冬休みの一コマ

それは、名前達が2年生の冬休みのこと。
受験に向け、上級生もバレー部の練習に顔を出さ
なくなり、羽根を伸ばした気持ちで練習を行えた
彼らは体育館や部室の大掃除も終えて、待ちに
待った年末休みを迎えようとしていた。

「帰りに今年最後のファミレスでも寄らね?」

「苗字の好きな期間限定のいちごパフェ確かあったな」

『え、すっごく行きたい!』

「お前、この寒い中食えんのかよ。腹壊すぞ?」

「じゃあ、及川さんが名前と半分こしようよ。
…ってホント!名前、冷たくなってんじゃん!」

及川達が着替え終えるのを待っていた名前は
マフラーをしっかりとぐるぐる巻きにしていても
鼻を真っ赤にさせ、彼女の頬に触れた及川は驚く。

その冷たさに及川は叫ぶが、名前はその寒さは
全く関係ないといった様子で、花巻や松川の提案
には目を輝かせた後で、岩泉や及川の指摘に不満
そうな顔を見せた。

『水道水でボトル洗っても平気だったから、
楽しかった部活最後に大好きなものが食べたい』

「ぎゃっ!分かったからその冷たい手を首の中に
突っ込まないで!?」

「はいはい、行きますよー」

手袋を外して彼女が触れると、再び襲って来た
冷たい感覚に及川は悲鳴を上げ、名前を宥める形
で花巻は背中を押し、結局彼らはファミレスへと
向かう。

運がいい事に彼らが到着と同時に満席となり、
向かいに座る松川は期間限定と書かれたメニュー
表を名前に渡し、真剣に悩む彼女の横で岩泉は
「その前に飯を食え」と甘やかさずに指摘した。

『大丈夫、ご飯は決めてるから』

「食い過ぎて腹壊すなよ?」

「岩ちゃん、さっきからそればっかり」

「今年こそマリカは勝つ。万全の体調で臨んで
貰わねーと。」

「お前らは正月早々に会ってんの?」

どこまで仲がいいんだと苦笑いをうかべる花巻に
不思議そうに首を傾ける名前は「腐れ縁かな?」と
答え、岩泉は何かを言いたそうにむずむずと口元
を動かす。

「はいはい!その場に俺だっているんですからね?」

「今年はどうすっかなー。貴重なオフタイム」

「初売りに行くべきか、ゴロゴロテレビを見ながら
寝るべきか」

「え?俺の事はスルー?」

手を挙げて自分もいると主張する及川の言葉は
聞かないまま、ペラペラとページを捲る花巻は
年明けの予定に話題を変えて、その提案に悩む
松川も頬杖を付く。

会話に置いてけぼりの及川が少し拗ねた様子で
唇を尖らせると、顔を覗かせた名前は「徹にも
マリカは負けないから」とはにかんで、それに目を
細める及川は「こっちも手加減ナシだからね?」と
嬉しそうに答えた。

「早く名前の作った栗きんとん食べたいなー」

「苗字、おせちも作んの?」

『うん、一応。親の手伝いする程度だけど』

「えー、普通に食いたい」

「ふふーん、いいでしょ」

「その顔腹立つヤメロ」

「何で一緒に食べる岩ちゃんが一番怒ってんの?」

のほほんと正月の楽しみを口にする及川の表情が
気に入らないと顔を歪ませる岩泉の向かいには、
松川が呆れた顔を見せ、花巻は無言で及川のお皿
のおかずを横取り八つ当たりをする。

「ちょっとそれメインじゃん」

「苗字の飯食えるんだからこれ以上の贅沢は無い
だろ」

『だから、そんな大したもの作れないってば』

賑やかになる彼らを楽しそうに笑って眺めている
と、突然彼女のスマホに着信があって、その声の
持ち主の切羽詰まった様子に名前は心配をする。

「名前さん、明日か明後日の夜って空いてますか?」

『今のところどっちも大丈夫だと思うけど』

「すみません、助けてください」

『もしかして助けてくださいって…』

二つ年下の電話の相手は受験生で、本番まで残る
時間はあと僅か。
毎度言葉足らずで相談をしてくる中学校時代の
後輩、影山飛雄からの電話に困った顔で笑う彼女
は嫌な予感しかしなかった。

『うん。そしたら明日様子を見に行くからね』

「ありがとうございます!」

電話の様子で勘がいい及川はその相手が分かって
しまったのか、せっかく楽しい予定を思い描いて
いたのにと邪魔が入ったと不服そうに唇を尖らせ、
「どこまでお人好しだよ」と小さく呟く。

「電話、どうしたんだ?」

『うん、中学校時代の後輩が勉強教えて欲しい
って』

「苗字、後輩の勉強も見てるのかよ」

『うん。あ、花巻の英語の課題のノート今貸す
約束してたよね?それとも終わった?』

「やべえ…忘れてた」

『思い出して今日持ってきておいたんだった』

「サンキュ、助かる」

「マッキー、名前に頼りすぎ!」

「及川こそ、この前教科書借りてただろ」

『徹は、化学貸してって言ってなかったっけ?』

「…すみません、貸してください」

『はい、後で家で渡します』

「お前が言うか」と冷たい視線を送る岩泉を宥めて
もうしばらく年末の手伝いの前に名前の手伝いは
続き、彼女はその前の自分へのご褒美だと嬉し
そうにパフェを注文する。

「課題のお礼に名前の好きなダッツ奢るね」

『えっ、それ本当!?』

「じゃあ俺は年明けに」

「マジで腹壊すぞ?」

「岩泉は苗字の腹ばっかり心配しているな」

まだその年の終わりを迎えてもいないのに花巻と
及川が声を揃えて「来年もよろしく」と頭を下げ
始めるので、こちらこそと笑って返す彼女は来年
もこのメンバーで楽しく過ごせる事を願った。










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