心を殺してアナタに会う
入隊してからの与えられた私の役職は
どこの隊にも属する事はなく
真選組総長
とゆう名だけの役職だった。
表での主な仕事は、局長、副長の秘書業務
兼不足の隊と変わらずの通常業務。
歓迎ムードだがそれと仕事は全く別物で、
女の私に与えられる仕事はほぼ事務作業が
主になっていた。
女ひとりは珍しく制服の姿もあってか、
他の隊士達も親切にしてくれて、
気がつけば可愛がってくれる人達が
徐々に増えてきていた。
『近藤さん、お茶です。』
「いつもすまないな。#葉菜#、
今度はこれの清書を任せて大丈夫か?」
『もちろんです。』
近藤さんから書類を受け取れば、
すぐに机についてつらつらと筆をとる。
裏では、依頼された組織を追い込んで、
殺さぬ状態での捕獲。
山崎さんの張り込み捜査とはまた違い、
ターゲットを暗殺手前で斬るまでが私の仕事。
私は任務にただただ従い、上の命令の
まま斬り続けた。
合間で副長から書類を受け取り、夜中の皆が
寝静まる頃に私の仕事は始まる。
目立つ服装から明かりを遮る服装に着替え、
その姿はまさに忍に近い。
口元を隠し、髪を結い上げ出動する。
何年もご無沙汰の体も斬るという感覚は
忘れないものなのか、徐々に昔の感覚を
取り戻していた。
「この書類、悪いがたのむ。」
『わかりました。』
「・・・・。」
『どうかしましたか?』
今日もいつも通り封筒を受け取るが、
彼の様子がいつもと違い首を傾げる。
なんでもねぇと彼は背を向け、私はいつも
のように自室に持ち込み、中身を確認した。
彼があんな態度をとった理由はすぐにわかる。
書類に書いてあった内容は、丸々屋に潜入し、
桂小太郎の捕獲、そして今回の潜入先の
経路が細かく書いたものが入っていた。
『ついに、来たか。』
出来れば避けたかった任務がついにこちらに
回ってきた。
もらった書類をくしゃっと握る力が強くなる。
「なにが来たんでさァ。」
振り返ると、1番隊隊長沖田総悟が私の後ろへ
屈むように私の書類に目を通していた。
彼の気配に気が付かなかった私は、焦って
思わず手を滑らせる。
『沖田さん、いつの間に!?』
彼は私とこの人の繋がりを疑っているのか、
じっとりとした目でこちらを見ている。
他の隊士には知られていなかったが、
彼には私の本来の顔はお見通しといった
所なのだろうか。
彼は未だに完全に私を信用はしていない。
ましてや、桂小太郎の逮捕は彼が追っている
案件でもある為、私のことは邪魔者だと
思っている模様。
『今までとはまた少し違う
大きい仕事に少し緊張しただけです。』
「へーっ。任務になったら
ソツなくこなすアンタも
緊張するんだ。」
どうやら、私の今までの仕事も
この人は知っていたのか、
嫌な顔でニヤリとわらう。
『これは私の仕事です。沖田さんは
ほっといてください!』
そもそもレディの部屋に入るなんて、
何事ですか!と彼の背中を押して
部屋から追い出して、パタンと勢いよく
襖を閉めた。
当たりが暗くなったところで、身を軽く
するために腰につけている刀を下ろして
衣服を脱いだ。
部屋の周りに誰もいないことを確認し、
顔を鼻まで隠して、 屋根まで跳び、
屋根を伝って駆け出す。
目的地に着くと、運に恵まれたか、
攘夷浪士たちは宴会を終えたあとの模様。
目当ての人間の姿はそこにはない。
しばらく目を覚まさぬよう催眠剤入の香を
炊き、私は天井裏を通じて、彼の元へと
向かった。
本来の目的地に辿り着けば、そこには
ただ1人体を休めて、横になっている
懐かしい人物の姿。
静かにその場から降り立ち、再びそこでも
再び香を炊く。
目が覚めることはない模様の彼にまたがる
形で胸元に忍ばせたクナイを取りだした。
気持ちよさそうに眠っている彼を見ていると、昔の思い出がふと脳裏に浮かび出す。
こんな形で本当は会いたくなかったのに。
『ごめんなさい。』
彼の頬に手を触れ、綺麗な髪の毛の束に
そっと慈愛を込めて口付けをする。
傷をつけたくないけど、殺すのではない。
ちょっとだけ、連れ出すだけだからね。
クナイを振り上げると、彼の首には
届かぬまま遮られ、自分の手は彼に
グッと強く掴まれていた。
「おかしいな、天女が降ってきたと思った
んだがとんだ幻覚だ。
アイツに似たこの香り、この腕で惑わすか。」
彼は目を伏せたまま笑い、それに
適うわけなんてない私は震える
自分の手をゆっくりと下ろした。
自然と頬には一筋の涙が伝う。
隠した顔を覆うものをゆっくりずらして、
結っていた髪も解く。
ごめんなさいと姿を見せると、彼は私を
見て驚き、目を見開いた。
『小太兄ぃ…。』
「葉菜…!」
彼が私を見て喜ぶ顔を見てしまうと、
かれをか刺すことなんて到底出来る訳がなく、
ゆっくりと起き上がる彼の背中に手を回した。
『会いたかった…。』
彼は襲おうとした私を咎めることも無く、
ただ、彼の上で泣きじゃくる私の背中を
ゆっくりと優しく撫でた。
「幻なのか?」と聞かれ必死に首を振り、
無事に生きていたんだなと言われて
こっくりと頷く。
彼の手は私の顔を包み、泣かないでくれと
指で私の涙を拭った。
「謝らないといけないのは私の方だ。
葉菜、守ってやれなくてすまなかった。」
『小太兄が生きてるだけで私は十分。』
あの人の妹という立場から政府に捕らわれ、
周りの情報から粛清され死んだと聞かされ、
どんなに姿を探しても見つけ出すことが
出来なかった彼はその噂を信じるしか
なかったと言う。
彼の名前をもう一度呼ぼうとしたら
それは唇でふさがれ、彼と言葉は交わさず
深い口付けを交わす。
頭を押さえられ角度を変えられ、舌で私の唇
をなぞり、私の存在を確認するようにゆっくり
と味わっていた。
その変わらない彼の優しさが伝わって、
それがかえって自分の胸を締め付ける。
私は彼の手を自分の胸元に当てて、
ちゃんと生きてるでしょ?とその証を
本人に確認をさせる。
彼はこれじゃあ分からないと零しながら
グッと衣服をはだけさすと、綺麗だと囁いた。
私の胸に顔を寄せ、その音を聞いた。
彼の首に手を回すと、胸元に再び口付けを
落とされる。
ちりっと来る刺激に仰け反り、 私も彼の存在
を確認するように髪の毛を手で梳き、
クナイを投げてお香を消し、彼の刺激に
そして彼の温もりにひたすら溺れた。
一糸まとわぬ姿の2人。
彼の腕はしっかり離さず抱きしめて
くれていた。
私は彼の腕を解き、と衣服を整える。
彼は名残惜しそうに私を見つめた。
『もう行かなくちゃ…』
そう言い、彼の刀を取り、彼の髪の束を
一掴み切ると自分の腕を斬る。
「何をしている!?」
『任務失敗したから。』
今いる場所に幻滅されるのも
時間の問題だろうけど、
あなたにはまだ知られたくなかった。
このまま残りたいけどそうすれば他の仲間が
危険にさらされてしまう。
また会う機会は必ず来る。
そう思い、私は呼び止める声に背を向けて
窓から飛び出した。