安心な関係?
「やっぱり、美月って全然すっぴんでも可愛いん
だよな」
お風呂上がりにリビングに向かえば、最初の壁を
簡単に崩した男がお世辞とは思えない口調でそう
言って、透き通った真っ直ぐな瞳とぶつかった。
最初に彼に見られた時も「本当にすっぴん?!」と
聞かれて悪い気はせず、それから何回も見ている
はずなのに、改めてまじまじと見られると目を
合わせられない美月は真っ直ぐ向けられた視線
から逸らす。
『クロ君、昨日の合コンの勝敗は?』
「頑張って盛り上げてみたものの空回りして惨敗」
『なるほど、頑張ったんだよね』
「ちょっと、傷を抉らないでくださいよ!
あー、美月には思った事が言えるのに!!!」
くるっと背を向けてテレビの前で転がって寛ぐ
黒尾に尋ねると、その答えにわしわしと木兎は
頭を掻き乱し、自分の失態に崩れ落ちる男の肩
を美月は哀れみの意を込めてポンと叩いた。
「何で喋らない赤葦がモテるんだよ!」
「黙々と食ってたら女の子にいっぱい餌付けされ
てたよな?」
「食べ放題、飲み放題は時間勝負なので」
『あれ、ぼっ君の後輩君も参戦するはずだった
から盛り上がったんじゃないの?』
「宮なら最初に木兎さんにボケを殺されて沈んで
ましたよ」
『あちゃー』
「ツッキー、その顔ヤメナサイ」
明日の弁当用の米を研ぐ赤葦が淡々と説明をし、
スマホを眺めていた月島もその手を止めて黙って
哀れむ目で見つめると、黒尾はこれ以上木兎が
落ち込み過ぎないように、月島に軽く注意する。
「あの冷たい目線で見てた女の子より今は何倍も
美月が眩しい!」
『慰めてもらいたくて突然褒め始めた感じ?』
「そうじゃなくて、本心がポロッと出たんだよ!
本心が!!!」
必死に訴える木兎を完全にスルーな赤葦は「明日
のおかずのリクエストはありますか?」と美月に
聞いて、彼女も赤葦に乗って『生姜焼き』と答え
始めると「やっぱ慰めて!」と木兎が嘆く。
『大丈夫、木兎君は十分面白いと思うよ?』
「大丈夫ですよ。滑ったのは木兎さんだけじゃ
無いですから」
「赤葦さん、それフォローになってないんじゃ…」
「昨日行った店の飯が美味かったから、赤葦は
機嫌がいいな」
『へー、そんなに美味しいんだ』
「今度また皆で行ってみましょう。ところで、
美月さんと月島は昨日どうしたんですか?」
『私達は家で二人でオムライス食べたよね』
「美月さんが作ったんですけど、絶品でした」
『昨日は贅沢に生クリーム使ってみたからだよ。
さすがに皆で食べる時は予算的に難しいかな?』
「そっちも美味しそうですね」
『2人だから出来た特別メニューなので』
「何かツッキー達の方が楽しそうだし!」
美月や赤葦の反応で慰めて貰う事をすっかりと
諦めてしまった木兎は、拗ねた表情で風呂場へと
向かい、しかし切り替えの早い彼は上がる頃には
機嫌は戻って、寧ろ上機嫌に変わっていた。
「反省会も兼ねて今度の休みにタコパしよーぜ!」
「反省会も何も、僕達は反省する点は見当たら
ないのに」
「身内で騒ぎたいだけだろうな」
「ツムツムも誘ってもいい?」
『私は誰が来ても構わないから』
「美月さん、後悔しないでくださいよ?」
突然思い立ったように発言する木兎に美月以外の
三人はあまり乗り気ではない反応を見せて、一人
張り切る木兎は「さすが美月!」と嬉しそうに彼女
にハイタッチをする。
早速、木兎は同じバレー部の後輩に連絡を取る
と、彼もその日は暇だったらしく次の休みの予定
は埋まった。
彼の立ち直りの早さに感心する美月は表情に出て
いたのか、褒めようとする前に黒尾に「調子に
乗るからダメ」と止められてしまった。
「へー、ルームメイトと仲良しだよな」
『皆、すっごく元気なんだよね』
「いいじゃん、若さがあって。羨ましいわ、若さ」
『あなたも同い年だからね。もっと輝こう』
そんな昨日の出来事を自分の隣の席で頬杖を付く
同じ授業を受ける予定の男、花巻貴大に話して、
遠い目で賑やかな美月の家を羨む彼は「俺、今
輝かせてみた」と瞬きをさせて彼女を笑わせた。
『良かったら、花巻も来る?』
「いや、その面子だとアウェイだから遠慮しとく」
『ごめん、やっぱりそうだよね』
「お前が楽しそうで安心だわ。一時期は嫁入り前
の娘が何を言い出すんだ?!とは思ってたけど」
『心配かけてごめん、父さん』
「いや、誰が父さんだよ」
高校からずっとクラスが同じだった花巻は、入学
した大学や学部まで同じで、腐れ縁の友人。
お互いの事情をよく知る彼らは、相手の恋愛事情
もよく知る間柄なので、これだと恋人は当分は
出来そうにないなと揶揄う花巻に、美月は顔を
顰めて彼を肘で突いた。
『彼氏は当分いらないかな。』
「まー、そうだな…休息も大事だろ」
『今の家だと怖い思いはしなくて済むから、
穏やかかも』
「そっか」
穏やかに笑う美月の顔を見たら、そう返事をして
顔を逸らす花巻は、彼女に先程言った言葉通りの
気持ちが半分、寂しさ半分の複雑な気持ち。
友人以上の感情を抱く彼は、彼女のルームメイト
に今のところ自分に似た感情を抱く人間がいない
事にホッとしたが、それと同時に自分にも進展が
ない事が確定して、心の中で泣いていた。
やっぱりあの時一緒に住もうって言っておけば、
いや言えるかよ。
この関係を壊す勇気がない為本心は言い出せず、
本日も何度か訪れるそんなが押し寄せて、不意に
視線を向けた先には、彼女のグループメッセージ
が目に入る。
「すみません、本日の特売セールを伝え忘れた
のでチェックお願いします。俺はバイトで行け
ない事を忘れてました」
「おひとり様一個まで系ね」
「ごめん、俺今日も練習で遅くなるわ」
『じゃあ、私バイト休みだから帰りに寄るね』
「俺、店で合流するわ」
『クロ君、何時頃行けそう?』
「ツッキー、既読スルーのところ悪いけど
君も参加ね」
「ちゃんと買って帰るので、別行動でお願い
します」
「美月チャン、デート楽しもうね」
デート!?やっぱり一緒に住むべきだったか!?
見るつもりなんて無かったのに、どうしても視界
に入ったら余計に気になってしまって、花巻は
見てしまったやり取りに目を見開くと会ったこと
の相手を勝手に想像して、不安を募らせる。
クスりと優しい目で笑う美月が気になって、授業
終わりにまた声を掛け、彼女のフォルダにある
写真を目にすると、花巻の胃痛が増してしまうの
は時間の問題だった。
「牧野、今度どんな奴と住んでんのか見せて」
『ん、見たこと無かったっけ?うん、この前の
飲み会でよければ…』
「!!!!?」
『…どうしたの、そんなに驚いて』
「烏野の眼鏡君が一緒って聞いただけで、油断
してたわ」