更に賑やかな客

家を出てからはしばらく沈黙が続き、さすがに
客人二人を突然強引に連れ出したのは失礼だった
かと反省する美月が謝ると、二人からは思わぬ
言葉が返ってきた。

『ごめん、さすがに初対面同士は嫌だった?
無茶振りすぎたね』

「いや、別にそんなん全然気にしとらんって!
俺、美月ちゃんとの買い出し好きやし」

「そうそう、牧野ちゃんとお買い物なんて初めて
だし、こっちは寧ろ嬉しいっての。何より久々の
日本のスーパー!」

彼女が顔色を伺えば、揃って謝罪など必要ないと
フォローの言葉が返ってきて、反発しあっていたはずの二人の意見は見事に一致する。

しかしそのまま仲良くなる程甘くは無く、再び
相手の意見は鼻につくといった様子で、互いの
意見を鼻で笑い合う二人は再び反らし、挑発
めいた口調で話しかけ始めたのは侑からだった。

「ところで及川サンって美月ちゃんと買い物に
行った事無いん?」

「何?その顔」

「あっ、意外とそんなもんなんやな」

「そんなもんって…!別に買い物に行ったこと
無くても、こっちのが付き合いは長いから」

「信頼度に期間の長さなんて関係無いやろ」

「そう?そっちこそ、牧野ちゃんの見てない姿
がまだまだあるでしょ」

「すっぴんの美月ちゃんも?」

「そんな事でマウントとっちゃう?すっぴん
どころか寝顔だってこっちは見たけど?」

「そんなん高校生の時やったら皆ほぼすっぴん
みたいなもんやん。風呂上がりまでは知らん
やろ?」

「そんな姿ならこれから見れるだろうけど、
一生懸命応援してくれてた姿とかは見た事無い
でしょ。可愛かったな。クールな美月ちゃんの
必死な顔」

「それこそ今度俺らの試合見てもろうたら、
いくらでも見れるやろ」

「あ、そっか。まだ試合とか来てもらったこと
ないんだね」

侑に負けじと及川が嫌味混ざりの爽やかに笑顔を
返せば、侑も目の奥は笑わない笑顔で返し、それ
を静かに見届けていた美月は、やっぱり彼らは
似た者同士だったかと納得をして、一緒に歩く。

どちらの意見ともに彼らだけが目にしたものでは
無いのだが、それを指摘するとまた面倒だろうと
考える彼女は、あえてスルーして彼らの会話の
終わりをを待っていたが、それはスーパー到着
まで続いてしまった。

『宮君も食べたいものあったら遠慮なく言って』

「え、俺のリクエストも聞いてくれるん?」

『うん、同じお客様だし可能な範囲なら』

「せやな…。今考えたけど美月ちゃんが作って
くれるもんなら何でも楽しみやわ」

カートを押してしばらく陳列されたものを眺め、
せっかく来てくれたのだからと侑にも彼女はそう
声を掛けると、しばらく悩んだ後に笑って答える
侑にそれが一番困ると笑って返せば、自分とは
あからさまに態度が違う彼を見て、及川が顔を
顰めて指をさす。

「牧野ちゃん、この爽やかな笑顔には裏がある
から絶対に騙されないで!?」

「なあ、そのままその言葉そっくり返しても
ええ?」

『とりあえず何でもいいが一番困っちゃうから、
一つでもいいから案を出して欲しいな』

段々と二人のペースに慣れてきた美月は、及川の
指を下ろして自分の買い物のペースを続行して、
彼らも彼女のお願い通りに一つ思いつく食べたい
ものを挙げた後に、他のメンバーの好きな物も
忘れずにきちんと追加していく。

そして買い出しは美月の誘導通りにスムーズに
進んで三人が賑やかに帰ってれば、ニヤニヤと
笑った黒尾がまず最初に彼らを出迎えた。

「おかえりというか、おつかれ?」

『二人がこっちが会話に入れないくらいに仲良し
になっちゃって困った困った』

「「どこが!?」」

「似た者同士、意気投合したって事で」

帰り道はどちらが多くの荷物を持てるかで張り
合って、二人が両手いっぱいに袋を持ち始めた
と美月から二人の事情を聞いた黒尾が楽しそうに
そう言うと、及川と侑は声を揃えて反発し、黒尾 は「息ピッタリじゃん!」と更に笑う。

帰っても一息着く前にやる事のある美月は腕を
捲り、すぐに台所へと向かう。

『さて、これからひと仕事しますか』

「美月さん手伝います。そういえば及川さん達に
変な事とかされてないですか?」

「出たその質問。俺二回目」

『荷物持つって言っても聞かずに全部取られて
寂しかったくらいかな?』

「女の子に重いもの持たせるわけないでしょ!
あと、メガネ君も俺達の事疑い過ぎ。ここまで
潔白な男はいないから」

楽しそうに観察をする黒尾とは反対に、厄介な男
二人と一緒に薄暗い道を出た事を心配していた
月島はすぐに美月の元へ駆け寄ると、さりげなく
侑と及川だけに冷ややかな視線を送り、そのまま
背を向けて彼女の傍に立っていた。

「この家はさ、年上に冷たくするルールでも
作ってんの?」

「それは、及川サンに敬う部分が無いんと
ちゃいます?」

「いや、今のは君にも同じ目をしていたね。
俺よりもそっちの方が胡散臭いし」

「キミ達、目糞鼻糞を笑うってことわざ…
知ってる?」

「目糞じゃねーし!」「鼻糞ちゃうし!」

飽きずに二人の揃う言葉が聞こえた美月が堪らず
吹き出すと、月島は「面白いですか?」と呆れた
声を向け、洗った野菜を月島に手渡された彼女は
頷いて包丁で手早く切る。

『だって出会って数時間で意気投合し過ぎじゃ
ない?』

「ずっとこの調子かと思うと勘弁して欲しい
ですけどね」

『まあまあ、この後美味しいデザートも用意
してますから。及川君、意外と甘党だから結構
スイーツにも詳しいよ?』

ピクっと嬉しさで動いた月島を素直だと美月は
また笑って、香ばしい匂いがしてくるとそれに
釣られた木兎は台所へ顔を覗かせた。

「美月、何作ってんのー?」

『揚がってるか味見する?』

「それ、唐揚げじゃん!いつの間に!?」

『冷凍ストックを今日ちょうど使う予定だった
ので』

「今ここで食べたら、木兎さんは一つ我慢
ですけどね」

「ツッキー、辛辣!」

『大丈夫、他にも作るから』

揚げたてを半分に切ったら、それぞれを二人に
食べさせた後で反応を待って、今回も嬉しくなる
彼らの表情に満足する美月は残りのものも作り、
合間に味見をする月島の姿が目に入った及川は、
珍しい彼の姿に驚きの声を上げる。

「待って。今牧野ちゃんにあーんされて
なかった!?」

「こっちは両手が塞がってるので」

『月島君、味の感想が的確で助かるんだよね』

「て事は、いつもしてるって事!?」

「ご想像にお任せしまーす」

及川にだけその嫌な笑みを見せた月島は、すぐに
美月の前では普段と変わらぬポーカーフェイスに
戻り再び美月の手伝いを続けた。

「本当だ。確かに面白いですね」

『ん?』

「いや、こっちの話です」

「牧野ちゃん、本当にここで暮らしてて大丈夫?」

「オイカー君、残念ながら君もこっち側」

口角をあげてガッシリと黒尾に肩を掴まれて
ここに来てしまった事を後悔するのも時すでに
遅し。

唯一の希望は、招いてくれた人間の部屋に泊まれ
るという美味しいルールを彼女から聞かされた事
だけだった。

『及川君、花巻からメッセージ届いてる。
岩泉君と花巻が迎えに来るらしいからコンビニに
今すぐこいって』

「まさかの逃げ場無し!?」

「いや、迎えがなかったにしろ間違いなく木兎の
部屋に仲良く突っ込んだけどな」

「え、俺もせまくなってとばっちりやったやん」

「そこは黒尾さんの部屋じゃないんですね」

『赤葦君はずっと今日は静かだね』

「巻き込まれたくないので気配を消してました」




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