出来ちゃいました。



『ハジメさん、大変。夏バテかと思ったら
そうじゃなかった!!!』


「だろうな。何故なら今は12月だ。」


美月の妊娠が発覚してからの第一声が何とも
まぁムードのないさっぱりとした会話から
始まるのは、通常運転。

何処と無く倦怠感を感じ、そういえば月の
ものが来ていない事に気がついた美月は、
ドラッグストアでなんとなく買って、調べた
結果を見せながら、キョトンとした顔で言い
除けて、岩泉は呆れた様にため息吐くのは、
まだ実感が湧かない所からなのか。


それは、病院へと行ってしまえば実感は直ぐ
に湧いて、美月を思い切り抱きしめて、彼は
感謝の言葉を彼女に沢山かけるのだが。


「美月ありがとな、愛してる。」


らしくない感情剥き出しな言葉を出し、
ヘラっと笑う自分の奥さんが愛しくて、
お腹いっぱいと言いたくなるくらいに、
いたる所へ口付けを落としていく。

美月はこういう時の素直な彼が大好きで、
同じように感謝の言葉を受け止めて、
彼の背中に手を回した。


「お邪魔しまーす。…ってどしたの?」


『あ、徹さんだ。いらっしゃい。』


「お前、タイミングをホント考えろ。」


たまたま帰国して岩泉家に遊びに来ていた
及川がそのまま部屋へと入ってきて、昼間
から何盛ってんの?と、引き気味に2人を
見ていると、岩泉が容赦なく彼に殴り掛か
るのも昔と変わらない。


本当は落ち着いて言うものだろうが、家族
同然の彼には事情を説明すると、及川は
それを自分の事のように喜んで岩泉同様、
何故か彼も美月に感謝の言葉を投げながら
抱きしめて、少しだけ彼女を困惑させて
いた。


「美月ありがとう、愛してる!」


『ちょっと徹さん、待って待って!』


「おいクソ川、美月から離れろ!」


そんなこんなで平穏に1ヶ月を経過すると、
美月には悪阻が襲ってきていたのか、発覚
の頃より少し余裕のない表情へと変わって
いく。

親元を離れた所に暮らしている二人は、
頼れる人物はついチームメイトで、辛そう
にしている美月を花巻が心配して、大丈夫
か?と声を掛け、彼女の腰元に手を添えて、
転ばないように支えてくれていた。


『ありがとう、何とか歩ける。』


「肩も貸すから、遠慮なく言えよ?」


トレーナーをしている岩泉は、試合によって
変わるので休みも不定期。
希望の日の休みを取るのが難しく、検診と
いった決まったものの付き添いが難しいこと
もあり、1人で行かせるのは心配だからと
彼に事情を話せば、彼女の付き添いを快く
引き受けてくれた。


普段は運転が可能な美月も、安静に車の
運転ができる状態ではなく、本日はとある
理由で時間が空いている花巻のサポートを
受けながら、一緒に病院へと向かう。


『ごめんね貴大君、貴重な時間を。』


「大丈夫、予行練習だと思えば。」


そう言いながら美月を車に乗せたら、体を
冷やさないようにブランケットを彼女の
膝にフワッとかけてあげると、自分も
座ったらハンドルを握り、奥さん、俺と
ドライブしましょうか?とふざけて笑って
みせる。

くすくす笑う彼女を横目に見たら、
妙に切ない気持ちが溢れていく。


「ま、当分ねーわな。相手いねーし。」


『貴大君は、すぐ出来そうなのにね。』


「それがなかなかなんですよね。」


『今、ブランケットかけてくれた時、
すごく嬉しかったんだけどな。』


体が勝手に彼女のために動いてしまう所は、
昔と変わっていなくて、彼女に言われた
言葉を花巻は滑稽に思ってしまっている。


中学校も一緒で、バレー部でマネージャー
も務めてくれて、妹のように可愛がって
いた後輩が、認めざる負えない程の男気
ある人間の元へ行って。


この寂しい気持ちはいつになれば前進する
事が出来るのだろうか。
病院に一緒に入れば父親と勘違いされた
事も少し喜んでしまう自分がいて。


そこではたまたま手足が見えたりして、
彼女と新しい命の姿を目にしたらなんて
馬鹿なこと考えているんだと後悔をして。


お前、父ちゃんなんだよな!と仕事から
戻ってくる岩泉を待って、半泣きで花巻
は岩泉にこの感動を伝え、何の理由の涙
か自分でもわからないまま、花巻は岩泉
に抱きついた。


「お前には色々と感謝しているが、花巻
頼む。そろそろ帰れ。」


今日の検診の結果を美月の代わりに熱く
語り、岩泉はげっそりした顔で彼の抱擁を
つい反射で受け止めて、抱擁したい人物は
別にいるのだがと頭を抱えながら、彼の話
を聞いていた。


『ハミチキかかりゃあげくんが食べたい
です。』


「…お前、腹の中に京谷でもいんのか?」


「はい、まっつん残念。」


「もうそれ俺達が先に美月に言った台詞
だから。」


そこからまた平穏に数ヶ月ほど経過して、
コンビニに寄るので何かいるものは無いかを
電話で確認してから、彼女にお土産として
渡す際に松川がそう言えば、先に2人の家
に遊びに来ていた及川と花巻が、松川を
指さしてドヤ顔を見せる。


仕事が忙しく、彼女に会う機会が少ない松川
はそれに少しイラついて、頭に血管が浮かん
でいた。


ありがとうと目をキラキラと輝かせる美月の
顔は、高校時代の松川がよく可愛がって
いた時の表情と変わらずで、彼女の無邪気
な笑顔を見たくて、ついその癖づいたその
行動に、我ながら笑えていた。


ソファに座っている美月がゆっくりと立ち
上がろうとすれば、岩泉が俺がやるからと
彼女をそのまま座らせて珈琲を入れる姿は、
微笑ましくも少し羨ましい。


「ほら、松川。」


「おお、サンキュ。」


安定期を過ぎた美月の顔色は松川が前回
会った時よりも大分良くなっており、少し前
より膨らんだ美月のお腹を見て、こんな
にも会っていなかったんだなと実感する。


「美月を見てるとさ、妊婦さんってホント
人それぞれで違うのがよくわかるわ。」


「美月は悪阻がひでえ時からフルーツとか
酸っぱいものじゃなくて、ハミチキ若しくは
かりゃあげくんだもんな。」


「そんな早い段階から京谷いんのかよ。」


「松川ヤメロ、想像するだろーが。」


『んー、味が濃いもの欲しくなって。
松川さんが作るカルボナーラもいいな。』


そう言いながらハミチキの袋を破って、美月
がそれを美味しそうに頬張ると、作ってやろ
うか?と松川が聞けば、岩泉が「塩分。」と
一言発するだけで、彼女の肩はビクッと跳ね
ていた。


『今のところ、順調ですので。』


「後で浮腫んで辛いのはお前だからな?」


彼女は食べかけのハミチキをテーブルに置く
と、カタカタ震えながら報告書の様に岩泉に
母子手帳を提出すれば、彼からは良しと許し
を貰ってホッと胸を撫で下ろす。


トレーナーがいたら最強だなと松川は彼女が
置いていたハミチキを差し出せば、嬉しそう
に齧り付く姿は変わらず、 癒しになって。


目を細めて彼女を見ていれば、岩泉は不服
そうに松川の顔を少し睨むように見ていた。


「そういえば、性別ってもうわかんの?」


『うん、もう分かってるけどハジメにも
皆にも内緒。…というよりも、これ
ばっかりは最後までわかんないみたいです。』


「美月そっくりの女の子だったら、デート
しなきゃなー。」


「うわ、初恋相手の子供までもを誑かす気
かよ。及川、怖っ。そしたら、速攻通報して
やるわ。」


「マッキー、言い方!二人の子は自分の子供
のようだから、可愛がりたいの!」


「うわぁ、キモ川…。」


「娘だとしたらお前らには指1本触れさせねー
からな。」




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