「く、ろ…く」
「ん?」
「や…きらい、ならな…で、」
掠れて、声になりきれない音が口から零れる。こんなに大勢の前で言葉を発したのは記憶の限りでは初めてで。
黒尾くんに嫌われたくない。その一心で口から零れた音だった。
「嫌いになんてなるかよ」
いつもより優しい声がして恐る恐る顔を上げる。目が合った黒尾くんは今まで見てきた表情の中で一番優しい顔をしていて。
「ほ、んと…?」
「むしろ、今ちょっとやばい…」
「…?」
黒尾くんのジャージの裾を掴んで黒尾くんを見上げる。
ポンと私の頭に手を置いて、反対の手で自分の口を隠して顔を逸らす黒尾くん。ちらりと見えた耳が赤くなっていて。小さく聞こえた黒尾くんの声に首を傾げたけど、答えは返ってこなかった。
なんでだろう。さっきまで、痛かったのに。
なんだか、心がポカポカしてる気がする。
2017/4/15 執筆
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