君の声が聞きたい
東京インターハイ予選決勝翌日。
目の前で自分の彼女が口の前でバッテンを作り、
某うさぎのキャラクターみたいなポーズを取る
ので、その姿は非常に可愛いのだが、何故か
普段よりもスキンシップを避けようとしていた。
彼氏の木兎光太郎は昨日井闥山学園に負けた
悔しさがまだ残るのに、彼女の思わぬ行動に
それだけで泣けてくる。
「え?何これ。どうしたのなまえ。」
「応援し過ぎで声が出ないそうです。」
彼らと一緒にその場にいる幼なじみ、赤葦京治
は何故か彼女の通訳をしており、幼稚園の頃
から生活を共にするだけあってか、彼女の表情
を見ただけで、何が言いたいのかをわかって
しまうと言う彼は、彼女の代わりに木兎に
伝言をしていた。
「なんでお前が喋るんだよ。」
「だから、なまえの声が出ないんですって。」
彼は今すぐにでも彼女の声が聞きたいのに、
代わりに発するのは赤葦の声で、それが不満
な木兎は彼に訴える。
学年は木兎と一緒のなまえだが、彼女のお世話
をするのが、1つ年下の赤葦で、やっぱり何より
もそれが彼にとっては、気に入らない。
しかし、両手を合わせて必死に木兎に謝るなまえを目にしたら、木兎は責めることなんて
出来ず、仕方ねーなと諦めるしか無かった。
それに声が出ない理由は、自分の為にそう
なってしまったと思うと、なんとも愛おしい。
「なまえ。俺のために必死になってくれて、
ありがとな。」
そう言いながら、いつもの様に抱擁を交わそう
とすれば、ハグまでもを避けられて、するり
と木兎の腕から逃げ、彼は虚しい空振りをして
しまうので、「何でだよ!」とそれに嘆けば、
一瞬赤葦は、木兎から顔を反らしてブッと吹き
出した。
「万が一、風邪が原因で木兎さんに移ったら
大変だからダメだそうです。」
「だから、お前エスパーかよ!!」
彼女の言いたいことがお見通し過ぎて、木兎も
段々と腹が立ってきたのか、彼がそう叫ぶと、
赤葦は呆れたようにスマホを掲げた。
「嘘ですよ。そんなわけないじゃないですか。朝、なまえは、木兎さんにもちゃんと
メッセージ入れたそうですけど?」
「へ?」
そこには、声が出ない旨と木兎が絶対に激しい
スキンシップを取るだろうから、彼に絶対に
移さない為にも手伝って欲しい。
そして、メッセージを見ないかもしれないから
教えてあげて欲しいとまで。
間抜けな声をあげた木兎は、いそいそとスマホ
を取り出せば、なまえのメッセージはちゃんと
届いていて、『ごめんね。』と新たに謝罪の
メッセージも届いていた。
木兎はすっかりと忘れていたのだ。
彼女が赤葦並に気の利いた、しっかりとした
人間だとという事を。
決勝の翌日だった為、その日はオフ日となって
いたが、2人はまっすぐ帰ることなく、放課後
謝罪のメッセージを入れて、なまえもその日
は1人で帰宅をした。
自宅に着くと、部屋に入って鞄を置いてすぐ、
なまえはぼふっと自分のベッドに飛び込んで、
グリグリとその柔らかいマットに顔を埋めた。
『あー、もうダメ。私のバカ。』
そう言葉をこぼすとまた溜息を吐いて、彼女は
自分の行動を深く反省をする。
なまえの声はちゃんと出て、決して喋れない
わけではなかったのだ。
『お疲れ様って言えばいいだけじゃない。』
昨日、なまえは付き合ってから初めて木兎の
試合を見た。
クラスが違う2人は、最初は赤葦が同じ学校へ
入学してきた事がきっかけで知り合い、3年生
になって付き合うこととなるが、付き合い始め
ても試合に行くことは無く、そして自分が見に
行く事で彼の邪魔になるのではと考えていた
彼女は、なかなかバレー部の試合を見に行く
勇気が踏み出せなかった。
「今年は絶対に見に来て!!」
彼の必死にお願いする言葉に彼女もやっと決心
して、昨日勇気を出して見に行ったのだが、
その試合を見てから、なまえは何故か彼と
どう接したらいいのか、わからなくなって
しまったのだ。
『昨日の光太郎君がカッコよすぎて、まともに
光太郎君の顔が見れない。』
理由はただ単純にそれだけ。
昨日の姿を思い出したら、再び顔に熱が持つ。
スパイクを決めた際の輝いていた彼を見たら、
余計に彼が好きだ、愛しいという気持ちが更に
増してしまって、彼と目が合っただけで倒れ
そうになり、それと同時に他の女子が彼に
向ける黄色い声にも嫉妬してしまって、嫌な
自分も見せたくなかったなまえはどういう顔を
して彼に会ったらいいのかわからず、そのまま
思考回路はキャパオーバー。
明日は彼の顔をまともに見れるのだろうかと、
悩みながら蹲っていると、ピロリンとスマホが
鳴る音が響くのだった。
部屋行ってもいい?と赤葦からメッセージが
来て、彼女はこの前借りた小説の返却かな?
と思い、勝手にどうぞとすぐに返事を返す。
するとしばらくすると、ドアからノック音が
聞こえてきたので、何気なしに彼女が開ければ、
思わぬ人物も一緒に来たので、彼女はドアを
直ぐに閉めようとしたら、それを赤葦に阻止
されてしまった。
『ちょっと京治、何で光太郎君も一緒なの!?』
「この人、なまえなまえってさっきから
煩くて。もう2人で問題解決して。
俺だって面倒臭っ…俺も忙しいし。」
「え?なまえ、しゃべれんの?!」
赤葦は直接連れていく方が早いだろうからと、
彼の隣には今まで来たことの無い木兎も一緒に
部屋の前に来ており、赤葦は連れてくる方が
早いからとため息を吐いていた。
彼女の発する声に木兎がひょっこり彼女に顔を
覗かせて、はっとなまえは自分がついていた
嘘を思い出し、咄嗟に自分の口元を押さえる
と、目を丸くした木兎止めがパチリと合って
しまった。
そこでなまえはお疲れ様と朝言いたかった労い
の言葉を吐いて、未だに話せることに驚いて
木兎はぱちくりと瞬きをした。
「じゃあ、あとはお二人で。あ、おばさん達、
今日夜までいないって言って出ていったよ?」
赤葦は力が緩んで空いたドアを大きく引いて、
それじゃあとニヤリと笑ったら、とんでもない
両親不在というおまけの言葉まで付けて、彼は
そそくさと帰って行ってしまった。
『あ、京治待って!』
引き止めるも虚しく、木兎にパシッとその手を
止められ、「どうゆうこと?」とドアの縁に手を
掛けた彼に詰め寄られてしまった。
『ごめんね、光太郎君。』
光太郎君が昨日かっこよすぎて、目が合うだけ
で恥ずかしくて…と彼女は素直に彼に近寄れ
なかった事情を全て素直に吐いたのだった。
『女の子に嫉妬するとこも嫌な自分見せたく
なかったし…』
「ふーん。」
彼女の言葉にまだ少し不満そうな彼はひょいっ
と彼女を子供のように抱き上げて、その反動で
きゃっと声を漏らす彼女を見上げて彼は構う
こと無く、そのまま言葉を続けた。
「何その可愛すぎる理由!許すしかねぇじゃん。
てかあのさー、普段は俺の方がヤキモチ
妬きまくりなんだけど?」
『何で、私にヤキモチ?』
「俺…なまえの部屋入ったことないのに。」
『ん?ヤキモチって京治のこと?』
「ほらまたそうやって、呼び捨てにする!」
そのまま木兎は口を尖らせ、なまえを抱えた
まま、ズカズカと部屋に運ぶと、ぼふっと
ベッドに落としてそのまま彼女の上へと跨り、
彼は自分の額と彼女の額をくっつけ合った。
「ヤキモチ妬いてくれたの嬉しいけど、
今日のはあんまりにもあんまりだから、
お詫び…してくれるよな!」
『お詫びって、んっ…!光太郎君!?』
「ダメ、そこは光太郎。」
『光太郎…って、まって、わっ、ちょっ!!』
そして、そこからは木兎から次から次へと
キスの嵐が降ってきて、至る所に彼はチュッ
チュッと唇を落としていき、手首を押えられた
彼女は彼にされるがままとなってしまう。
「なーにー、なまえ?」
『うぅ…やっぱりまだ光太郎が眩しいよ。』
「ヤバい、何それ?なまえが可愛すぎて
止まんない。赤葦さ、さっきなまえの
お母さん達帰ってこないって言ったよね?」
『…京治のバカ。』
「コラ、今その名前絶対に禁止。
なまえ、ちゃんと俺を見て。」
『光太郎、大好きです。』
「…俺の方が愛してるから。」
ああ、ダメだまたそうやってカッコイイとこを
見せられたら。
そこからの2人は深い深い口付けが始まって、
勢いよくシャツを脱いで逞しい姿の彼を見て、
彼はプチプチと彼女の制服のボタンを外して
いく。
「今日聞けなかった分、いっぱいお前の声
聞くからな…?」
耳元でそう囁く木兎と目が合うと、彼の瞳は
ギラリと試合の時のように鋭く光っていて、
彼女はまた明日からどんな顔をして彼に会おう
か悩みながら、彼に身を委ねるのだった。