つぶやきの部屋

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2025/06/17 19:20

赤い月番外編2
左足を軸にして、くるりと回りながら右足のかかとをゾンビの側頭部に叩き込む。ゾンビの体がぐらりと傾いて地面に倒れ込んだのと同時にその頭を踏み潰す。ゾンビを倒す方法と言えば、これしか無い。倒しても倒してもキリの無いゾンビに舌を打ち、背後に迫るゾンビを蹴り倒す。それにしたって、あまりにもこっちに流れすぎではなかろうか。

「ちょっと花宮サン?もうちょっと真面目にやってもらえます?」
「やってるわ。テメェのスペックの低さを俺のせいにすんじゃねえ」

チッと舌打ちをした私を見て鼻を鳴らして笑った花宮にひくりと頬が引き攣る。苛立ちを隠すことなく、こちらへ手を伸ばしてくるゾンビの顔面目掛けて蹴りを入れれば、視界の端で瀬戸が笑っているのが見えた。八つ当たりだとけらけら笑う瀬戸をじろりと見てから再び前を向く。

一緒に探索にやってきたのは海常の面々。比較的ぎゃあぎゃあ騒がずに各自が淡々とやれることをやってくれる分、楽なメンバーではある。強いて言えば黄瀬が文句ばかりでうるさいことと、笠松さんが会話にならなくて面倒なことと、森山さんがやたら声をかけてきてウザいことくらいだ。前言撤回、コイツらと一緒も大概だ。

「あーもう!これ何!?どうしたらいいんスか!?」
「ぎゃあぎゃあうるさい」
「そんなこと言ったってずっとこのままは無理があるっスよ!!」
「そんなの分かってるわ」

ぴいぴい文句を言う黄瀬だが、さすがというべきだろうか。私の動きをコピーして最小限の動きでゾンビを仕留めている。私と違って身長と威力がある分、同じ動きをしていても攻撃力は段違いだ。腹立たしいが、ぶっちゃけ一番役に立っている。

けれど黄瀬の言うことは最もで、このままというわけにはいかない。体力は無限にあるわけじゃないし、このまま無計画に襲ってくるゾンビを倒し続けるのはナンセンスだ。攻撃を繰り返しながらじっとゾンビの群れを見つめれば、やたらと動きのキレが良いゾンビが二体、目に入った。

本能的にアレだ、と思った。特に理由は無い。本当に、ただの直感だ。隣にいた黄瀬はまだ余裕がありそうな表情をしているが、他の海常の人たちはそろそろ限界に見える。ちらりと花宮に視線を送れば、同じことを考えていたのかこちらを見た花宮と目が合う。

「黄瀬、3分だけ時間稼いで」
「は?どういう…げっ、まさかここ俺1人にするってことっスか!?」
「お、珍しく賢いじゃん。アンタならいけるでしょ」
「はぁぁああ??なんスかその雑な指示!まあいけるっスけど!!」
「ははっ、ウケる。じゃあよろしく」

ぽん、と黄瀬の肩に手を置いて花宮の方に駆け出す。左足で踏み切ってジャンプをして、花宮の肩に手を置いてゾンビの頭に蹴りを入れる。着地と同時に花宮の右腕を掴み、くるりと回転すれば遠心力で勢いを増した花宮の右足がもう一体のゾンビの頭に綺麗に入る。

一瞬の出来事に海常の人たちはぽかんと口を開けて固まっていて、瀬戸だけがひゅうっと口笛を鳴らした。ほぼ同じタイミングで二体のゾンビの頭が落下し、それと同時に今まで大量にいたゾンビたちの姿が跡形もなく消えた。やはり、予想していた通りだったようだ。

「いや〜今回ばっかりは花宮と一緒でよかったわ〜!」
「あ?どういう意味だよ」
「だってこれ、花宮くらい身長小さい人とじゃないとできないもん」
「んだと、このブス。テメエが重すぎて肩外れるかと思ったわ。ちょっとは痩せたらどうだ」
「あ〜らら〜?こぉんなに華奢な女の子1人支えられないなんて、鍛え方が足りないんじゃなくって?」
「ふはっ、ゾンビの頭を蹴りで落とすような女が華奢なわけねぇだろ。寝言は寝て言えよ」

口元に手を当ててクスクスと馬鹿にするように笑って花宮を見る私に対して、下を出して私を挑発するように花宮が笑う。お互い睨み合いながらバチバチと火花を散らしていれば、早川と黄瀬の興奮した声が響き渡った。

「う、おおおお!!なんだ今の!!超かっけえ!!」
「今のめっちゃ映画みたいだったっスね!?えっ、笠松先輩今の見ました!?」
「…おう。いや、すげぇな、マジで」
「アクション映画さながらだったな…思わず見とれちまった」
「ああ…!なんって美しいんだ!まさに戦場を可憐に舞う蝶だ!」

2人の声を皮切りに海常から向けられるキラキラした視線に、先ほどまで睨み合っていた私と花宮の顔が曇る。別にすごいだの、かっこいいだの、ちやほやされたくてやったわけじゃない。げえ、と嫌そうに舌を打った花宮は早々に瀬戸の方へ避難していて、一歩逃げ遅れた私は森山さんに手を取られた。

「あまりにも綺麗で思わず見とれてしまったけど、怪我はない?」
「はい。平気です」
「そっか、よかった。後からどこか痛んだり、何かあったらすぐ教えてね」
「…どうも」

ふんわりと微笑んで私の手をぎゅっと握りしめる森山さんに、何とも言えない微妙な顔で返事をする。こうも真正面から心配されたり、好意を向けられるのは気持ちが悪い。私のリアクションに困ったように笑って手を離した森山さんから逃げるようにその場を離れれば、キラキラした顔の黄瀬が声をかけてくる。

「ちょっと何スかあのかっこいいの!」
「コピーすれば」
「相手がいないとできないじゃないっスか!」
「分身したら?」
「あ〜!確かに!って無理に決まってるじゃないっスか」
「じゃあ諦めな」

ぶうぶうと唇を尖らせた黄瀬にふっと笑みを零して、ちらりと視線を向ける。きょとんとした顔で私を見た黄瀬に人差し指を立ててにんまりと笑って見せる。

「次、機会があったら一回だけは付き合ってあげる」

その言葉に黄瀬はぱああっと表情を輝かせて喜んだ。言われた通りの3分間をきっちり稼いでくれたお陰でこちらの被害はゼロで済んだようなものだ。私が対応できなかったゾンビたちを黄瀬が止めてくれていたからこそ、他の海常の人たちに被害が及ばなかったのだ。

今この場にいるメンバーの中では最年少でありながら、頑張ってくれた後輩にはちょっとくらいご褒美があっても良いだろう…なんて、そんなことを考えてしまうくらいにはしっかり絆されていたんだな、と私自身が気付くのはまだ少し先の話である。




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