賑やかな来客

「どうも、お邪魔します!」

会って早々に「美人さんやん!彼氏おるん?」と
目の前のその男は饒舌に褒め言葉を並べ始め、
ビールの入った袋を持って満面の営業スマイルを
向けていた。

この家にいるムードメーカーとはまた違うタイプ
で、それに戸惑う美月がつい反射で扉を閉めよう
とすると、自分の速度よりも一つ上手の彼に簡単
に阻まれてしまう。

「おお…!胡散臭さで美月の心をシャットアウト
させたか!」

「ちょっ、黒尾さんにだけは言われとうない
んやけど!怪しい人間とちゃうから、とりあえず
入れて!?」

「美月さん、胡散臭いけどそれはウチに招いた
客人ですので」

「あ、ツムツムいらっしゃーい!」

『ツムツムってことは、噂の…!?
確かに、木兎君の後輩っぽい!』

「普段、俺はどんな言われ方されとんねん」

そんな初対面をルームメイトは楽しんで、玄関を
開けるようお願いした黒尾がその様子をニヤニヤ
と嫌な笑みを見せていると見届けた後に木兎が
やって来て、最後にちゃんと説明をした赤葦の
お陰で侑は入る事を許された。

『新しい美容の勧誘セールスかと思った』

グビッと一口手土産に貰った缶ビールを口にした
後に、美月は素直に侑の第一印象を述べて、それ
に「酷いな」と笑う侑は手際良くたこ焼きを焼いて
他の人のお皿の上に乗せていく。

「まあ、ここにいないタイプだからな」

「美月さんのいた学校も似たような人いません
でしたか?」

『そうだ…そういえばいたね』

「そんなくどいのに忘れるんですか?」

「赤葦君、俺の事濃いって思っとるん?」

『でもちょっと少しノリが違うかな?』

「ツッキーが知ってるってことは、そいつも
バレー部だったのか?」

「まあ、そんな所です」

『私はバレー部やってないけどね』

「え、バレー部と違うん?」

『うん、私は応援に付き合わされた事は何度か
あるだけ。そこで月島君は何度か見かけたかな』

「へー」

『試合観るのは好きだよ』

月島が上げた人物の顔をぼんやりと頭に浮かべる
美月は、その飄々とした態度を思い出した後に侑
の顔を見て比べて、やっぱり少し違うとたこ焼き
を口にした。

「ツムツム、これもう回していい?」

「アカン、まだ早い。ここに食いもんに喧しい
アイツがおったら、マジギレやで?」

「へー、さすが。仕込まれてんね?」

『喧しいアイツ?』

「ツムツムの双子の兄弟。」

『双子なの!?もう1人、同じ綺麗な顔の子が
いるんだ』

「美月ちゃん、めっちゃ褒めてくれるやん。
せやねん、あっちは地元おるけどな」

「美月、顔だけはって補足を忘れてる」

「黒尾さんはお口チャックでお願いします」

「稲荷崎の有名な双子なんですけど、やっぱり
知らない情報になっちゃいますかね?」

『えっと、牛島君なら分かるよ?』

「それ、もうジャパンやん。それくらいの方が
こっちは楽でええけど」

誰かに任せる印象だったのだが、侑は意外にも
世話を焼いてくれて、お互いのことを話して、
木兎と仲が良い理由も何となく分かってきた彼女
は、徐々に侑とも打ち解けてきた。

『そうだ、眠くなる前にシャワー浴びてこよ』

「次、入っても良いですか?」

「どうぞどうぞ」

程よく酔っ払って、まだ余裕があるうちにと立ち
上がって部屋へと向かう美月を侑は目で追って、
リビングから繋がっているそれぞれの部屋が気に
なったのか、さりげなく這って彼女の後について
行こうとする。

しかし次に入る予定の月島がそれを見つけ、一緒に部屋に入るのを阻止しようと年上に遠慮なく侑
の首根っこを掴むと、「ぐえっ!」と悲鳴が聞こえて驚いた美月が後ろを振り返り、倒れていた侑を
見て心配した。

『え、何!?どうした!!?』

「面白いくらいに分かり易く静かになりましたね」

「こら、レディの部屋を覗かない」

「だって、気になるやん!こういうのはお決まり
のノリといいますか」

「美月さんの部屋が気になったみたいで一緒に
入ろうとしてました」

『見るだけなら減るもんじゃないし、別に気に
しないけど』

あまりにも素直な侑を面白いと感じたのか美月は
笑い出し、彼女が躊躇う様子も見せずに扉を
開けるとそれは他のメンバーも気になっていた
らしく一緒になって覗き込み、シンプルなもの
だけが置かれたその部屋に『面白いものなんて
ないよ』と彼女は言って、自室の扉を閉めた。

『色気もない部屋なもので』

「俺は、美月の部屋の方が好き!」

『ふふっ、ありがとう』

「え、でもめっちゃ清潔感あって…ええと思う」

「へー、あんな部屋だったんだ」

「人の部屋見るのって、新鮮ですね」

「他の部屋も気になってきたわ」

「…えー」

各々が感想を述べた後は他の部屋も見学会をする
空気になって、渋々次は月島が部屋を開けて彼も
また整った最低限のものが置かれた部屋で、赤葦
や黒尾はまだ開けていないダンボールが置かれて
いたりと、美月もそれぞれの個性を段々と楽しみ
始めた。

そして最後に残った木兎の部屋になると、何故か
赤葦は顔を引き攣らせていて、皆がその扉を開く
前に「覚悟してください」と意味深な言葉を吐き、
侑はそれに怪訝な顔を見せて、ゆっくりとドア
ノブを回した。

「木兎…お前…」

「待ってください。まだここに来て半年は経過
してないですよね?」

「だから、言ったじゃないですか」

どうしたらここまで出来るのだろうと皆が考えて
しまう程に、足の踏み場のないその空間に侑は
絶句して、呑気に笑っている木兎は「一応、ここ
にこれはあるとかは分かってんだよなー」と頭を
掻きながら、皆に説明をする。

『また今度、赤葦君とお手伝いしなきゃかな』

「ちなみに、泊まる際は招かれた人間の部屋で
寝るのがルールですので。一応、寝袋も準備は
してあります」

「え、ちょっ…待っ…」

「大丈夫、ベッドはスペースあるし!」

「寝袋も洗ってるから安心しろ。前に使った奴も
ぐっすり眠れたって言ってたぜ?」

「前って、そうか。孤爪さんが帰るの面倒臭く
なったって泊まってましたね」

「そういう問題とちゃうって!俺は美月ちゃんの
部屋の方が…!」

「ルールはルールなので」

いつの間に!?と寝袋を手に持って侑にこの家の
決まりを伝える赤葦は、侑の要望もきっぱりと
断りを入れて、ニヤニヤと不敵な笑みを見せる
黒尾が「まあ、頑張って」と彼の背中を叩くと、
彼は崩れ落ちて「嘘やろ…」と呟く。

「美月さん、僕も早く入りたいので先にお願い
します」

『あ。そうだシャワー、シャワー』

美月がそれを許してしまうのを先に読んでか、
月島がひっそりと彼女に耳打ちをして風呂場に
行くように促して、自分も後からさっさと着替え
を取りに向かう。

美月がその場から姿を消したのもまだ侑は気が
ついておらず、「ツムツム、一緒に寝ようよ!」と
無邪気に笑う先輩の顔だけが、彼の視界に入って
いた。




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