心配事だらけ
「名前、アイツらに何かされたらすぐに連絡ね!」
『いや、徹は私のことより自分の事心配して。
ハジメ、徹が無茶をしていたら全力で止めてね。』
「おう、任せろ」
「なになに、苗字ちゃんと話してんの?」
「ウチの主将がどうもお世話になります。」
『こちらこそ、いつも2人と後輩がお世話に
なります。』
及川のジャージを正しながら、忠告をはいはい
と宥めている様子から、彼等の距離感は周りも
わかる仲の良さだった。
青葉城西高校との練習試合があり、そこで休憩
になると毎度顔を合わせる幼馴染みと会話をして、
花巻と松川も彼女とお近付きになりたいのか、
ニヤニヤしながら現れて、金田一と国見はどう
して烏野に行ったんですか、と大好きだった
中学の先輩が他校にいることが気に入らない。
「お前らに名前を渡すもんかー!」
「いや、名前はウチのだから。」
及川は練習試合で他校にマネージャーがいなかっ
たら、名前はそこで他校のサポートに回る事を
知ってしまったから、口煩くなり、岩泉は仕事
なんだから諦めろ、と同じく納得はいってない
様子で、及川を八つ当たり混ざりで黙らせた。
我が物顔で会話を始める青城メンバーを澤村は
黒い笑顔でそう言って、見守っていたのだが。
そんな心配事から数日が経ち、西谷と東峰が戻り、
新しくコーチを迎え、名前はその事を幼馴染みに
嬉しく伝えていた。
笑顔の彼女とは反対に、ゴールデンウィーク中
に烏野は合宿を行う事を知って、そこから更に
東京の学校とも練習試合が行われると知ると、
及川の心配事は増えて、表情は曇る事ばかり。
「やっぱり、合宿に潜入するべきだったか。」
「それをしたら、お前は不審者と化すだけだろ。」
「苗字ちゃん、寝惚けて別の布団入ってくるん
だろ?たまんねーよな、あの子が布団にいたら。」
「マッキーは不安を煽らないでください!」
不安を募らせながら、無事に合宿が何事も無く
終わる事を及川も岩泉も願ってみるが、虚しい
ことにその願いは敵わない。
「ちょっと、苗字がなんでここに!?」
『ん…、東峰あったかい。』
「まっ…?!タンマ!擦り寄って来ないで!」
「え、旭さんが名前さんを?」
「ご、誤解だって〜〜〜!」
最終夜に東峰が被害者となり、周りが羨む中、
彼は彼女の柔らかい感触が忘れられず、その日
一日彼女と目を合わせれずにいて、名前は申し訳
なさそうに笑っているのだった。
「名前、これ向こうに渡すビブス。」
『ありがとう、潔子ノートはここに置いとくね。』
忙しく2人が動いているその日は、いよいよ東京
にある、都立の音駒高校バレー部が訪れる日。
田中が向こうの2年生の金髪のモヒカン男と睨み
合っていると思いきや、清水の姿を見てが叫び
声をあげかながら走り去るので、先が思いやら
れると彼女は苦笑いを浮かべていると、練習
試合が始まれば、その男は泣き始めてしまった
ので、名前はおろおろと戸惑った。
『え、その…山本君だっけ?大丈夫??』
「あ、ソイツはほっといて貰えれば、大丈夫です。」
夜久のアドバイスにコクリと頷いて、名前と夜久
の2人が並ぶと、黒尾は哀れみの目を向け始める
ので、彼女は不思議そうに首を傾げた。
「烏野のマネさん、スタイルいいんだね。
夜久君が並ぶと余計に際立つな。」
「お前はいちいち余計だよ!」
『あー、その…デカくてすみません。』
「え、触れたらダメな感じだった!!?」
黒尾の言葉に分かりやすく落ち込むと、慌てて
俺から見たらいい感じの身長差だしと、黒尾は
彼女フォローを入れて、孤爪はじっとりと冷や
かな視線を送り、何言ってんの?と黒尾に向け
て、落ち込んでいた彼女と目がパチリと合って
しまい、咄嗟に彼は視線を逸らした。
『主将さんの発言より今の方が傷ついたかも
です。』
「あ、この子もすみません人見知りする子だから
気にしないでください。」
『えっと、この方がセッターさん?』
体格が自分と変わらない気がして、自分のよく
知るセッターとはまた違った、新しいタイプの
セッターに名前はついつい興味が湧いてしまう。
『面白くなりそうですね。』
ふわふわとした雰囲気から一変として、彼女の
凛とした姿勢と鋭い視線を向けられて、孤爪の
背筋もぞくりと来て、それは恐ろしさとかでは
なく、どちらかといえば高揚感に近かった。
この人も不思議な人だな。
孤爪はそう思いながら、試合中は集中していて
も、気がつけば意識は彼女に向けてしまう。
名前もまた逆に、そのしなやかな動きに見蕩れ、
司令塔である孤爪の動きを面白いと思い、互い
にある意味両思いとなっていたのだが、彼らは
気付かぬまま、試合は何度も何度も行われるの
だった。
「名前さん、完全にスイッチ入ってんな。」
「影山君ったら、ヤキモチですか?」
「あぁ?」
「すみませんでした、気のせいだと思います。」
結局、烏野は音駒から1セットを取ることもなく
練習試合は終わりを迎えようとしていた。
「やっぱり、バレー経験者なんだ。」
『そう言えば言ってなかったね。ちょっとだけ
やってました。』
片付けを済ませ、音駒のスクイズボトルを彼女
が綺麗に洗って返せば、仕事を終えたその掌を
孤爪が手に取って、彼女の硬くなっている指先
を見て、そう言い出した。
「もう、バレーはしないの?」
『うん。高校は選手じゃなくて、サポート側で
過ごしたいなあと思いまして。別に怪我とかは
全然してないよ?』
「じゃあ、苗字さんとも今度やってみたいな。」
試合中に段々と彼らは砕けた喋り方に変わり、
作戦を後ろで聞いていた名前の反応から孤爪は
気がついたのか、手を見て納得をして、彼を
よく知る周りは、そのやり取りに驚愕したのか、
目を見開いていた。
「おい、研磨が女子と目を合わせて会話してるぞ。」
「山本、先越されてんじゃん。」
「お、俺の事は放っておいてください!」
その時、ジロっと孤爪から視線を向けられそう
になったチームメイトは、邪魔をしないように
慌てて2人から視線を逸らし、再びその手をじっ
と見つめていた。
「苗字さん、ちょっとだけじゃないよね?
凄く頑張ってた手じゃない。」
『名前。』
必死だった過去を隠したいのか、それとも単純
にその呼び方が気になったのか。
彼女は名前でいいよと微笑んで、孤爪はその
柔らかい彼女の表情に、胸がトクリと鳴った気
がする。
「じゃあ、俺も研磨で。」
『研磨、ちょっとだけトス上げてくれない。』
彼女はそう言うとボールを一つ運んできて、
まだ片付けられていないコートまで孤爪の手を
引くと彼女は離れた場所で楽しそうに彼にパス
を回した。
あ、この人、綺麗だ。
「名前!!!」
そのフォームに、躍動感に、孤爪も逆に彼女に
見蕩れ、周りも突然の出来事に驚かされる。
「研磨が初対面に頼まれてボールを上げた?」
「しかも他校の女子。」
「そして、呼び捨て。」
「名前さんのストレート久しぶりだな。」
「名前さん、カッケー!!」
「こら、名前!準備も無しに怪我するだろ!
あと他校の後輩巻き込まない!!!」
音駒側は見たことも無い孤爪の姿にまた驚かさ
れて、烏野側は影山と日向は目を輝かせ、澤村
は怪我を心配して怒鳴り、彼女が逃げるように
菅原の方へ避難すると、彼は「だから言ったべ?」
と呆れた口調で名前を注意していた。
『ごめんね、つい。』
その後は楽しく雑談をし、相手が帰りの新幹線
の時刻が迫ると、仲間達と一緒に彼らを見送り、
次回も再会することを決意する。
日向と孤爪が挨拶する横で、言葉は交わさずに
名前と孤爪は微笑み合っていた。
影山はその姿を不服そうに口を尖らせていた。
「名前さんばっかり、狡いっす。」
『飛雄もセッター同士で会話したいって感じ
だったもんね。』
大丈夫、また会えるよ。
その言葉は本当になり、インターハイ予選後に
また新しい刺激は起こって、孤爪と名前の距離
は近づくことをこの時の2人はまだ知らない。
『んー、とりあえず。終わった終わった。』
「今日俺、家まで送りますからね。」
『うん、ありがとね飛雄。』
ひと仕事終えて、ぐっと背筋を伸ばして彼らも
家に戻ろうとすると、珍しい飛雄の呼び掛けに
名前は笑い、自宅に到着すればよく知る顔が玄関
の前では待っていて、睨み合う2人を見て、彼女
は困った顔で笑った。
「ちょっと、何で飛雄がいんのさ!」
「俺は夜道が危ないから、送っただけです。
及川さんこそ、なんでいるんスか。」
「心配だから顔見に来ただけだよ。お前みたいな
危ない狼と一緒なら、本当注意しなきゃ。」
『2人とも喧嘩しないで…ってハジメも来た!』
「何となく嫌な予感して来てみたんだが…。
お前ら何やってんだよ。」
「出た岩ちゃんレーダー!」
「出た岩泉さんレーダー!」
back
top