新年会

『ただいま』

「「「おかえりー」」」

「…戻りました」

年末年始はそれぞれが自分の故郷へ戻り、年明け
の三が日を過して戻ったその日。
一緒に帰るルームメイトがいたせいか、それとも
帰る家には明かりが灯されているからか、家族と
離れた寂しさはその声に紛れていた。

賑やかな出迎えメンバーに名前は目を細め、その後ろ
ではそっけない挨拶も聞こえてくる。

「ツッキー何か大きくなった?」

「そんな数日で身長なんて伸びません」

『私も大きく見えたのに』

「名前さんまで…」

「のんびり実家で過ごせましたか、お二人さん?」

『お陰様で。東京組の皆様は?』

「こちらこそ、お陰様で」

お互い積もる話はリビングでと移動して、赤葦が
お茶を入れようとしたので名前も手伝おうとする。

月島と一緒に選んだお土産をお供に口にするそれ
は不思議と心も温まって、帰ってきたのだと実感
した。

「これ、ウマ」

『でしょ?前には無かった新商品って言ってたん
だよね』

「定番の味と迷いましたけどね」

「なーんか、デートみたいで楽しそうだな!」

『ふふっ、楽しかったよね』

「楽しかったですね」

「木兎さん、自分から話を振っておいて拗ねないで
ください」

「俺もデート…したい」

『明日の買い出しをしなくちゃいけないから
お出かけする?』

「する!せっかくみんな戻って来たんだから
明日は新年会しよーぜ!」

もう少し冬休みを満喫予定の彼らはそう決めて
翌朝を迎え、張り切った木兎と名前はいつもと
違うルートを狙って出掛ける。

『ぼっ君と出かける時って、お買い得品に当たる
確率高いから嬉しくなっちゃうよね』

「俺はツイてるからな。荷物持ちも任せろ」

『ふふっ、頼もしい』

「だろ?」

誇らしげにする木兎に名前は笑って、本当に今日
は高級な肉でも買えてしまいそうだと考えている
と黒尾から一通のメッセージが届いた。

黒尾の指示通りのものを買って家に帰って来る
と、自分達の買ってきたものよりも豪華な食材が
キッチンに置かれてあり、木兎と彼女は驚いて顔
を見合わせる。

『凄い。そのブリ、どうしたの?』

「研磨クンがどうやら持ってきたようで」

『まさか買ってきたの?!』

「気になって取り寄せてみた。クロに捌いて貰おう
と思って」

「孤爪さんって時々大胆なことしますよね」

「さすがに慣れてきたけど」

『慣れるものなの?』

「やった!ブリしゃぶしようぜ!」

それを持ってきたの本人はリビングで寛いで黙々
と携帯ゲームをし、先にそれを見ていた月島と
赤葦は驚く様子も見せずに孤爪同様リビングで
寛ぎ、何処から入手したのかは誰も深くは尋ね
ない。

更に付き合いの長い黒尾は、それに怒り出す事も
無く、暫くそれを眺めた後に仕方ないと苦笑いを
浮かべて腕を捲った。

『クロ君、すごく手際いいね』

「まあ、好きだからね…魚。ほら、釣りとかも
行くから」

『そうだったんだ。知らなかった』

「最近行ってねえからな。道具も実家にあるし」

そして、流しで隣から浴びる尊敬の眼差しが妙に
照れ臭い黒尾は、「ミスるからあんま見ないで」と
付け足しながらも、名前の言葉通りの慣れた手で
大きなブリを捌いていき、名前の役目は盛り付け
と鍋の具材を切るだけと簡単な作業だけだった。

『クロ君の新たな一面を発見』

「魚だけな。あとは名前の方がやっぱり美味いよ。
これ、ちょっと味見する?一番美味いとこ」

『本当に美味しい!』

メインディッシュはほぼ黒尾任せで仕上がった
テーブルにはお正月並みに豪華になっていき、
再び名前が目を輝かせて黒尾を見ると、その反応
は慣れていないと視線を逸らして頬を染めた。

『そんな事ない。今年はクロ君から学ぶ事が
増えそうだな』

「いやいや、こちらこそ」

乾杯と共にそれぞれが美味しそうに食べる姿を
見ると黒尾は満足して目を細め、隣でお互いに
掛け合った労いの言葉と共に注がれたビールを
口にすると、自然と満たされた気持ちになった。

「ほんま、脂が乗っとって最高」

「ちょっと待て、お前はいつの間にいたんだ」

「ここに遊びに来たら美味いもん食える気がして。
一応挨拶したのに誰も気付かんし」

「気がついたけど、まあいいかなって」

「いや、いいかなじゃねえし」

「眼鏡君も目が合ったのに無視しとったで?」

「ツッキーも」

当たり前と言った顔でその輪の中に入って座る侑
は、以前泊まってからすっかりここが気に入った
模様で、何かを嗅ぎつけてここへとやって来て、
自然と7人分の小皿を出していた名前は違和感が
無かったと目を丸くさせ、侑を見る。

『おかえり宮君、こっちに帰ってきてたんだね。
すっかり馴染んでるから何も思わなかった』

「ただいま名前ちゃん」

「名前さん、この人は甘やかしたら調子に乗るので
程々にしてください」

「そうですね、赤葦さんに同意します」

「二人とも新年早々冷たいなー」

一応手土産もあると彼の地元で有名なスイーツを
侑が見せると月島や赤葦の態度は変わり、黒尾が
「現金だな」と呆れた顔を見せる。

「そういえば実家にあった人生ゲームがあったん
ですけど、皆でします?」

「コマが足りなくね?」

「消しゴムに爪楊枝ぶっ刺しとけばよくね?」

「雑やな。消しゴムの気持ちになったげて」

「僕、審判するんで抜けでいいです」

「月島君は面倒臭いだけデショ」

あっという間に片付いてしまう皿や鍋の次に、
テーブルの上広げられる物は決まっていて、赤葦
の提案にここからが本番だと張り切る木兎は自ら
片付けを率先する。

「普段からそれだけ片付けも積極的だといいん
ですけどね」

「赤葦、木兎が拗ねたら面倒だからお口チャック」

「作ってくれた組はそこ座っとけな!」

「どうもー」『ありがと』

「ゲームの前に宮さんのケーキが食べたいです」

普段はあまり動かないメンバーが積極的に動く姿
を新鮮に思う彼女は、こんな日も悪くないと楽し
く眺めた。








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