つぶやきの部屋

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2025/05/19 20:10

赤い月番外編
正直に言おう。

「お前らマッッッジで使い物にならねぇな???」
「は?んだとテメェ」
「何で貴方はそういう言い方しかできないんですか」
「何で一番役に立たないアンタが一番怒ってんのよ」

誠凛の連中ほど戦力にならない奴らがいるだろうか。百歩譲って火神はまあ使えたとしてもそれ以外はいない方がマシだ。鷲の目を持つ伊月も使えないことはないが、プラマイで言えばマイナスだ。この役立たず達を庇いながら、なんて余裕は無い。いっそ偶然を装って…とも思ったが脱出できなくなるのは困るからやらないが、その勢いだ。

私の言葉に噛み付いてきた火神と黒子に盛大にため息を吐いて如何に自分たちが使えないかを淡々と話せば、思い当たる節はあるようで誠凛全員がぐっと言葉を飲み込んだ。コイツらみたいな性格の奴ほど自分のせいで誰かが危険な目に遭うんだぞ、と思い知らせれば大人しくなるものだ。

「圧倒的に戦力にならない役立たずなんだから、脱出に必要なヒントの一つや二つ見つけてもらってもいいですかぁ〜?」

ケラケラと、それはもう心の底からバカにしながら笑ってやれば苛立ったような表情で誠凛の奴ら教室内を探索し始める。成果を上げられないのなら、いてもいなくても変わらない。言われたくないんだったら働いて成果を上げて、己の有能性を示せよ。成果を上げずとも褒めて貰えるなんて思うなよ。結果が全てに決まってんだろ。

「とは言え何にもないことに変わりはないよな」
「それな」
「誠凛の奴らに任せて俺らは休もうぜ」
「さんせー」

今回の探索に一緒に来たのは原とザキ。ウチでは一番のパワータイプだ。今なら集団でゾンビが襲ってきても勝てる自信がある、なんて考えたのが運の尽き。廊下から聞こえてきた呻き声と複数の気配にぴたりと動きが止まる。

「ゾンビ様のおでましだ〜ってか」
「団体様みたいだぜ」
「ストレス発散させてもらいましょっか」

ぐるぐると肩を回しながら楽しそうに扉へと向かった原の後ろを追いかけてザキが歩き出す。軽く準備運動をするように手首と足首をくるくる回す姿は、体育の授業に向かう時のような緩さだ。それに引きかえ、誠凛は険しい表情で扉の向こうを見つめているものだから差がすごい。

原が教室の後ろの扉を開けると、途端にガタガタと音を立ててゾンビが教室内に入ってくる。片っ端から蹴り倒し、殴り倒し、時には武器での攻撃を繰り返す。

「多くね?」
「いや分かる」
「シンプルに数いるってだけ?」
「アイツらが使えないからでは無く?」
「アイツらんとこ行く前に全部仕留めてんじゃん」
「それはそう」
「なーーんかやな感じするよな」
「これ特定の何かをクリアしないとダメっぽいね」

頭上から降ってくるゾンビの拳をしゃがみ込んで避ける。そのまま足を払って転ばせて。低い位置にある頭を思い切り蹴り飛ばす。パァンと弾けるような音と一緒に飛んできた血が頬に跳ねるけど、それを拭う間もなく別のゾンビが襲いかかってくる。

戦いながら覚え始めた違和感は私だけでは無かったようで、原とザキも首を傾げていた。あまりにも目的意識の無さすぎるゾンビの襲来は特定の条件をクリアすることで解消できる、はずだ。多分。知らんけど。おろおろと狼狽えるだけの使えない誠凛の連中に舌を打ってから声を上げる。

「おい黒子、ちょっと外見てこい」
「えっ」
「はぁ!?何考えてんだよ!!」
「言葉のままだよ、外見てこいって言ってんの」
「こんなにゾンビがいんだぞ!?何かあったらどうすんだ!!」
「じゃあお前が行けよバカ眼鏡。そこで狼狽えてるだけで、一体なんの役にだったら立てんだテメーはよ」
「いやバチ切れじゃんウケる」

倒しても倒してもキリの無いゾンビ達と、おろおろしながらお気持ち程度にゾンビを倒す誠凛に苛立ちはMAXだ。口が悪くなるのも仕方がない。ひくひくと頬を引き攣らせながら苛立ちを込めて思い切り足を振り上げる。

私の言い分にも一理…というかほんのちょっと思うところがあったのか、それはもう嫌そうな顔をした日向が黒子の背中をソッと押す。ミスディレクションとは随分便利なもので、ゾンビ達にすら認知されずにスイスイ進んでいく黒子にニヤリと口角が上がってしまう。

「悪い顔してんよ」
「どーせ使えそうだとか思ってんだろ」
「よく分かったね」
「コソコソするだけで戦闘力ゼロじゃん」
「連れてったとこでお前がブチ切れて終了の未来しか見えねぇよ」
「それな??絶対使えねえな!ってブチ切れるんだから辞めな?」
「なんなんだよお前らムカつくな」

黒子のミスディレクションは上手く使えば探索に活かせるのでは、とほんと少し頭をよぎっただけだったのに、散々な物言いである。するりするりとゾンビ達の間を通り抜ける黒子を、誠凛の連中はそれはもう心配そうな表情で見つめる。はじめてのおつかいかよ。緊張したような引き攣った表情で帰ってきた黒子にちらりと視線を移して、目の前のゾンビの胴に蹴りを入れる。

「で?」
「…いました。明らかに、他のゾンビよりもサイズの大きいゾンビが、」
「やっぱりな。原!ザキ!外!デカいのいるってさ」

ニヤリと上がる口角をそのままにイライラしている様子の原とザキに声をかければ、待ってましたと言わんばかりに弾んだ声が返ってくる。あの調子なら数分待てば、この大量のゾンビ達も落ち着くだろう。

「たまには役に立つじゃん」
「…それはどうも」
「黒子のおかげで脱出方法が分かったんだから感謝の一つや二つあんだろ」
「は??何で??私たちのお陰で脱出できるんだよ??なんなら今回この場所から一緒に帰っていいの黒子だけでしょ。アンタら何もしてないし」

本当にああ言えばこう言う、だ。私の言葉や態度一つ一つに噛みつかなきゃ気が済まないのかコイツらは。チッと舌を打った私に返す言葉が無かったのか、悔しそうな顔で黙る日向と火神を横目に見ながら手を伸ばして迫ってくるゾンビに肘を入れる。お前らも同じ目に遭わせてやろうか。

ただでさえ誠凛の相手をしてイラついているというのに、原とザキの楽しそうな声が廊下から聞こえてくるのが益々イラつく。なんでそんなにはしゃいでんだよ、さっさと仕留めろ。ため息を吐いて再びゾンビに向き直り、少しすると背後から声が聞こえて来て振り返った私は頭を抱えずにはいられなかった。

ぺたり、と床に尻もちをついた伊月に手を伸ばすゾンビと、伊月を助けに行きたいけれど自分達の目の前のゾンビを相手するので手一杯な誠凛。最早何度目か分からないため息を吐いて伊月に手を伸ばすゾンビの顎目掛けて蹴りを入れる。机と衝突する大きな音の後、廊下から呻き声が聞こえて、あたりが静まり返る。一瞬の瞬きの間に何事も無かったかのように静寂が訪れた教室で、顔を真っ赤にする伊月に首を傾げた。

「何そのリアクション…」
「す、かーとで…蹴りは、やめたほうが、いいと思う…」
「あ、そういう事?ウケる。パンツ見えたくらいで動揺しちゃったんだ?か〜わいい〜〜」

きょとんと首を傾げた私からそっと目を逸らしてたどたどしく呟く伊月にぷっ、と吹き出して笑ってしまう。パンツとは言ったが、残念ながらスカートの下にはちゃんとスパッツを履いている。どうしても見たいと言うなら見せてあげないことも無いけれど、まさかここまで真っ赤な顔で動揺されるとは思っておらず、ニコニコと頬が緩む。

「何色だった?」
「なッ…!?はぁ!?」
「見たんでしょ?」
「み、見てない!!!」
「嘘つけ。こんなに真っ赤な顔して」
「〜〜ッ、ちょ、マジでやめて、」

座り込む伊月の向かいにしゃがみ込んでけらけらと笑う私から必死に逃げようとする伊月を追いかけていれば、今度は戻ってきた原とザキが首を傾げる。

「ねえ伊月、見たんでしょ?」
「見てないってば!!」
「じゃあ何で顔赤いのさ」
「そ、それは…!〜〜ッちょ、近いって…!」
「あっははは!伊月おもしろ」

ひいひい笑いながら伊月を揶揄う私を原とザキはまたやってる、と言わんばかりの顔で見ているし、誠凛に関しては話の流れから状況を察して想像してしまったのかじわじわ頬を赤くしている。男子高校生は想像力豊かでちゅねぇ。

誠凛と一緒に探索というのは最低最悪だが、こうなってくると面白くて仕方がない。体育館に戻ってきた私がやたらとご機嫌なのに対して伊月がぐったりしているものだから一体何があったんだと全員が首を傾げることになるが、頑なに何があったのかを語ろうとしない伊月に私が腹を抱えることになるのはまた別の話だ。




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