”よりも“間抜け”が似合ってしまうのだから、仕方ないだろう。争った瞬間にいち早く、素早く、すさまじい速度で滅するようなエルヴィーナは、何も考えず平和に現を抜かしてとぼけているのがお似合いだ。
「からかったことを謝罪しよう」
謝意の表明をするとエルヴィーナはあっという間に怒りを解こうとする。しかし纏ったものを即座に放つのは決まりが悪いのか、たじたじと目を泳がせた。
「うぇ!? え、いや、いいよ! いいんだよ別に! そこまで怒っては……お、怒ったけど、…ゆ、許す!」
寛容なのか、やはり単純にバカなのか。謝罪を行いさえすれば、何事も許してしまうのではないのかと思ってしまう。
エルヴィーナの危機感のなさはあまりにも身を案じていない。実に危うい。今まで生き延びてきたことが不思議に思うほどだ。
確実に管理をしなければならない。
私が場にいない場合を想定してドリラーにもお守りを頼んでおこう。受け入れてはくれるだろうが、あいつには大層な苦労をかけることになるな。まったく、随分と人間に入れ込んでしまっている。
人間が我らに織りなす効果について研究してみようか。労働源としてではない、もっと改革的な何かがありそうな気がしてならない。
きっと、何かがあるはずだ。そうでなければ、私がこんなにも一生命体に興味を持ち、研究心をくすぶられ、完全な注視をと命令するスパークの理由がただわからない。あの店主は一目惚れなど言っていたが、私にはどうも、それが理解しきれなかった。エルヴィーナを通して人間という生命体を完全に把握した時こそが、私を納得させられる最大の根拠が生まれる。そう私は確信している。
「ありがとう」
こぼれた言葉は許しをもらえたからか、研究内容が決まったからなのか、はたまた、なんと言い表せばいいのやら。それもわかるはずだ。
私はエルヴィーナからたくさん学ぶであろう。そしてエルヴィーナもまた、私から知識を身に着けてくれるのだろう。
背景食事 生命管理
(…ど、どう?)
(イヴィにとって良きエネルギーとなるだろう)
(! …っいや違う! あ、味は!!)
(全くわからん)
(んっ!? …んんっ!?)