お正月会議

名前が男子バレー部のマネージャーへ入部して
慣れた頃に正月休みはすぐに訪れた。

年が明けても黙々とテレビ画面を見つめて指を
動かす一人と、その隣で聞き慣れたゲーム音を
口ずさみながら友人から送られてきた年賀状の
メッセージを嬉しく読む一人に、新聞と共に大量
に挟まれた広告を黙々と眺める一人。

『クロ、面白い広告あった?』

「只今、詮索中」

「新春セールで新しいソフトも安くなってるかな」

今年もすっかりお馴染みになってしまった、黒尾
の家の炬燵に集って、暖をとりながらそれぞれの
やりたい事を行う。

静かに眺めていた黒尾に名前は声を掛け、彼の
の見ているものも気になるのか、時折黒尾の隣で
顔を覗かせていると、どちらが一つにしなさいよ
と彼に注意される。

実際は、隣から当たる柔らかい感触の方が気に
なるといった理由で黒尾は彼女にそう言い、仕方
なくまた年賀状に視線を向ける名前は後輩から
届いた年賀状を見つけて嬉しくなり、目尻を下げ
て二人にも報告した。

『あ、猛虎からだ!』

「お前ら、年賀状のやり取りなんかしてたわけ?」

『うん、送るから教えてーって私からお願い
したの』

「夜久君からも届いてるね」

「どうせ年明け練習で会うのに」

『こうしてメッセージ送り合うのが、味があって
いいんだよ』

「お前、本当にそういうの好きね」

孤爪も山本の名前を聞いて驚いたのか、ゲームを
中断して名前の方へ視線を向け、もう一人知る
名前が見えたら、黒尾は頬杖を付く。

「アイツらが一言書くのにアタフタしてるのが
目に浮かぶっつうか。」

『ん?普通に「はい、分かりました」って返事を
してくれたよ?』

「…あ、それ感極まって固まったパターンか?」

「トラは女子に慣れてない所があるから想像付く
けど、夜久君はそんな事ないんじゃない?」

『2人共張り切ってたから私もつい張り切って
書いちゃった。あ、お茶入れ直してくるね』

「ありがと」

名前が空になった急須に気がついてお湯を入れに
席を外すと、夜久から届いた年賀状を手に取って
何度も書き直した跡を見つけ、呆れた顔で笑った。

「夜久も気になる子から言われたら、それはさぞ
テンションは上がっただろうな。」

「クロも羨ましかったんだ」

「全然羨ましくねえし」

「今更、年賀状を渡そうってならないもんね」

「だから羨ましくねえって言ってんのに」

再びコントローラーを握る孤爪は黒尾にニヤリと
笑い掛け、孤爪の言葉を否定する黒尾は年賀状と
いうよりも夜久と名前の距離感が前より近い状態
が気になるのか、年明けに彼らが嬉しそうに話す
姿を想像して顔を顰める。

『クロのおばあちゃんが、お正月だからって
高級茶葉出してくれた!』

「サンキュ…って、いつの間にウチにそんなものが
あったんだ」

『香りがすっごくいいよ!』

しかし、そんな会話も名前が戻ってくると終わり
にして、炬燵の上に置いてあった蜜柑と一緒に
美味しそうに口にする彼女を見ると、不満は何故
か飛んでいく。

黒尾は目を細め、このまったりとした時間は自分
しか堪能出来ないと彼女の入れたお茶を口にし、
程よい苦さに一息吐いた。

『研磨、蜜柑食べる?』

「今、手が離せないから後で食べる」

『そっか。蜜柑触った後の手でコントローラー
は触りたくないよね』

「こらこら、蜜柑くらい自分で剥きなさいよ」

黒尾の注意は孤爪にスルーされ、彼がキリのいい
ところでポーズ画面にすると、名前は孤爪の口元
に蜜柑を運んで、美味しそうに咀嚼する孤爪を
見て満足そうに自分も口にする。

「名前、優しい。あと美味しい」

『ねっ!炬燵と蜜柑、最高だよね。』

「またそうやって甘やかす」

『クロも食べる?』

孤爪と名前のやり取りは違和感が無いのにいざ
自分が彼女に差し出されると妙な照れ臭さが
出て、恥ずかしがっている所を隠したい黒尾は
わざと彼女の指と一緒に齧った。

『わっ…、ちょっともうクロ!』

「ん、甘いなこの蜜柑」

「何やってんの」

孤爪が名前にウェットティッシュを渡して、彼女
の指を彼が丁寧に拭くと、そこまでする?とその
行為に黒尾が少し傷付いたと伝えると、孤爪から
冷たい視線が送られる。

「名前を困らせないで」

「だってリアクションが面白いだろ?」

『私で暇を持て余さないでください。そんなに
暇なら今から初詣か初売りセールでも行く?』

「今からセールに行っても遅いだろ」

「近くの神社なら行ってもいいかも」

『じゃあ、皆で初詣にしよっか』

立ち上がる名前は張り切った様子で孤爪の手を
引いて、彼女に楽しそうな笑顔を向けられると、
寒い外に出ても悪くないかと上着を着始める。

玄関を出て冷たい風が鼻をかすめると、彼女の傍
にすぐ身を寄せる孤爪は、その温もりを大好き
だと実感した。

「新年からずっとひっつき虫だな」

「だって名前があったかい」

『ふふっ、私もあったかい』

「名前、手袋してないの?」

『うん、すぐ片方無くしちゃうんだよね』

自分の手袋を片方貸して、反対はギュッと繋いで
「これで大丈夫?」と首を傾ける孤爪に彼女は目を
丸くさせ、黒尾もいつもよりも大胆な行動を取る
彼に驚いた。

『研磨、冷たくならない!?』

「大丈夫、名前の手が暖かいから」

『帰ったら温かいおぜんざい作るから食べよ!』

「ふふっ、楽しみにしてる」

「…研磨君、もしかしてまだアーンの件で怒ってる?」








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