とりあえず逃げてみるか


彼の説明を聞く限り、晋ちゃんが幕府の犬と
言っていたのは、この事かととりあえず納得。

そして失敗と言ったが、あの彼が失敗なんて
するはずが無く、これも私が抜け出すのが
策略のうちと思われる。

それにしても、人に好き勝手しておいて、
肝心な時に手を離され、結局ここにいた
としても私に自由がある訳では無い。


ましてや花魁になろうとした女の保護
扱いなんて、ろくな事がないに決まってる。


とりあえずここを抜け出そう。


自分の姿を改めて確認をすると、下着は
つけておらず、ボタンを外し始めると
彼が付けた複数の跡がこれでもかと
言いたくなるくらい至る箇所にあり、
思わず呆れたため息を吐いた。


『やだ。私、山崎さんにみっともない姿
見られちゃっていますね。』


隣にいた彼もその様子に気が付き思い出した
のか、ハッとすると顔をカーッと赤くさせ、
とんでもない!と私の言葉を全力で否定を
する。


『山崎さん、さすがにこの格好じゃ
明日歩けなくて。さらしとかありますか?』


「さらしなら、ここにあるよ!」


彼は慌てた様子で、ごめんねそうだよね!
とすぐに部屋の引き出しから取り出すと
私に渡してくれた。


『すみません、ありがとうございます。
…ちょっとこれを巻きたいので
少しだけ出てもらって大丈夫ですか?』


紳士な彼は即座にもちろんだよ!と
顔を真っ赤にして部屋から出てくれた。
外から見えた隙間から確認するとどうやら、
見張りは外にも何人かいるようだ。


騙した事に少しだけ罪悪感を感じながら、
動きやすくなるようにぎゅっと胸部を
しっかりと固定をする。


もう大丈夫ですよと彼に声をかけると、
すぐに山崎さんがこっちに来た。


『山崎さん、助かりました。ありがとう。』


彼が入ってきた瞬間、ふと抱きついて
照れた彼の隙を狙う。
ごめんなさいと謝りながら鳩尾を狙って
握り拳で殴り気絶させて、彼の武器を奪うと
扉を勢いよく開けた。


『嘘、さっきより増えてるし!』


私の驚きの声と同時に天井にいた隊士が
背後に降りてくる。
私は、その刺客の攻撃を避けながら、
思い切り、外につながる襖を開けた。


『もー、どんだけー。』



扉を開けたはいいが、そこには予想より
はるかに多い隊士の人数。
彼らは、一斉に私に立ち向かってきた。


『えー!』



無駄な犠牲を出したくなかった私は高く跳び、彼らの頭を踏み台にし瓦を蹴散らし、
勢いよく屋根まで上ると走り出した。



「なんて脚力だ!」



-よし、このまま抜けよう-


そう思っていたのに、目の前には再び先程
見た人物に私は足を止めざる負えなかった。


さっき私に対して休めと言っていたはずの
人が、言うこととは真逆に不敵な笑みを
浮かべて、私を待ち構えていたかのか、
腕を組んで立っていたのだから。


なんとなく、そんな気はしていたけど、
私の行動は、どうやら完全に彼に読まれて
いたようだ。



「つれねーな。もう少しお付き合い願おうか。」



『どうせ保護されても私は幕府のモノ扱い
になるんでしょ?』


「明日詳しく伝える予定なんだがな…」



彼は、まぁいいとニヤリと笑い吸っていた
煙草の煙を吐く。
私は、隙を見せないように相手の様子を
窺って身構えた。


「それにしてもこの短時間で目覚めるとは
お前どんな回復力しているんだ。
こっちに戻ってからそんなに時間経って
ねーんだがな。」


『生憎、生まれつき傷の治りが早いので。』


どうやらこちらに来てからまだ3時間も
経っておらず体に傷は見当たらない。
でももう一度胸元の跡を確認してみたら
まだそこは残っており、肝心な部分は消えて
いないのだが。


これ見てそう思いますか?と訪ねると
彼は少し頬を赤らめ、俺に聞くんじゃねぇよ
と頭をかいた。



「そんな怖い顔すんなって。」


そう言って私に向かって何か投げてきたので、
私は咄嗟にそれを受け取ってしまった。



私が受け取ったのは自分の愛刀。
あの店にいる事になった時から、
もう手にすることはないと思っていた。



『何で、あなたがこれを?』



「店にあったらしい。そっちの方が
使い慣れてるんだろ?ハンデだ。
正々堂々としようじゃねーか。」



『馬鹿にしないでください!』


私は甘く見られたことにカッとなり、
受け取った刀を抜きとり彼に向かった。
そして、刀と刀がぶつかり合う音が響く。


『くっ・・・!』



「(コイツ、女のくせになんて力だ!)」



彼の力に圧倒されそうになったが、
頑張って持ちこたえ、隙を見つけよう
相手を探る。


何処だ、考えろ、油断はするな。


頭ではわかっていてもこの人から隙が
見つからない。
1歩でも動けばこちらも危なくなってしまう。



このまま体力を削っても時間の無駄だと思い、
私はスッと1歩離れ、息を整え、彼に
向かってこう言った。



『ごめんなさい、時間がないの!』



そして助走をつけて、彼を飛び越え、
外に出ようとしたその時。



「どこに行くんでさァ?」



『わっ!!?』



いきなり現れた茶髪の少年に驚き、
飛び込もうとした先に刀が見え、
避けようとすると体制が崩れ
しゃがみ込む形で転んでしまった。



ダメだ…、死ぬ!



すると、もう一人が私の頭のすぐ横を刀で
ざくりと突き刺した。



「山南葉菜、真選組入隊決定。
…これは命令だ。」


は?の声とともにうっすら朝日が差し込む。
どうやら今やっと夜が明けたようだった。