私にどうしろと
「最初に言っておく。別にお前を仲間として
認めているわけじゃねぇ。」
強制的にそのまま別室に連れて行かれた私は、
シャツ一枚のみっともない格好のままで
正座で彼を睨んでいた。というか、睨む
事しか出来なかった。
今は副長と呼ばれる男と2人きりの状態で、
もう1人の青年は上司を呼んできやすと
その場からは姿を消していた。
「これは契約だ。」
前の店にいた芸妓達は今保護されていて、
今後は別の施設に移動になる。
そのかわり、私が ここで隊士として
在籍することになるのが条件らしい。
私以外の引き取られた人達も色々な
事情を抱えて引き取られており、
私が断ると彼女達の処分も変わり、
私もどうゆう処分になるか分からないとの事。
『それは、断る事なんて出来ないって事
じゃないですか。』
「まぁ、そうゆう事だな。」
私だけではない。他の人たちの命を犠牲に
出来るわけがない事をわかっている上での
余りにも理不尽すぎる条件。
かつての仲間の犠牲、そして今回の犠牲を
考えると幕府のやり方に憤りを感じ、
悔しさから下唇を噛みしめた。
「仕方ねぇだろ、上からの命令だ。」
彼は冷静に顔色変える事なく、自分のタバコに
火をつけ、煙を吐く。この煙たさにも段々と
慣れてきた。
するとどかどかと慌ただしい足音が聞こえて、
ガラッと再び誰か入ってきた。
「いやー、すまんすまん。
先約があって遅くなってしまった!」
入ってきたその人は目の前にいる副長と
やらとはまた違って豪快に笑っていた。
彼と比べると人間らしいと言えばいいのか、
そして私の姿を見ると、目を丸くして、
顔を真っ赤にする。
鼻から赤いものを流しながら表情をコロコロと
変える人だった。
「ちょっとー!トシー!!
年頃の女の子になんて格好させてるの!?」
私の只今の姿はいわゆる彼シャツ状態。
大きいシャツがミニスカートになり
確かに足の露出は高く、正座だと中が見える
すれすれなのかもしれない。
下着はないといえど、下は履いていたのが
唯一の救い。
それどころじゃなくて、恥じらいなんて
どっかに飛んでいたが、副長も私の足元を
見て頬を赤めるので、その顔で一旦こちらも
冷静になり、みっともない格好にだんだんと
恥ずかしさを感じた。
羞恥心から、顔が一気に熱くなる。
『え、ちょっと、これ。』
彼は駄目じゃん、こっちが捕まるじゃん!
と急いでジャケットを脱ぎ、私の腰周りを
隠すように巻いてくれた。
「土方さんの指示でサァ。」
するとひょっこり現れた私と剣を交えた
茶髪の青年もニヤリと笑って顔を出した。
俺は止めたんですけどねと続け、土方と
ゆう男は彼の言葉に血相を変える。
「誤解を招くよーな言い方すんじゃねーよ!」
配慮が足りなくて悪かった。と罰が悪そうにこちらを見るので、私も頷きながら恥じらいを
誤魔化すように巻かれたジャケットをぎゅっと
結び直した。
「俺はここの局長の近藤勲だ。
お嬢さん、強引な勧誘で申し訳ない。」
近藤さんとゆう人はそう言うとこちらに
警戒する事なくニッと笑った。
「さっきトシから話は聞いてると思うが、
思うところは色々あると思う。
だが、すぐに気持ちを変えなくてもいい、
俺たちにお付き合い願えないか?」
『得体も知れない人間を雇えるんですか?』
「昔の仲間を思っているからこそ、
答えが出ないんだろ?
腹の中はどう思ってたっていい。
守りたいものを守るのが俺たちの仕事だ。」
少しだけ、気が緩んでしまったのは
かつてのあの人みたいなことを言われ、
差し伸べられた手に私は戸惑った。
この人からは真っ直ぐな心しか
見えなかったからなのだろうか。
「まっ!ちょっとこれから上の事情で
まだ会わせなきゃいけねえ人もいるから
ちょっと来てもらおうか。」
『あっ、あの!?』
忙しくてすまない!と近藤さんに強引に
手を引かれ、その格好はまずいなと
とりあえずの着替えを彼に渡され、
茶髪の青年はいってらっしゃいと
呑気に手を振っていた。
彼に手を引かれ連れて行かれた際、
副長と青年2人が何か言葉を残した様に
見えたが聞き取れず、言われるがままに
別の場所へと連れて行かれた。
そこは警視庁と書かれた立派な建物。
奥へ行けば、明らかにお偉い様のいる
というのがわかる部屋に通されて、
近藤局長がとっつぁん連れてきたぞ!
と威勢よく部屋に入る。
「いらっしゃーい、葉菜ちゃん。」
『おじさまは…!?』
手を振って迎えたのは、かつての居場所
だったお店によく通っていた常連さん。
強引にごめんなとそこでも謝られ、
私は目を丸くした。
うちの店は職種を問わず招き入れ、
色んな客へ芸を見せる店だった。
まさかの警視庁長官とまでは思わず、
馴染みの姿を見るとすこし緊張が解れる反面、
裏切られた気持ちになった。
「理由はおじさんもよくわかんないけど、
御上からの命令で君だけここに
別で隔離するように言われちゃってさー。」
剣の腕、実は凄いんでしょ?
女性初の隊士だと響きがいいから、
入隊させちゃったわけよー。
大丈夫大丈夫、店のみんなには
悪いようにしねーから、ね?と軽く言われ、
続けてみんなの為だからね悪くないでしょ?
と付け加えられると呆れて言葉が出なかった。
幕府側に馬鹿にされているのだろうか。
どこに行こうが逃げ場は無いと言う事
だけはわかっている。
それならもうこの際、プライドなんて
どうでもいい。どんな形でもいい。
彼らに会えるのであれば、もうここまで
来てしまったら、私も自分のやり方で、
この組織を利用させてもらおう。
わかりましたとニッコリ微笑むと
2人は本当に?!と驚き喜んだ様子だったが、
かつての仲間を守るためですとそこは
きっぱり悪魔で契約の為だと言い切って、
契約書にはちゃんとサインをした。
「ところで隊服なんだけどー。」
この服じゃないんです?と近藤局長を
指させばちょっとパンチが足りないから
とどこから呼んだか、制服が新たに出てきた。
「なっ…!!」
局長も驚きのジャケットは他の隊士と
変わらないが、スカートはこの2種類の
どっちが好み?と何故かこちらに問われる。
タイトなスカートとプリーツスカート。
『動きやすいのはプリーツですけど
…じゃない!私だけなんで違うんですか?!』
服に指をさしそう言うと彼は可愛くない
じゃんと子供みたいに口をすぼめて言った。
すぐさま局長が「セクハラ親父、アンタも
可愛くねーぞ」とツッコミを入れていた。
「てめぇだって、嬉しい癖に。」
と言われると局長も返す言葉が見つからず
喉を詰まらせる。こっち側の人だと思って
たんだけどな。
『わかりました。』
はぁっと私はため息を吐くととりあえず、
上着とプリーツスカートを手に取った。
その代わりタイツは履きますからね
と言うと何故か局長も揃ってガッカリ
していたが、ゴホンと咳払いをし
そこは私の指示に従ってもらった。
「山南君、そういえば私服はあるの?」
『服どころか着替えも全くないですけど…』
近藤局長の問い掛けにそんなことだろうと
思ったと松平のおじさまは机の引き出しから
何かを取り出し、どさっと私の抱えた制服の
上に落とした。それは、帯付きの札束。
「えー!!!!とっつぁんマジかよ!」
「おじさんの入隊祝い。
好きなブランド買っちゃいなさい。」
私も局長も目の玉が飛び出たが、
可愛いからおじさんはなんでも買っちゃう
と引かないものだから、 そのまま受け取り、
警視庁を後にした。
つい、馴染んでしまった癖で彼にとびきりの
笑顔を向けて、上っ面な言葉を零してしまう。
『おじさま、だーいすき。』