集った生活

彼らが一緒に暮らすようになったのは肌寒い、
温もりがほんの少しだけ恋しくなった季節で、
彼らは単純に生活費が安く済むといった理由で
集まり、特にこれといったエピソードも無く、
穏やかな生活は突然始まった。

その一軒家はお値段の安い物件だといっても特に
変な話も無く、見た目も全く問題のない綺麗な
平屋で、台所やお風呂、トイレはもちろん共同
スペースとなっていたが個人の部屋はそれなりに
広く、文句は無い。

所謂シェアハウスというもので皆が打ち解ける
のに時間はかからず、それは高校時代の顔見知り
で、かつては合宿という同じ屋根の下で寝泊まり
をした経験からか、相手の性格も分かっていた。

「黒尾、醤油取って!」

「んなもん、自分で取れよ」

『はい、醤油』

「美月さん、甘やかさないでください。
益々、木兎さんがダメになります」

「赤葦、朝から毒舌!!!」

「黒尾さん、今日は遅くなるので何処かで食べて
帰ってきますね」

『あ、私も同じく!』

「はいはい、了解」

その中で一人、牧野美月だけはその4人との深い
関わりは無く、唯一あるのは月島と少しだけ面識
があって、出身地が一緒という点のみ。

格安賃貸という言葉に惹かれて足を運んでみれば
見覚えのある眼鏡の青年と再会した後はすぐに
話が進んで、最初は抵抗のあったすっぴんを彼ら
に見せる事も意外と簡単にクリアして、現在に
至る。

本日は朝食兼お弁当係だった美月は最後に入れた
ウインナーを眺め、我ながら上手く出来たと達成
感を味わっていた。

「美月、タコさんにしてくれた!?」

『うん、ぼっくんのお願い通りにしたよ』

「小学生かよ」

「いくつになっても嬉しいだろ、タコさんは!」

『ついでに皆のもしたけど』

「黒尾さんもちょっと嬉しそうじゃないですか」

「美月も月島も弁当小さくねーか?それで足りん
のかよ」

「あ、スルーした」

木兎光太郎、黒尾鉄朗、牧野美月大学3年生。
赤葦京治大学2年生、月島蛍大学1年生。

それぞれ大学も学部も違って、不思議と年齢が
下がるのと共にその性格が落ち着いている事を
面白いと感じながら、目を輝かせる木兎に弁当
を包んで渡して、自分もすぐに身支度を整える。

洗濯や自室の掃除はさすがにそれぞれで行うが、 他のものは当番を決め、協力して行われていた。

「美月もツッキーも帰らないんなら、今日は
カップ麺でも許される?」

「出た、少食二人が不在の時の手抜き!」

「黒尾さん、俺は黒尾さんの味噌汁が飲みたい
です」

「その台詞、野郎に言われても全然響かねーわ。
つーか、やっぱり楽させてくれねえよな…」

夕飯の当番は黒尾だったようで、赤葦からの要望
に仕方がないと頭を搔く彼は冷蔵庫の中身を確認
して、そのまま一足先に彼は出掛けた。

そしてその次に赤葦、バレー部の朝練のある木兎
とそれぞれ家を出て、最後に月島と美月は途中
まで方向が同じなので、今日も戸締りの確認を
して、そのまま一緒に歩いて向かった。

「美月さんは、遅いって何時くらいなんですか?」

『んー、10時くらい。今日バイト入ってて』

「それなら僕の方が早いので待っときます」

『大丈夫だよ、待たせるの悪いから』

「また、黒尾さんがうるさいですよ?」

『うーん、月島君の迷惑にならないなら』

「黒尾さんの説教聞かされるよりはマシなんで」

黒尾の名前を出して、自分が心配だからと素直な
気持ちは告げないけれど月島の優しさが伝わる
その言葉に美月は微笑んで、『ありがとう』と
お礼を伝えると月島は顔を逸らした。

その後すぐ月島とは別れて自分の学校へ向かい、
朝の会話通り、バイトから上がると月島は店の前
でスマホを見ながら美月を待っていて、この季節
の夜はすっかり冷えきっていた。

『わっ、冷たい!』

月島はしばらく待ってくれていたのか、つい気になってその頬に触れるとそこはしっかりと冷えて
いて、いきなり彼女の手が伸びた事に驚いた彼は
「なっ!?」と声を上げると頬は真っ赤になった。

「どうして貴方は突然なんですか!?」

『ごめん、白い肌が更に白くなってるから心配
になって』

「そこまで待たされてもないですよ?」

『うん、いつもありがとう』

何度言われても聞きなれないのか、美月がそう
言って笑顔を向けると、彼はやはり顔を見せずに
先に歩き出し、彼女もその後を追い掛けた。

『コンビニ寄る?何か奢ろうか』

「甘いものが欲しいですね」

『もう、そこは素直なんだね。月島君の好きな
ケーキ置いてるかな?』

「帰って美月さんのココアも一緒だと最高ですね」

『君と一緒だと、体重が心配になってしまうな。
それよりも、ウチのかーさんがなんて言うか…』

「ふっ、母さんっ…!!!」

腕を組んで「虫歯になるでしょうが!!!」と怒り
出す同い年の同居人を目に浮かべて言った美月
の一言に月島も吹き出し、ついでに彼らのお土産
も買うかと結局立ち寄って帰宅すると、買い物袋
を見てテンションを上げる木兎が出迎える。

「おかえり…何それ、めっちゃ美味そう!」

「美月さんからです」

「美月、サンキュ!」

「わざわざ俺たちの分まですみません」

『いえいえ、皆で食べた方が美味しいかなと』

期間限定というフレーズに弱いらしく、つい予定
よりも買ってしまったスイーツ達に赤葦も嬉し
そうにして、1番に選ぶ権利のある月島は真剣に
迷い無言になっていた。

こんな時間にコーヒーを飲んだら眠れなくなる
からと、ご褒美ついでに自分に買っておいた
ハーブティーを棚から出して、月島は確かココア
だったと彼専用のマグカップに注げば、それを
見た黒尾は目を丸くさせる。

「ツッキー、こんな時間にそんな甘いものを
組み合わせたら虫歯になるでしょうが!」

叫んだ声に美月の運ぶ足は止まって、月島と目が
合うと堪えきれずに再び吹き出してしまい、突然
笑い出した月島と美月以外の三人はツボに入る
彼らを不思議に思いながら首を傾げる。

「ごめんなさい…かーさん、後でちゃんと歯を
磨くから」

「は?かーさん…?」

『ごめん…、実はさっきね』

笑いながら美月が説明すると、不服そうな顔を
する黒尾の横で納得して頷いて赤葦が答え、皆が
揃うとその当分は流行りそうなあだ名が飛び交う
テーブルは賑やかになっていく。

「成程。確かに、認めざるおえないポジション」

「母ちゃん、俺2個食ってもいい?」

「こんなデカいガキ4人も産んだ覚えねーよ」

賑やか過ぎるその空間が居心地良く、その中で
楽しそうに笑う美月は満足そうに最後に残った
プリンを手に取る。

それが彼らの日常、まだ自分の部屋には戻らず
しばらくその部屋だけが明るく灯されていた。




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