季節外れの肝試し



『え、私も参加しなきゃダメ?』

「お前みたいなタイプが参加するから、面白い
んだろ。」

夏は虫で散々悲鳴を上げさせられた今宵、今度
は誰もいないはずの教室で、名前は悲鳴を上げ
させられようとしていた。

10月の森然高校での合宿の夜、すっかり夜風で
涼しいを通り越していたというのに、前々から
皆がやりたいと言い出していた肝試しをやっと
ここですることとなった。

名前が虫や雷と同等に苦手なもの、それはこの手
のホラー系で、まだ始まってもいないのに、体
はカタカタと震えていて、今すぐにでも部屋に
帰りたいと願ってしまう彼女は、そう言われて
黒尾に止められてしまう。

「そもそも、部屋に帰っても今は誰もいない
んじゃ無いか?」

「名前さん、一緒に部屋に戻ります?」

「前科があるお前と二人きりにするわけねー
だろうが。」

「心外ですね、ただ星を一緒に見ていただけ
です。」

『じゃあ、男子の今寝ているの子の部屋に
行く。』

「いや、何故それを許されると思った?」

「木葉さん、確かもう寝てましたよね。」

「じゃあ、尚更ダメだ。」

『何でそこで木葉くんの名前が。…でも、確か
に寝ている人の邪魔はしたくないし、ここは
参加せざるを得ないのか。』

澤村の言う、部屋には誰もいないというのは
この肝試しを面白そうだと話に乗ってしまい、
マネージャー達は仕掛ける側に回っていて、
自分達が寝泊まりする部屋には、今は全く人が
いない。

なので誰もいないと聞いて、以前よりも彼女に
積極的になってしまっている赤葦がそう誘い
出そうとすれば、黒尾が目を光らせて、そんな
会話なんて耳に入らない名前は、この先にある
真っ暗な教室に踏み込む事を決心するのだった。

『仁花ちゃん…そうだ!仁花ちゃんとペアを
組ませてください!』

「谷っちゃんは、怖がり過ぎて気を失ったら
いけないから、今回は仕掛け側だよ。」

『何でマネージャー皆そっちなのに、私は違う
わけ!?』

「だから、面白要員だっつってんだろ。」

きっと、怖がりな人間は回る側に参加だろうと
思った名前は、そう言って勢いよく手を上げ
ながらお願いをすると、残念ながら木兎から、
悲しいお知らせが聞こえて来て、黒尾からは、
意地悪なそんな声が聞こえていた。

いつから準備されていたのだろうか、てっきり
複数の人間で回るものだと思っていたそれは、
スタンプラリー形式でペアで回るらしく、箱に
入ったくじを彼女も引かされる。

ここからは男同志の暗黙の勝負といったところ
なのか、この合宿で他校の人間はきっと最後に
なってしまうであろう、名前と二人きりになれる
絶好のチャンス。

何が何でも掴まねば、阻止せねば。

『あ、6番て書いてある。』

「あ、ラッキー、俺6番!」

「木兎お前、それ印隠してんじゃねーよ!
9番じゃねーかよ。…て俺かよ!」

「げっ、黒尾かよ!!!」

「うわぁ、おどかし甲斐のないペアだな。」

「俺は、月島とみたいだな。」

「赤葦と月島って…。こっちもまた、表情が
読めないペアかよ。」

一部の連中が思い思いにそれぞれ顔を見合わせ
て、相手の番号の探り合いが始まってしまい、
そう言った澤村も番号を見れば名前とは違い
肩を落として、澤村とペアになった夜久もまた
同じようで、互いに慰め合うように笑い合う。

その他の後輩達ともペアは違ったようで、では
残るは?と振り返れば、嬉しそうに震えている
勝ち組がそこにいた。

『もしかして、まさかのスガ君もホラー系は
苦手なのかな?』

「名前、多分そういう系ではないから安心しろ。」

この幸運を掴んだ嬉しさは、思わず言葉を失って
震えてしまう程で、喜びを噛み締める菅原を見て
勘違いをした名前を澤村が安心させて、肝試し
はいよいよスタート。

そのトップバッターは、日向と東峰の異色ペア
で、日向の肩を掴みながら、カタカタと大男が
震えながら姿を消し、それにすっかり怯えて
しまった彼女は既に涙目になっている。

「涙目の名前ちゃん…きゅん。」

「いや、本当にお前じゃなくてよかったわ。」

「いやいやいや、お前こそどさくさに紛れて
変な所触ったりするだろうが。」

そんな姿で待つ名前を見て、木兎が目尻を下げる
横で、顔を顰めた黒尾は木兎の脇腹を突く。
そんな大人気ない先輩達に冷たい眼差しを見る
と、少しだけ冷静になれる気もしてきた。

すると、隣からぎゅっと暖かい温もりが手から
伝わって、そちらに視線を向けると、菅原が
自分の手を握ってくれていた。

「こうしてたら、まだマシだろ?」

『うん、少しだけホッとした…。』

ありがとうとお礼付きで、ふんわりと彼女に
笑顔を向けられたら、耳までがあっと熱を持ち、
菅原の白い肌も林檎のように真っ赤に染まって
いく。

ここが暗い場所で良かったことに安心をしな
がら、しかしここだと、この幸運を噛み締める
時間は驚く程に短い。

「じゃあ、反対側は俺が。」

『やっくんもありがとう。』

黒尾同様隙のない男、夜久は小さな抵抗を見せ、
順番が来るまではと、名前が怖がらないように
彼女の隣に立っている。

「音駒のガード硬過ぎでしょ。」と誰が吐いた
のか、本当だなと菅原も遠慮無しの夜久の姿を
見て、困った顔で笑うのだった。

この限られた空間で、一体何を仕掛けているの
だろうか。

怖いものには割と強い、灰羽や影山の悲鳴、
そして飄々とした態度で赴いた、木兎と黒尾の
嘆き声が聞こえていて、その次に向かおうとして
いた名前達は顔を見合せ、主に名前の血の気が
どんどん引いていく。

「だっ、大丈夫だからな!」

そして自分達の回る番がやってきて、菅原が
そう言って恐怖で言葉が出ていない名前を
励ましながら先に進み、彼女の手を握りしめる
力を少しだけ強める。

すると、こくんと菅原の言葉に頷く彼女は怖さ
を必死に紛らわせようと彼の体に身を寄せ、
青ざめる表情の名前とは逆に、菅原の体の温度は
上昇する一方だった。

あまりにも名前が怯えすぎているせいか、思った
よりも演出は控えめで、黒尾達の悲鳴とのギャップ
に菅原も拍子抜けしていた。

そういえば、音駒の仕掛ける側のメンバーは
孤爪と福永と海といった、黒尾達の弱点をよく
知り、尚且つ、彼女の苦手なものもよく分かって
いる彼女に対してかなり甘いメンバーだったっけ
と思い返す。

それに加えて、烏野は縁下とマネージャー2人、
梟谷や森然、生川もどちらかといえば策士が
多く、黒尾達を驚かせることに長けている事に
気がつくと、思わず苦笑いを浮かべた。

「名前、大丈夫?」

『な、な、何とか、生きています。』

今回は自分がおどかす側に回らなくてよかった
と考えながら、菅原は1つ目の教室に入って、
ベタな人体模型を置かれたその場所で、面白い
くらいの悲鳴を上げる彼女の背中を撫でる。

「名前、ただの人形だから大丈夫だって。」

『目が死んでるから無理!』

「いや、人体模型が活き活きした目だったら、
逆に怖いだろ。」

菅原の指摘が面白かったのか、孤爪と清水の
吹き出す声が聞こえていたのだが、必死な彼女
の耳には入ってこず、菅原が通った証明になる
スタンプを押すと、その部屋からは出ていく。

2つ目、3つ目と部屋に入り、多分ほかの面子
なら多彩な仕掛けがあったであろう、その形跡
を見届けながら、これまたベタなこんにゃくが
名前の首筋にぴとりと引っ付き、彼女は予想通り
の石化状態。

既に我慢の限界を迎えていた名前はそれに加えて、
不運なことにも前回の人物に使われたであろう、
偽物の蜘蛛を見つけてしまったのか、半泣きで菅原に思い切り抱き付いていた。

「ちょ、ちょ、名前落ちつけって〜〜!」

『もう、やっ、無理無理無理!』

「待って、俺も一応男だから…。」

この度で2度目の名前の胸の柔らかさをダイレクト
に味わってしまい、邪念と戦いながら菅原は
彼女を落ちつかせるのだが、名前を呼べば、
抱きしめる力は増すだけなので、彼も仕方ない
かとそのまま、彼女を背負い始める。

『スガ君…?』

「こうしたら、目を瞑っても危なくないだろ?」

『スガ君が重さで潰れちゃう!』

「いやいや、見くびらないで欲しいわ。」

体勢をよっと立て直し、彼は器用にスタンプを
押したら、そのまま名前を背負ったまま、廊下
を歩いてゴールまで向かう。

『スガ君が一緒でよかったかもしれない。』

「俺も、可愛い名前見れたから満足。」

『私全然可愛くないよ!ダサ過ぎる。』

そこに顔を埋めるなよ、余計にドキドキするだろ。

本音は胸の中にしまって、背中に心臓が無い事
に感謝しながら、彼はわざと揶揄い、彼女の怖さ
を少しでも軽減させる。

「名前の面白いところ、またまた発見。」

他の連中に詰め寄られるのを覚悟して、彼は
残りの帰り道を楽しんでいた。





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