出会って4時間

「あ、ほんまや。すっぴん変わらん」

「なっ、言っただろ!?」

リビングに戻ると彼らはトランプで大富豪をして
いて、第一声に自分を見て素直な来客の感想は
最初に見た時のような胡散臭さは無く、彼の言葉
は本音だと思えた。

ぽつりと小さく呟いた彼の一言に美月はさすがは
木兎の後輩だと心の中で感想を述べ、美月不在の
間でも話題は彼女の事で盛り上がる。

何故か風呂上がりに再び登場した彼女を見た侑の反応に嬉しく木兎がそれを自慢し、美月は照れ
臭さより彼らの面白さの方が勝ち、笑い出した。

『何で木兎君が嬉しそうなの?』

「だってツムツムが「風呂から出たら誰か分からん
かもしれへん!」って言うから」

「ちょっ、何でそこも言うねん!」

「途中で美月さんがいない事に気付いて、トイレ
に行く振りをしてお風呂も覗こうとしたんです
よね?」

彼女の姿の不在時、トイレにいった侑は通り道の
風呂場から聞こえてきた水音が耳に入って、色々
な想像力を膨らませる。

決して覗くつもりなど無かったのだが、その音に
聞き入ると足も自然とそちら側に沿って歩き、彼
はつい立ち止まってしまった。

「メガネ君、それは濡れ衣!誤解やから!」

タイミングが悪い事に侑の次にトイレへと行こう
としていた月島と遭遇してしまい、月島に勘違い
をされたままの説明をされ、侑は慌てて弁解する
ものの、月島は聞く耳を持たず風呂場へ向かう。

「覗いたら出禁だからね」

「覗いてへんし!やから、赤葦君もその軽蔑する
目を向けるんはやめて?!」

隣でガッシリと肩に手をかける黒尾の向かいでは
一言も発さず冷ややかな視線を送る赤葦がいて、
侑はその眼に怯える中、月島の手札を交代で受け
取っていた美月は我関せずのご様子だった。

自分の手元にある数字を真剣な表情で確認中で、
隣にいた黒尾がカードを出すと少し悩みながら
次にカードを置き、きっとこの勝負にはお楽しみ
が待っていると考える彼女は黒尾に尋ねる。

『これ、なにか掛けてたりする?』

「うん。負けたヤツは近所のスーパーでこの後の
お酒の補充の買い出し」

『えっ、まだ飲むんだ』

「今日は盛り上がらねーと!」

「待って、逆に無関心過ぎても傷つくんやけど」

『好奇心旺盛なだけだもんね』

「好奇心旺盛で片付けていい内容でも無いような」

「赤葦、ダジャレ?」

「…っしゃ、上がり!」

『ええーっ、もう!?』

「ほらほら君タチ、後は頑張って」

手札が無くなり余裕の態度を見せる黒尾の言葉で
焦る残りのメンバーは口数が減り、美月、赤葦、
木兎と順番に上がっていくと、最後に残ったのは
侑だった。

「これ、みんなの欲しいもの書いておいたから」

「俺、客やのに!!?」

「まあ、ルールはルールだから」

「え、まあまあ量あるんですけど?」

嘆く侑に遠慮無く赤葦は買い出しのメモを渡し、
ニヤニヤと笑いながらそう説得する黒尾も、侑の
反応を面白がってビールを片手に心のこもって
いないエールを一緒に送る。

肩を落とす侑を少し不憫に思った美月は、彼と
一緒に出かけようとしたのか自室からパーカーを
持ってきて羽織り、エコバッグを片手に持とうと
していた。

彼と一緒に行こうとする彼女の行動に誰よりも
驚いて、目を丸くさせていたのは侑だった。

「えっ?」

『欲しいものが思いつかないから見て決めたい。
…あれ、行かないの?』

「いや、行きます!」

先程まであれほど賑やかだったその男はコンビニ
に到着しても静かに歩き、時折隣に並ぶ自分より小さな影を気にした。

『あ、私が来るのは不服だった?』

「いや、そんなんや無くて!…いや、自分は俺
みたいなタイプ苦手やって思うとったから」

『苦手か…。最初は勢いにビックリしただけ
だったからな』

そして、美月の方から話掛けて来るとは思わな
かった侑はその質問に動揺を見せて頭をかき、
二人の時だとまた違った態度を見せる彼を見て
彼女は笑う。

『侑君のいじられキャラな所嫌いじゃないよ?』

「いじられキャラとちゃう!普段は逆側やから!
どちらかいうたらめちゃめちゃSやから!!!」

くすくすと肩を揺らす美月弁解する侑は何故か
必死そうにして、それが更に可笑しくなる彼女は
分かったからと彼の腕をポンと叩いて宥める。

『うんうん、とりあえずこれ買うんだっけ?』

「絶対聞いとらんやろ」

『ねえ、このお菓子美味しそうじゃない?』

「ほんまや」

初対面は自分が押していたのに、時間が経てば
立場逆転。
自分の話から店に置かれている新商品の話題で
盛り上がって、気がつけば帰り道を歩いていた。

大量の荷物は侑が両手に抱え、一つは美月が
受け取ろうとすると、侑に拒まれる。

『ありがとう。クロ君が言ってた通り、宮君って
優しいし面白いね』

「多分その面白いは俺の言って欲しい面白いと
ちゃう奴やな。」

調子が狂う侑は、照れ臭さで口を尖らせた後に
すっかり彼女のペースに流されていた事に気が
付き、ハッと動きを止めた。

「あー、俺はそっち側とちゃうのに」

『そっち側?』

どちらかといえば自分のペースに巻き込む側の
はずが彼女といると調子が狂う模様で、突然頭を
抱え始める侑を想像よりも面白いと感じる美月は
益々興味深そうに観察する。

「その見透かした目、ほんま止めてー!」

『そんな恐ろしい女じゃありませんて』

掌を盾にして嘆く侑に困った顔で笑い返すと、
美月を呼ぶ見覚えのある大きな影が走ってこちら
に近づいて、出迎えてくれる意外な人物に侑も
美月も目を丸くする。

『月島君、湯冷めしちゃうでしょ。黒尾母さんに
また怒られちゃうのに』

「それはお互い様ですよ。それよりも侑さんに
変な事されてませんか?」

「するわけないやん!」

「あー、そうでした。意外と慎重ですもんね?」

無事なら何よりとすぐに背を向ける月島は抱えて
いたストールを美月に掛けると、意外な行動を
目の前で見た侑は不思議そうに口を開いた。

「メガネ君、めっちゃ優しいやん」

「美月さんに風邪引かれたら困るので。
それに、僕のお願いしていたものは通っていたか
も確認したかったし」

『大丈夫、月島君のもあったよ。あとこれ、好き
そうな新作も発見』

「ありがとうございます。すみません、美月さん
を信用してなかった訳では無いんですけど」

「そんなん、電話でええやん」

「二人共、スマホを家に置きっぱでしたよ」

「『あ…』」

「てっきり、侑さんが変な事考えているのかと」

「知人のルームメイトには変な事せんわ。
てか、メガネ君にしめられる程ヤワとちゃうし」

「黒尾さん達は意外とヘタレだからって言って
ましたけど」

「それはそれで腹立つな」

無事で良かったと一息吐く月島は、両手に持つ侑
の荷物を見て見ぬふりをして先に歩き出し、それ
を指摘する侑の声は彼には届いておらず、月島は
振り向きもしない。

それを見兼ねた美月が侑の荷物を持とうとすると
「それは違うねんて!」と拒み、結局彼はシェア
ハウスまで荷物を運ぶ羽目になってしまった。

「だって、罰ゲームにならないじゃないですか」

「自分、こっちが先輩て自覚ある?」


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