「晴れて名前が大人になれたという事で。では
改めて、おめでとう」
『ふふっ、ありがとうございます』
本日祝って貰っている主人公は北の乾杯の音頭に
嬉しそうに笑って答え、グラスの中にはいつもと
違う炭酸が入り、先輩に少し近付けた気がする。
目を輝かせてしばらくそれを眺めた後、初めての
その味を口にした名前は味は好みかもしれないと
感想を口にして、緊張のせいかまだ普段と感覚は
変わらない気がした。
「名前が飲んどるのはジュースとあんま変わらん
からな」
「最初から強いもん飲ませたら危ないやろ。体質を
よう知ってからやないと」
名前の向かいで再びビールを口にした尾白の言葉
に北が真剣な声で返し、赤木、大耳も北がいたら
安心だなと頷いて、変わらない空気を微笑ましく
見守る。
名前が成人を迎えた初めての年明け、未だにお酒
のデビューを果たせていなかった彼女が安全に
飲めるようにと開かれた新年会にはお馴染みの
先輩達が揃い、もちろんその中に治もいた。
ただ、今回はその場にいたら賑やかな侑の姿や
彼女のイベント事になると必死になる角名の姿は
無く、治は至って平穏だと幸せそうに店の料理を
口にして、名前の隣でニコニコと笑顔を向けていた。
『侑さんも角名先輩も来れなくて残念でしたね』
「おお、なんか新年の番組に呼ばれて来れへんって
言うとったわ。新人バレー選手対決みたいな…」
「それ、見てやらんでええの?」
「放送は明日なんです」
『じゃあ、見てあげなきゃですね!』
侑の不貞腐れたモノマネを始める治を見た尾白が
「目に浮かぶわ!」と笑い出し、噂をすれば名前の
スマホはビデオ通話の着信が鳴り始めた。
「名前、あけましておめでとう」
『あけましておめでとうございます。侑さんに
会えなくて残念です』
「名前〜〜〜!帰ったら嫌っちゅうほど拝ませ
たるからな?!」
『お疲れ様会しましょうね』
ホテルから掛けていると説明する侑に頑張って
くださいと応援する名前が微笑み、それに釣られ
る侑も目尻を下げると、そのやり取りが面白く
ない治は、侑を甘やかす必要なんて無いと二人の
間に入って口を出す。
「お前、可愛い後輩の食事を遮んなや。せっかく
美味しそうに食っとったのに可哀想やろ!」
名前が自分の画面から消えて同じ顔が映った瞬間
侑の眉間に皺が寄り、そこからすぐに口喧嘩が
始まる彼らはいつも通りで、スマホからは侑の声
が響いていた。
「あ?お前がさっきからブロックするから名前に
掛けたんやろが!無視すな!!!」
「新年早々、喧しいもんの相手とか普通しとうない
やろ」
「こっちは新年早々仕事て可哀想な身分なんやから
同情せーや!角名!お前も何か言うたれ!」
その場には角名も一緒にいたようで、カメラを
向けられた角名は面倒臭そうに顔を上げ、巻き
込まれたくないと言った様子で顔を顰める。
角名が呼ばれているのが聞こえた名前は再び治の
隣に顔を覗かせて、『先輩?』と彼女の声が耳に
入ると素早く侑のスマホを取り上げ、その声に
返した。
「…名前、あけましておめでとう」
『あけましておめでとうございます、角名先輩』
「行けなくてゴメンね。今度は絶対に顔出すから」
『先輩に会えるの、楽しみにしてますね!』
スマホ画面だと少し照れ臭さが半減するのか 名前の
言葉に目を細め、その後の彼女は他の先輩とも
会話をしたいだろうと尾白達に画面を向ける。
「角名、あからさまに嫌な顔したやろ!」
「そんな事無いですよ。楽しそうだなと思って」
「心配せんでも、名前を飲ませ過ぎたりはせんから」
「北さんいたら大丈夫って分かってるので。
侑がそこにいたらアレですけど」
「俺、そこまで信用されとらんの?」
「日頃の行いやろ」
「まあ、お前の分も食うとってやるから安心し」
美味しそうに料理を口にする皆の姿を「ずるい!」
と侑が嘆くと赤木や尾白が楽しそうに笑って、
先輩の冗談にクスクスと笑う名前が二杯目のグラス
に口を付けると、徐々に頬は赤く染まっていく。
「少し、緊張が解けて来た?」
『みたいですね、少しだけふわふわとしてきた
気がします』
「名前、残り飲めそうに無かったら無理せんでも
ええからな?あと、飯もしっかり食うとき。」
『ありがとうございます』
少し様子が変わってきた名前を心配してひっそり
声を掛けた治は、蕩けたその表情に「可愛い過ぎ
やろ」と率直な感想を漏らし、たまたま一緒にその
姿を目にしてしまった北は、表情を変えずに平然
を装い、黙々と彼女のお皿に料理を乗せる。
「お酒回りすぎんように、しっかり食べとき」
『北さんもありがとうございます。ここのお店、
すっごく美味しいですね』
「名前、お酒に慣れるまで友達と行くのは先に
しような?」
「あちゃー、過保護モード増しとる」
『まだ大丈夫なので、食べます!』
料理と共に名前が責任を持って飲むと口にした
グラスが空になった後、コツンと寄り添っていた
その身体は大切そうに隣の腕を抱き締め始め、
彼女らしからぬ行動に周りは騒然とし、その腕の
持ち主は目頭を押さえ始めた。
『先輩達が大好きや』
「そんな可愛いらしい酔い方とは思わんかった…」
「アカン、治が嬉し泣きし始めてしもうた!」
「名前、酔うたら甘えるタイプやったんか!誰か
水や、水…!」
「はあー!!?サム、変われ!!!」
「まだ切っとらんかったんか。…って、角名!
瞬きせえ!!!」
その初めて目にする光景に騒がしくなる時間は
まだ続き、治のメッセージアプリには角名から
大量のクレームが届くのだった。
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