つぶやきの部屋
閲覧数:8479
2025/04/13 17:50
まるで、映画のワンシーンのような
スカラビア寮での宴に招待された監督生とグリム。
普段は食べることのできない豪華な食事に目を輝かせて飛びつくグリムを横目に近くにあったグラスを手に取る。鮮やかな色彩と繊細なデザインのグラスは割ってしまえば一生かけても弁償できるかどうか分からない。
間違っても落としたりぶつけたりなんてしてはいけないと思いながらグラスを傾ける。ふわりと香った花のような香りにほんの少しの違和感を覚えるが、口に含んだものを吐き出すなんてことが出来るはずもない。ゆっくりとそれを嚥下し、一度グラスを置こうとした瞬間だった。
ぐわん、と視界が揺れて、腹の奥から込み上げてくる強烈な吐き気と、喉に集まる熱にぐぅっと喉が鳴る。口元を押さえて必死に吐き気を押さえようとしたが、ダメだった。
「…っぐ、げほっ…!」
手からすり抜けたグラスがラグの上で弾け飛ぶ。賑やかな談話室で一際大きく響いたグラスの割れる音に全員の視線が集まって、悲鳴にも似たようなカリムの声が響き渡る。
「ッ監督生!!」
全身が痺れて瞼が重くなり、咳き込む度に口の中に広がる鉄の匂いが不快で眉間に皺を寄せる。気付けばラグの上に横たわり、指先を動かすことすら出来ずに駆け寄ってくるカリムとジャミルをぼんやりと眺めることしかできない。
「この香り…ッまさか…!」
「じゃ、みる…せんぱ、い」
ぐったりと力を無くした監督生の体を抱き起こしたジャミルが鼻をつく花の香りにハッとした顔をする。そんなジャミルの服の裾を震える手で掴んだ監督生が不安げに揺れる瞳を一瞬だけカリムに向ける。その行動だけで監督生が何を言おうとしたのかを察したジャミルが眉を下げて監督生の手を握る。
「カリムは無事だ、大丈夫」
「よかっ、たぁ…」
ジャミルの返事にふっと表情を緩めた監督生だったが、その表情は一貫して悪いままだ。体は燃えるように熱いのに、顔は死人も驚く程に真っ青で。はくはく、と酸素を求めるように微かに口が開いたり閉じたりするけれど、上手く酸素が取り込めないのか苦しそうに何度も咳を繰り返す。
学園に運ぶのが一番良いのだが、それでは遅すぎると判断したジャミルがバッグから小さな瓶を取り出す。乱暴に蓋を開け、監督生の体を抱き上げて一瞬だけ迷うような表情を浮かべたジャミルが息を吐く。
「緊急事態だ。恨むなよ」
「ん、ぅ」
瓶の中身を一気に煽ったジャミルが、そのままゆっくりと監督生と唇を重ねる。監督生の喉が上下して、口の中に流れ込んできた薬をしっかり飲み込んだのを確認してから唇を離す。突然の出来事に寮生全員が驚愕の表情を浮かべるけれど、ジャミルの表情は一ミリも変わらない。
「カリム、着いてきてくれ」
「あ、お、おう…!」
「お前たちは各自部屋で待機。片付けは戻ってきてから俺がやるから、手は付けなくていい」
「「は、はい…!」」
意識が朦朧としている監督生をふわりと横抱きにして談話室を後にしたジャミルに寮生の視線は釘付け。部屋に戻ろうにもたった今目の前で繰り広げられた映画のワンシーンのようなキスシーンが目に焼き付いて離れなかった。
prev / next
topつぶやきの部屋
ALICE+