「えーでは、冬君対トシ……始め!」

冬の相手が土方に変わってしまった事で、少しためらいながらも近藤が試合開始の合図を放つ。しかし土方と冬は向かい合ったきり動く気配がない。

「……ひとつ聞いときたいんだけどよぉ」

「なんだ」

「やり合うのは木刀でいいんだな?」

「はぁ?てめぇらが怪我しねぇように気ィ遣ってやってんだろうが。まぁ俺としては真剣使ってここで叩き切ってやっても……!!」

土方が話している最中に冬が突然切り掛るが、土方は持ち前の反射神経で即座にそれを受け止めた。そんな土方を見て、冬は思わず感心したようだ。

「随分卑怯な真似してくれるじゃねぇか」

「先手必勝、俺も夏みてぇに一発KOしたかったんだけどな。……そう簡単にはいかねぇか」

「上等だ、舐めやがって」

軽口を叩く冬に土方が青筋を浮かべれば、刀と刀の打ち合いが始まった。予想以上に土方に応戦する冬を見て、周囲の隊士達から歓声があがる。そんな中、刀と刀の打ち合いになると冬はニヤリと口角をつり上げた。

「副長さんよぉ、手ぇ抜いてるだろ」

「言ったろ、これは実力審査だ。すぐに終わらせたところで意味がねぇ……まぁ、その辺の浪士共よりはいささかやるみてぇだな」

「褒めてんのかァ?それ」

土方が本気で自分の相手をしていないことに気づいた冬は自分にも勝機を見つけたようだった。元よりこの試合は実力審査であって、勝つ必要性はないのだが。


「……やりずれぇな」

再び刀の打ち合いに戻った土方と冬だったが、その最中に土方がポツリと呟いた。冬の太刀筋はめちゃくちゃで、剣術と呼べるようなものではなかった。なのに何故か対等に戦い、土方の攻撃をすんでのところで避けるのだ。



「あの人強いね、冬負けちゃうんじゃない?」

「真剣での斬り合いなら負けてたでしょうね。でも相手が本気ではない状況で、ましてや木刀の試合なら冬にも勝ち目はありますよ」

「鋭いねぇ御二方。どうでしょう、どっちが勝つか賭けてみやせんかィ?一口一万からで」

冷静に試合を分析している秋と春に会話に割って入ったのは沖田だった。いつの間にか土方と冬の試合を賭けの対象に、商売を始めていたらしい。既に数人の隊士から賭け金を集めていた。

「あ、じゃああたしあの副長さんに二口」

「私は冬に三口で」

その話に乗った春と秋は賭け金を沖田に手渡す。

「……にしても、土方さんは何をやってんですかねィ。いつまでもだらだらと試合を長引かせて、さっさと終わらせちまえばいいものを」

土方の実力を知っている沖田は、見た限り冬の実力は土方に勝てるほどのものではないと判断していた。しかし土方が本気で仕掛けていないのには、実力審査であるからとは別にもうひとつ理由があった。それは、なんとも言えぬ違和感を冬に感じていたのだ。

「……お前一体何者だ……なっ!?」

自ら振るった刀が冬の頬を掠め、血が流れた事に土方は驚いた。先程まではこんな攻撃容易く避けていたはずなのに。それどころか、自ら刀に突っ込んで言ったようにも見えたのだ。

「隙見せちゃあダメだろ、副長さん」

驚いている土方が隙を見せた一瞬に、冬は体制を低く取り土方の足元を崩した。そしてそのまま土方へと飛びかかり、馬乗りになった状態で土方を転倒させた。

「俺の勝ちでいいか?」

木刀を土方の顔の横の地面に突き刺しながら、ニヒルな笑みを浮かべた冬。そんな冬の先程切られた頬からは血が一滴零れ落ち、土方の頬へと垂れた。


「……え、えっと……冬君の勝ち?」

思いもよらぬ結末に辺りが静まり返る中、ポカンとした表情の近藤が歯切れ悪くも勝敗を告げる。すると、どこからともなく拍手の音が響き渡ってきた。その拍手の音の主は沖田で、土方に勝った冬に向けてのものだった。

「いやぁ、情けねぇですねぇ土方さん。まさかこんなに何処の馬の骨とも知れない野郎に負けちまうなんざ。……どうですかィ、冬でしたっけ?あんたも俺の一番隊で面倒見てやろうか」

「うるせぇぞ総悟、ちょっと油断しただけだ。次やったら絶対に俺が勝つ。それに、こいつの所属はもう決めた」

土方は服に着いた土埃を払いながら立ち上がる。

「あららァ、そいつぁ残念。仕方ねぇなぁこいつだけで勘弁するか」

「ちょっ、やめて、頭叩かないで」

頭をペシペシと叩いてくる沖田の手を夏は払い除けた。それが気に食わなかったのだろう、不気味な笑みを覗かせた沖田は抜いた刀の切っ先夏の首元へと向けた。

「てめぇわかってんのかィ、一番隊の隊員になったお前の命は俺が握ってんですぜィ。浪士との斬り合いで特攻させて討ち死にさせんのも俺の自由。わかったなら態度を改めなせェ」

「ごっ、ごめんなさいぃぃぃ」

まるで鬼の形相に見える沖田に夏は恐怖のあまり、目に薄っすらと涙を浮かべながらプルプルと肩を震わせた。それと同時に、自分の今後の行く末が地獄に確定してしまった事に絶望した。

「……あっ、あの今からでもうちに女中なるという選択肢は……」

「あるわけねぇだろ、バカが」

「うわあぁぁん!この人怖いよぉぉ!もうヤダぁぁぁ!!」

逃げ場を失った夏の悲痛な叫び声が屯所中に響き渡る。


「アイツ畜生だな」

「いい性格してるね」







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