青春ライス



入部当初のなまえは決して今みたいに可愛がら
れているわけでは無かった。
なまえが入学した年に初めて、稲荷崎のバレー部
にも女子マネージャーの所属が導入された。


その対象者はもちろんバレー経験者で1年生。
仕事もそれは厳しく忙しく、辞める人間がいる
中で、負けず嫌い、バレー愛の強い彼女は自分
が例え最後の一人になっても残り、彼女の実力
と努力をみんなが認め、徐々に彼らとの絆が
出来上がった。

それはわずか1ヶ月という、非常に最速で
最短な時間だったのだが。


『今日も皆さん、調子よさそうですね。』


「なまえがおったら胸が苦しゅうて、バレー
どころやないけどな。」


「なまえ、アホはほっとき。」


「何やと、クソサム!!!」


『ふふっ、侑先輩面白いです。』


アップ前に彼らの体調をチェックして、彼女が
本日もみんな元気だとわかれば安心して笑い、
彼女の呼び方が気に入らない侑はムッと治と
顔を見合せた。


『侑先輩、治先輩?』


「なーんか、距離感あるなぁ。」


「ちょっと今のはわかる。
どうせならさん付けとかにせーへん?」


『それはさすがに恐れ多いんですけど。』


「でも、俺らは北さんのこと北さんって
呼んどるやろ?」


『そうですけど…。』

ええから呼んでみ!と2人がちょいちょい手を
振るので、彼女が恐る恐る「治さんと侑さん?」
と首を傾げながら2人の名前を呼んだら、
思わぬ後輩の可愛いさに2人は胸を射抜かれた。

だが、とある事が気に入らない侑はでもと言葉
を付け足して、口を尖らせ不服そうな表情を
見せるので、治は今度は何やと呆れたように
彼の顔を見た。


「何で、治さんが先なん?そこは侑さんやろ?」


「は?そりゃ、提案したんは俺やろ。」


「お前らやめー!なまえ困らすな。」


先に治の名前を呼んだことが気に入らなかった
侑は不貞腐れたようにそう言うと、面倒臭そう
に返した治の態度が気に入らなかったのか、
そこから喧嘩が勃発しそうになり、オロオロ
と戸惑うなまえを見兼ねて、尾白が2人を止め
に入る。

『尾白先輩、すいません。なんか私、
失礼なことしてしもうたみたいで…。』


「なまえは悪うない!!!
アホツムが面倒臭いことを言うからや。」


「なまえは悪うないわ!!!
アホサムの態度が気に入らんだけや。」


「せやから、やめえ。なまえを困らすな!!!」


「お前ら、煩いで。」


そのまま2人が取っ組み合いになりそうな所を
尾白が間に入って喧嘩を止めようとすれば、
1人の男の鶴の一声よって、ガラリとその場の
空気が変わった。


『北先輩。』


北の顔を見たら緊張が緩んだのか、彼女はホッ
とした表情を見せ、練習中に厳しい言葉を言われても絶対に涙を見せない彼女が、喧嘩が止まった時に安心した今は涙腺が緩んでしまって、
ほろりと涙を落とすと、彼女の涙を北は指で
拭って、ギロリと双子を鋭い双眸で見た。


「それは、なまえを泣かさんといけんくらいの
重大問題なんか?」


『すみません先輩、私が勝手に泣いとるだけ
なんです。』


「なまえはええから。」

1回出たら止まらなくなって鼻水混ざりでなまえは
北にそう言うと、彼はそう優しく言い返して
なまえに微笑み、まだ気にしている彼女を
銀島がなまえは離れときと言いながら、彼女の
肩を抱いて避難を促す。


「あ、コラ銀!!!なにさりげなく
なまえに馴れ馴れしく触っとんねん。」


「侑、話はまだ続いとるやろ?」


「…はい、すみません。」


やれやれと呆れた様子でなまえの肩を話さず
銀島も侑と治を見ると、治は無言で銀島を
鋭い眼差し睨みつけていたので、その無言の
圧力に恐れて、彼女の肩をパッと離した。


『銀島先輩、ありがとうございます。北先輩
を呼んでくださったから、助かりました。』


「いやいや、それが俺とちゃうねん。」


すると、なまえが銀島に北を呼んでくれた事に
お礼を言うと、銀島には否定され、首を傾げて
指された方向に彼女が目を向けると、どうやら
北を呼び出したのは角名だった模様。

パチリとなまえと角名と互いに目が合えば、
彼女は彼にもちゃんとお礼を言おうとしたの
に、ふいっと彼には目を逸らされてしまって、
それが少しだけ悲しかった彼女は落ち込むよう
に肩を落とし、そのまま仕事に戻った。


「お前なー、もうちょい態度あるやろ。」


「え。よく銀は目と目合わせれるよね。
恥ずかしくなんないの?」


「…は、おまえ照れとったん?」


「写真をさ。治に送ってもらって、
目を合わせる練習とかしてみたんだけど、
どうも上手くいかなくて…。」


「ちょ、待って。なまえの写真持っとん?ホンマや!!!!
量が怖い、怖い、怖い!!!」


「いや、お前いつか盗撮する勢いやん。」


話しかけた銀島との会話を横で聞いた赤木は
震えるように腕を摩り、大耳は「愛が強いな。」
と言葉を零す。


せっせとモップ掛けをするなまえを見ながら、
頑張り屋でとてもありがたいが、とんでもない
子が入ってきてしまったのではと心配をするの
だが、目が合えば微笑む彼女を見てしまうと、
みんなの目尻はつい下がってしまうのだった。


「なまえ、さっきはすまんかった。」


「怖い思いさせて、ごめんな?」


先輩達にドリンクを渡せば、侑が彼女の前で
両手をパチンと合わせて、治が頭を撫でながら
謝れば、彼女がそんなそんな!と謙遜する様に
手を横に振った。


『私の方こそ、動転してしもうてすみません。
もう、2人の喧嘩を止めれんからって絶対に
泣きませんから。』


そう言って彼女がふんわりと笑えば、2人は
嫌われてないと分かると、安堵の息を漏らす。
それどころか、二人の喧嘩を止めれるように
頑張りますと意気込むので、その言葉を聞いた
北は「頼もしいな。」と声を出して笑っていた。


『北先輩にもみっともない姿見せてしもうて
すみません。』


「何言うとん。なまえは色々とまだ慣れんの
やから、気にしたらあかんよ?」


なまえが申し訳なさそうな表情で、北にも
ドリンクを渡せば、彼は彼女にそう言って、
優しく目を細め、何やらこそこそと彼女の
耳元で何かを言ったのか、彼女は顔を真っ赤
にして怒り出す。
それを見た他の部員は、彼がなまえに何を
言ったのかまではわからなかったが、今までに
見た事の無いその甘い空気に驚愕し、目を丸く
するのだった。


「なまえがいなかったら、北さんの
あんな顔は絶対に見れなかったかもね。」


角名がぽつりとそう吐けば、北に微笑んでいた
目が急にぱっちりと大きく開いて、彼女の表情
に北もどうしたん?と首を傾げる。


『角名先輩。今、名前呼んでくれました!?』


周りが北に驚く中、彼女は別のことで驚いた。
今まで会話どころか、目を合わせなかった彼が
なまえの名前を彼女のいる場所で初めて呼んだ
ので、思わず彼女は喜びから彼の方向へと
振り向く。


ぱぁっと晴れたような笑顔で近づく彼女に角名
は動揺して、「え、あっ…、えっと。」と言葉を
詰まらせるのだが、自分に見せてくれたその
表情が眩しくて、逃げ出せない。


「うん、呼んだから…なまえ。」


『はい、なまえです。』


恥ずかしさから、少しだけ目を潤ませて彼女の
名前を角名が呼ぶと、彼女はふんわりと笑って
嬉しそうに返事をして、ぎゅっと彼の両手を
彼女が握りしめ、彼女の温かい手は自然と
彼の緊張を解していった。

あ、これ心地いいかも。

柔らかいその感触に思わず癖になりそうだと、
ぼんやりと角名の頭の中で考える。


「「あー、俺かてされたことないのに!!!」」


その光景を悲鳴を上げながら、双子達は騒ぎ
出し、すぐさま引き剥がそうとすれば、ひょい
っと角名はそれを避けて、彼女の手はもちろん
握りしめたまま。


「あ、離さへんのや。」


そこから先はまた照れ臭くなったのか、彼は
今まで通りの余所余所しい態度に戻って、
時々急接近と距離感にムラがあるのだが。
卒業までに更に彼らの絆は深くなっていくの
だった。


『あっ!また侑さんと治さんは喧嘩して。
北先輩呼びますよ!!?』


「なまえが逞しくなっとる。
怒った顔も可愛らしいなー。」


「ツムはいちいち発言キショいねん。」


「お前にだけは言われた無いわ!」


『せやから、北先輩に…あっ、北先輩!!』


「なぁ、なまえ。もう慣れた頃なんやから、
俺の事もそろそろさん付けでええで?」


『えっと…、その、北さん?』


「ちょ、誰かAED持ってこい!!!
角名が呼吸困難や!!!」


「何で他人の名前なのにお前が悶えとんねん!」





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