つぶやきの部屋

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2025/07/01 17:00

元帝光🌸ちゃんの話19
元帝光バスケ部の🌸ちゃん。

青峰の強さは、圧倒的だった。今まで観客席から見ていたから知らなかった。ベンチだと、コートの中の熱気もプレッシャーも、全部伝わってくる。青峰が、恐ろしいほどに強いのだと全身で感じられて鳥肌が立った。だからこそ、手も足も出ずに敗北を突きつけられた黒子の涙に、胸がきゅっと苦しくなった。

今までの🌸なら、きっと立ち止まっていた。けれど、今は、前を向いて歩くことの大切さを、強さを、誠凛の先輩たちに教えてもらった。拳を握りしめてベンチに座る黒子の前にしゃがみこんで、その手を両手で包み込む。ハッと顔を上げた黒子の目をまっすぐに見つめて、🌸が口を開く。

「青峰が、強いのは、よく分かった。今の黒子じゃ、手も足も出ないことも、分かった。でも、それは今だから、でしょ?特別なことができなくても、普通でも、逃げても、あの人たちは私を見捨てたりしなかった。諦めなかった。だから、大丈夫。まだ、負けてない」って震える声で紡ぐ🌸に黒子の目が見開かれる。

一体、いつから彼女はこんなに強く、かっこよくなったのだろう。そして、いつから自分はこんなに弱くなったのだろう。彼らの首根っこを掴んで、彼女の前に連れて行くと決めたじゃないか。桃井との約束も、青峰との遺恨も。全部、全部、忘れちゃいけない。諦めちゃいけない。

そう思ったら、もう怖いものなど何もない。「ありがとう、ございます。🌸さん」って🌸に向かってお礼を言えば、驚いたように目を見開いてから恥ずかしそうに頬を染めて「べ、つに…お礼を言われるようなこと、してないよ」って言うからクスクス笑ってしまう。

「青峰くんに、勝ってきます」って黒子が🌸に向かって拳を突き出せば、きょとんとしてから「うん。勝って、きてね」って🌸も同じように握りしめた拳をこつんとぶつける。きっと、皆は勝ってくれるとそうは思っていても、今吉のマークに翻弄される黒子を見て悔しさから拳を握りしめる。

頭も要領も良く、勝利の為に容赦の無い選択をすることができる桃井の力に赤司は気付いていた。今、黒子のマークが今吉になっていることも、誠凛が攻めあぐねているのも、全て桃井の策があってこそだ。それに比べて、自分にはいったい何ができるだろうか、と考えれば考えるほど、あの日自分が切り捨てられた理由を、自分で探しているようで苦しくなる。「おねがい…っ、みんな、がんばって…!」って祈ることしかできない自分に嫌気が差した。

「ミスディレクションオーバーフロー…!?」って目を見開いた🌸に「ええ、そうよ。ただ、この先、桐皇相手に黒子くんのミスディレクションは通用しなくなる」って相田が返す。コートの中では黒子が「先のことは、その時また考えます」ってまっすぐに青峰を見ていて。

その目に一切の後悔が宿っていないことに🌸は驚いた。黒子のミスディレクションオーバーフローと、エースである火神の動きと、先輩たちの勝利への執念。それらが手繰り寄せた勝利に、誠凛は両手を上げて、涙を流して喜んだ。そんな中、たった一人、🌸だけが皆とは違う涙を流していた。

わたしに、桃井のような力があれば。わたしに、勝利のための力があれば。黒子がミスディレクションオーバーフローを使わずとも勝てる道を示せたのではないか。この先の未来を、犠牲にせずとも勝てたのではないか。そんなことを、考えてしまった自分に嫌気が差した。

黒子の勝利への執念を否定してしまうような考えが頭をよぎったことも、自分一人の力で何か大きな物を変えられると思っている自分自身の傲慢さも、喜ぶ皆を見て一緒に喜ぶことのできない自分がいることも。何もかもが、嫌だった。そして、黒子が羨ましくて、憎らしかった。

過去の痛みも、しがらみも、自分の力で壁を乗り越えて、道を切り開いていく黒子の姿が羨ましかった。わたしには、できないのに、なんて思ってしまった。そんな自分の姿が、酷く惨めに見えて、泣きたくなった。溢れ出した涙は、はたから見れば勝利を喜ぶ涙に見えるだろうが、🌸にとってそれは喜びの涙ではなかった。




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