青葉城西のマネージャー
彼の頭の中に最初に浮かんだのは、「王様の癖
に。」と単純な一言目で、特に彼女に対しての
印象の言葉は、特には無いはずだった。
『飛雄、久しく会わないうちにまた身長伸びた
でしょ?前会った時より大きくなってる! 』
「名前さん、ヤメテクダサイ。」
大きくなってーと他校の人間を親戚の子供を扱う
ように、楽しそうに笑いながら撫でて、嫌がる声
を出す影山も嬉しそうに見えた。
『学校は楽しんでる?』
何となく、その様子から本当に嫌なのではなく
て、照れから来ているもので、多分影山はその
目の前にいる女子に好意を抱いている。
「まさか、影山のお世話になっている先輩って
女の人だったの!?」
『飛雄がお世話になります…って嘘、私と目線
が一緒。確か飛雄が言ってたミドルブロッカー
って…。』
「コイツですね。」
「あの…その…。」
『凄い!何センチ?楽しみだね。』
その証拠に、今日向と会話をしている姿は不服
なのか、口には出さないが、仏頂面が更に酷く
不機嫌な顔に変わっている。
『日向君、大丈夫?調子悪い?』
「コイツは、ほっといたら大丈夫です。」
一方日向は、頭を撫でられているにも関わらず、
名前のオーラに圧倒されているのか、緊張で
柔らかく笑っている彼女と反対に、顔が青ざめ
ていくのだった。
「へぇーーー。」
「…何だよ、言いたいことがあるなら言えよ。」
「別に。」
『ん、飛雄と同じ1年生の子だよね?』
「そうですね、影山君のお世話をしてます。
それでは失礼しまーす。」
名前と月島が言葉を交わしたのは一言だけで、
ニヤリと影山にだけ嫌な笑みを見せた月島は、
わざとらしい、嘘臭い爽やかな笑顔を名前に
向けると、その場からは立ち去ろうとする。
すると、それと同じタイミングで、金田一と
国見が彼女を発見をして、今までのやり取りを
しっかりと見ていたのか、顰めっ面を見せて、
特に国見の方があからさまに嫌な顔をして、
彼女を自分達の元へ、すぐに連れ戻していた。
「名前さん、何やってるんですか。」
「岩泉さん達が探してましたよ。」
『はっ、つい気になって寄り道したから、
ハジメ達に怒られるかもしれない。』
「もう、俺達は怒ってますけどね。」
普段は彼女の手を引かない金田一まで、彼女の
手を引いて、体育館まで足を運んでいるのは、
彼もしっかりと怒っている証拠。
そこからは国見と金田一が邪魔をして、影山と
会話をする事は、出来ない時間が続いた。
「王様、敵が多いじゃん。」
「名前さんとは、そんなんじゃねえよ。」
「でも、名前で呼ぶ程の仲なんでしょ?」
自分には無関係の話だと言いたいのか、そんな
名前達を見届けて、揶揄った気持ちで影山に
そう言葉を投げかけたら、怒らずに淡々とした
口調だったので、意外と面白くない。
こんな事では妬かない理由は、後からわかって
いくのだが、この先、月島は彼女と関わること
は一切無いものだ、そう思い込むのだった。
練習試合の気分は、どちらかといえば良くは
無かった。
自分の視界にはそのまま入れまいと思っていた
のに、やはり影山の先輩という存在が気になる
のか、月島は前衛に回ればチラついて、自然と
意識をしてしまっていた。
影山の活躍を興味深そうにしているのが、何故
だか今は、気に入らない。
そしてふと目が合えば、先程まで柔らかい表情
で、どちらかといえば大人しいタイプだと思っ
ていたからか、鋭く探る目を向ける彼女のその
ギャップに、彼も動揺をした。
「6番の君と5番の君、レシーブ苦手でしょう。」
そして、今、状況としては気分は最悪な状態。
ピンチサーバーとして現れた及川という男に
狙いを定められ、黄色い声援を向けられた彼
に、容赦なく鋭いサーブを狙われた。
まだレシーブに自信が無いのを見せつけられて、
月島には悔しさしか沸き上がらなかった。
「上がった…!ナイス月島!」
このみっともなさを一刻も早く払拭したくて、
何とか及川のサーブを上げても、相手コート
まで飛んでしまって、そのサーブの威力が気に
入らない。
『日向君、すっごく面白い。』
結局、その後に注目を浴びるのは金田一の攻撃
を止めようとした日向で、彼の決めたブロード
で試合は終了を迎えるのだった。
試合を終えて、月島はアザが出来る前に早めの
対応をと思い、まだマネージャーに声をかける
のは躊躇ったのか、とりあえず自分で応急処置
をしようと、体育館にある水道で、自分の腕を
冷やしていた。
『あっ、えっと…大丈夫?』
振り返れば、ちょうど荷物を運んでいた名前と
鉢合わせをして、月島の様子を伺い、及川の
サーブの威力を知っている分、月島をほっとけ
なかったのか、彼女から声を掛けていた。
今日はついていない。
情けない姿を名前に見られたくなかった月島は、
心の中にはそう浮かび、大丈夫ですとまた取り
繕った笑顔を作った。
その場を直ぐに離れると思ったのに、彼女の
行動はその逆で、まだ水道の水はしっかりと
冷たかったからか、心配をしていた彼女は、
その温度には安心をした。
そしてその場にすぐに荷物を置いて、ちょっと
待っててね!と急いでカゴに入っていたタオル
を持ってきて、しばらく冷やしていた月島の腕
をぽんぽんと優しく拭ってくれるのだった。
『うん、そんだけしっかり冷やしていれば
もう拭いても大丈夫だと思う。』
「あの、大丈夫です。」
『嘘、痛いくせに。最後、及川のプレッシャー
に負けずに頑張って上げてたね。』
月島は、他校のマネージャーに手を煩わせまい
と遠慮の言葉を掛けたのだが、名前は構わず
そう答え、カッコよかったよ!なんて、柔ら
かい笑顔まで向けて来た。
思いもしない褒め言葉は、さっきまでこちらに
向ける視線は鋭かった視線とは違いすぎて、
今度は真逆の反応に月島は少し戸惑う。
『なかなか、1年生でそんなに根性ある子
いないから、すごいと思うよ。』
「どうして、自分の所の生徒じゃないのに、
そこまでしてくれるんですか?」
『生憎、困った人間は放っておけないタチ
でして。それと、負けない気の強い子は、
嫌いじゃないよ?』
お節介だと伝える嫌味を混ぜたのに、堂々と
した彼女は、はっきりと月島にそう答えると、
月島の腕を優しく撫でていた。
「…そうゆう所か。」
『ん、どうゆう所?』
突き放しても、彼女は優しいまま、誰でも受け
入れる人間なのだろう。
影山が、名前に惹かれている理由がわかって
しまった月島は、目を伏せる彼女が綺麗に見え
て、胸の奥が擽られる気持ちになりそうになり、
はっと我に返り、冷静さを取り戻した。
『ん、大丈夫そうだね。』
「ありがとうございます。」
そこからは、月島から素直にお礼の言葉が出る
と、名前はとんでもない!と満面の笑みを向け、
よく頑張りました!と労いの言葉と共に背伸び
をして、わしゃわしゃと彼の頭を撫で始める
ので、また一つ、突拍子も無い彼女の行動に、
月島は固まった。
『ごめん、しまった、つい後輩の癖で!』
「…え、あの、はい。」
かあっと頬が赤くなって黙り込む月島を見ると、
名前も恥ずかしくなったのか、謝りながら、
ゆっくりと後ろへ下がっていき、そのまま荷物
に足を引っ掛けて崩れ落ちそうになり、彼女の
悲鳴と同時に、月島の腕はすぐに伸びた。
「…間に合った。」
『ありがとう。月島君、ナイス反射。』
彼の腕の長さが救いとなったのか、何とか転ぶ
前に月島は間に合って名前を抱きとめ、彼女も
お互いに怪我をしなかったことに安堵の息を
漏らす。
「名前大丈夫?!…ってねぇ、そこで何を
してるの?」
思いの外、驚いた時に大きい声が出ていたよう
で、その声で駆けつけた及川は、二人の状況を
見て、嫌そうに顔を歪ませた。
その距離は、あと少しで唇に触れそうになった
顔の近さに、腰元はがっちりとホールドをして
いる。
及川の機嫌が一気に悪くなるには、十分の事態
で、彼女は慌てて月島に謝りながら、顔を
真っ赤にさせて、その場から直ぐに離れた。
普通はそこで、何も無かったかのように立ち
去ろうとするのに、タダで済ませようとしない
のは、さすがの月島と言ったところか。
「名前さん、ご馳走様でした。」
爽やかに名前に笑顔を向けて、わざとらしく
彼女の唇まで拭って見せて、決してなにか起き
た訳では無いのに、意味深な行動を見せて、
彼はその場から立ち去る。
「名前ちゃん、今何が起きたの?」
及川の張り付いた笑顔に怯え、名前は首を横に
ブンブンと勢いよく振って、そこには何も起き
てはいない事を訴えた。
その後、金田一が転んだ時の一部始終を見届け
ていたようで、及川に説明をして、彼女は無罪
だと判明をする。
「アイツ、厄介だな。」
「印象を残すってことは、意識させようとした
ってことか?」
国見もその話を耳にして、気分がいいものでは
ないので、眉間に皺を寄せる。
そして、月島には近寄らせまいと密かに意志を
固めているのだった。
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