永遠
hgwr殉職。先に言いますが夢主もしにます。苦手な方はお控えください。彼が帰ってこなくなってから7年が経った。
いつ帰ってきてもいい様に部屋は綺麗にし、夕飯の用意も欠かさずにいた。
けれど彼がこの部屋のドアを開ける事はなく、作った夕飯が減る事もなかった。
研ちゃんと一緒に食べなきゃ何を食べても味なんかしなくてまるで砂を食べているかの様でそのうち受け付けなくなった。
はじめの頃は友人が無理矢理外に連れ出したり研ちゃんの同期の人達から連絡も来ていたが、それも次第に誰からも来なくなった。
最近急に冷え込み1人で眠るベッドが冷たい。
研ちゃん、ちゃんとあったかくしてるかな?
さみいさみいって言いながら煙草吸ってるのかな?
もうこの部屋には彼の、煙草の匂いがしない。
研ちゃんは臭くてごめんな、なんて笑うけど夜眠る時に抱き締められる胸元からふわりと香るあの香りが大好きだ。
煙草に火をつける仕草も、その横顔も、それを挟む白くて長い指も。
「どうして、帰ってきてくれないの…」
研ちゃんの帰りを待ちながらどこから出てくるのだと思う程の水分が目元から溢れ、研ちゃんの匂いがしないシーツへと染み込んでいく。
研ちゃんが帰ってきた時にこんな顔じゃ笑われちゃう。
溢れ出るそれを止めようと何度も何度も目元を擦るが一向に止まる気配はない。
「そんなに擦っちゃうと腫れちまうぜ…?」
「……え、」
「ほぉら、可愛い顔が勿体ねぇよ」
「研、ちゃん…?」
「…なまえがあんまりにも泣いてばっかだから、むかえに来ちまった…ごめんな?」
「研ちゃん…、研ちゃん…!」
「ほらほらそんなに泣きなさんな…って泣かしてんの、俺かぁ…」
「ううん、これは、研ちゃんに会えた、嬉し涙だから…だから、いいの」
「…本当に、いいのか?」
「うん、これからはずっと一緒にいてね」
「あぁ…これからは、ずっと一緒だ。ほら、おいで?一緒に眠ろう」
「ん…ぎゅーって、して?」
「モチのローン♪」
ずっと、ずっとずっとずっとずっとずっとずっと待っていた彼が目の前にいる。
本物だ。
本当だ。
彼はもう帰ってこない、なんて言った人達に見せてやりたい。
目の前にいて、変わらない笑顔で、変わらずに優しく抱き締めてくれている。
あったかいなぁ……
やっぱりこんな広いベッドは研ちゃんがいなきゃ勿体ないよ。
明日の朝ご飯は何にしようかな。
早起きして研ちゃんの好きな物を用意しようかな。
でも研ちゃんと離れたくないなぁ。
2人で朝寝坊してどこか食べに行くのもいいな。
温かさに包まれながら、静かに瞼がおりていった。
『今日未明、隣の部屋から異臭がするとの通報を受け出動した警察官により発見されたのはこの部屋の住人である…』『捜査関係者によると室内は整っていましたが腐敗した食べ物が並んでおり住人は酷く痩せ細っており栄養失調の状態だったと言う事で…え…?と、とても穏やかな表情で亡くなられていたという事です。警視庁は事件性はないと見て…』
休日のお昼には似つかわしくないニュースが阿笠邸のリビングでティータイム中の探偵団達の前に流れる。
「知ってるぜ!コダクシ、て言うんだろこういうの!」
「それを言うなら孤独死ですよ元太くん」
「孤独死ってなぁに?光彦くん」
「一人暮らしの人が誰にも看取られる事なく病気などでそのまま亡くなってしまう事…ですかね」
「え〜じゃあこのお姉さん1人で亡くなっちゃったの?さみしいね…」
「歩美ちゃん…」
一瞬しんみりとした空気が漂うものの、ニュース内容は変わりカピバラが温泉に浸かる映像になると話題もあっという間にそちらへ変わっていった。
時を同じくして喫茶ポアロでも同様のニュースが流れ、潜入捜査中である探偵兼アルバイターである降谷の耳にもそれは入った。
ガシャン
洗っていたグラスが手から抜け落ちた。
あの部屋は萩の…まさか彼女がまだ住んでいて、そしてこんな形で彼女の最期を知ってしまうとは。
あの萩原が他の女性に向けるものとは全く違う緩み切った笑顔を向ける相手。
研ちゃん研ちゃん、とベッタリで萩原の顔がよりだらしくなっていたのを覚えている。
今頃2人はあの頃の様にベッタリしているのだろうか。
研ちゃん、大好き!
俺もだぁい好き!
これからはずっと一緒?
あぁ、ずっと一緒だ、ずっとな…
ふと、そんな2人の会話が聞こえた様な気がした。
いや、気のせいだろう。
割ってしまったグラスの片付けをしながら、今は遠い場所にいる友と、その恋人の安寧を願った。
end.