ありえない絶許

「…もう一回探索行ってみる?」

その私の一言でもう一度探索に出ることがあっさりと決まった。さっき桐皇が行って何も無かったんだから何も無いだろって意見も勿論あった。甘いんだよ、馬鹿野郎。全く進展がないようにも見えるけど、あの子だけがガラス玉を触れなかったっていうことそのものがイベントだった可能性が高い。つまり、彼女がガラス玉に触れたことで何かが起きた可能性があるってこと。そうなれば探索に出る他ないでしょう?

恐らくだけどただアイテム探して脱出、なんて簡単な話ではないと思う。ゾンビを倒すことでしか手に入れられないアイテムだとか、倉庫で見つけた紙の全容だとか、あのガラス玉の使用方法だとか、あの女が何者なのか、とかね。いろいろ考えなきゃならないこと、はっきりさせなきゃならないことが山積みなわけで。次の探索は何かが起きる可能性が高い為、対応力や戦闘力的な面から見て陽泉になった。そして、何故か知らないけど私とザキも行くことになった。

「おかしい」
「何がだよ」
「なんで私が行かなきゃいけない訳?花宮が行けばいいじゃん」
「俺はこっちでやることがあんだよ」
「はあ?知らないっつーの」
「ザキいるんだからいいだろ」
「そういう問題じゃないんだけど。陽泉だけで行かせればいいじゃん」
「頭使うような場面でアイツらが対応できるとは思わねえからに決まってんだろ。お前がいればどうとでもなる」
「…わかったよ!行けばいいんでしょ行けば!こっからでたらマジバ奢れよ!」
「やっすい女だな」
「うるさい黙れ眉毛」
「あ?んだとクソチビ」
「は?花宮だってチビだろ」
「お前よりでけえよ、バァカ」
「なんで喧嘩してんねん…」
「「喧嘩じゃないです」」
「わかったから、葉月ちゃんはさっさと行き。あっちで待っとるで」
「後で覚えとけよ、まろ眉」
「上等だ、後で泣くなよ」

正直いつも部室でやってる様な会話を繰り広げる私達を止める今吉さんと不安げな目で見る人達、何やってんだあいつら的な目線を向ける人達の中で、やっぱりいつも見てる霧崎の面々は案の定またか、みたいな目で見ていた。陽泉の人達の中にぽつんと立つザキが早く来いよと目で訴えて来てるけど正直本気で行きたくねえ。なんで私がこんな面倒なことをしなければならないんだ、と。

「…はぁ。ヨロシクお願いします」
「全然よろしくって顔じゃねえけどな」
「分かってるなら言わないで欲しかったです」
「一緒に探索行くんだからよろしくしねえ訳にいかねえだろ」
「ソウデスネ」
「棒読みかよ…。陽泉三年の福井健介だ、よろしくな」
「霧崎二年の朝倉です」

私の露骨な態度に少し眉を潜めただけで普通に接してくる福井さんはある意味図太い神経してると思う。その自己紹介を皮切りに陽泉の人達が続々と自己紹介をする。友好的関係を築こうとしてるのは三年だけって感じかな。二年の劉と一年の紫原は私達に興味なし。もう一人の二年、氷室は疑いの色が見え隠れしてる。うん、この人は賢い。この中の誰が裏切り者でもすぐ切り捨てられるように常に警戒して疑いの目で見てる。他人だけじゃなくて自分のチームメイトですらも。高尾も割とそのタイプ。もちろん私や花宮、瀬戸、今吉さん、赤司もそのタイプ。

「ザキ、ごめんね」
「あ?別にお前のせいじゃねえだろ」
「やっぱり?謝って損した」
「んだと、コラ」
「冗談。でも、ザキがいてくれて良かったとは思ってるよ」
「そりゃ葉月ちゃんはビビリでちゅからね〜」
「おい」
「冗談だよ」
「ありえない絶許」
「いつまで喋ってんだ、お前ら。行くぞ」
「…はーい」
「暗いから気をつけてね、朝倉さん」
「アリガト」

体育館を出る福井さん達に続く。もちろんザキの服の裾は握ってる。暗いのはあまり好きじゃないから。さり気なく私の隣に立った氷室が柔らかく笑って私に手を差し出す。その手を取らずにお礼だけ言って歩き出すと驚いた顔をした後、私の隣を歩き出した。なるほど、めんどくせえ。

相変わらず体育館の外は真っ暗で生暖かい風が吹いている。窓の外はほんとに何も無い暗闇で相変わらずの不気味さを放っている。体育館を出てすぐの渡り廊下を渡って見えてくる特別教室はどこもかしこも鍵がかかっていて開かない。更に歩いて少しすると教室棟へと続く渡り廊下が見えてくる。同時に教室棟の方からゆらりゆらりと何かが揺れながら歩いてくる影がぼんやり見える。早速お出ましですか。

「ザキ、多分二体」
「三体じゃね?」
「嘘?」
「後ろにもう一体いるっぽい」
「見えないんだけど」
「葉月がちっさいからだろ」
「またチビ言われたクソが」
「後でマジバのコーヒー奢るから許せ」
「わかった」
「いいのかよ。相変わらず安いな」
「うるさい。来るよ、ザキが2で私が1、おっけー?」
「おー了解」
「いや、山崎くんは一体でいいよ。オレがもう一体仕留めるから」
「ふぅん。喧嘩できるんだ、氷室クン」
「まあ、少しだけどね」
「は?朝倉も行くのかよ!」
「怪我したくなかったら福井さんは引っ込んでてください」
「もっとほかに言い方あるだろ!」
「下がっててください」
「ったく…。絶対怪我すんなよ」
「楽勝です」

ゆらりゆらりと歩いてくるゾンビを見ながら迎撃の準備をする。私を真ん中にして、左にザキ、右に氷室、そして後ろに残りのメンバー。前に出た私に驚いた顔をする後ろのメンバーに対してファイティングポーズで微笑む氷室。顔が整っているだけあって絵になるからムカつく。まあそれは花宮にも言える話なんだけど。あの眉毛のくせにイケメンとかありえないムカつく。八つ当たりみたいになっちゃうけど、ゾンビにこのイライラをぶつけさせてもらうことにして私は右足を後ろに引いた。

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