「なんだ結構余裕じゃない?」
「スカートで蹴りは止めろ、お前」
「何?ザキくんってば照れてるの?」
「ばっ!んなわけねえだろ!」
「大丈夫よ。スパッツ履いてるから」
「そういう問題じゃねえだろ…」

向かってきたゾンビの顎に私の足がクリーンヒット。そのまま後ろにぐらりと倒れたゾンビの頭を潰しておしまい。両サイドも特に苦戦することなく倒していた。体育館出てまだそんなに歩いてないのに既に三体と遭遇とか結構エンカウント率高くないですかね。

今回はドロップアイテムはなくて、再び静けさが訪れた。沈黙を破って声をあげたのは岡村さんだった。主将だし当然といえば当然なんだけど、後輩から舐められすぎてて何か福井さんの方が主将感あるんだよねえ…。

「そんなの言わなくても分かってるアル」
「てか、それしかやることないじゃーん」
「言うのと言わないのとじゃ全然違うじゃろ!」
「全員うるせえ!さっさと行くぞ!」
「福井さんも声大きいですよ」
「あぁ!?」
「…っ、何?」
「葉月?」
「あ、何でもない」

ぎゃーぎゃー騒ぐ陽泉を見て思わず出そうになったため息を飲み込む。歩き出した陽泉メンバーに続こうとした時、誰かに呼ばれたような気がして振り返る。真っ暗な廊下がずっと続いているだけで人の気配は一切ない。ゾワリと鳥肌がたって、左手で右腕を抱えた。

…なんか気持ち悪い。なんとなく暗闇の廊下から目が離せなくて、ぼうっとする私をザキが呼ぶ。パッとザキを見ると少し離れた場所で不思議そうな顔をしていた。駆け寄って何でもないと言うと簡単に納得してくれた。うん、一緒に来たのザキでよかった。

特別教室は全て鍵がかかっていたけれど、普通教室は全て鍵が開いている。最初の探索では何も無かったけれど恐らく今行けば何かある。理由は何度も言うけどあの赤いガラス玉。あれがどんな役割を果たしているのかは知らないけれど、あの女だけがガラス玉に触れないというイベントが起きた。それだけのように見えるけどかなり大きなイベントだ。

「やっぱりね」
「何がだよ」
「予想通りでした。これ、見てください」
「…?本?」
「恐らく本に見せかけた箱ですね…うん、やっぱり」
「鍵?」
「大きさ的に特別教室の鍵ですね。他にもあるかも知れないので各教室見ていきましょうか」

一番最初に入った教室は二年一組。教卓の上にこれみよがしに置いてあったのは康次郎がステージ脇から見つけてきた本と同じ形状のもの。つまりこれは本じゃなくて何かを閉まっているケース。鍵はかかっていなかったから、かぱりと開ける。中から出てきたのは最初に見つけた鍵よりも大きい鍵。多分どこかの教室の鍵だろう。ポケットに閉まって隣に立つ福井さんに向き直る。福井さんは私の言葉に小さく頷いて皆に指示を出し始めた。うん、やっぱり福井さんの方が主将っぽい。

二年一組から見つかったのはどこかの特別教室の鍵とまた白い紙。そして白い紙には《今日から新たな研究を始めた。大雑把に言うと人間の心理についての研究だ。ここに詳しく記すことはできないが未だかつて誰も行ったことのない研究だ。必ず成功させてみせる。研究に当たって何人か知り合いに協力を頼んでみることにする》と記されていた。

「…普通だね」
「普通だな」
「研究ね…ここに記すことができないってことは公にできないってこと?」
「公にできない研究って何だよ」
「…ゾンビの生成、とか?」
「…いやいやいや!」
「いや、うん、ごめん。違うわ、人間の心理についてだからゾンビ生成はありえないね。いやまじごめん」

ザキの疑問は最もだった。なんとなく思いついたものを言ってみたけど案外本当っぽく聞こえてしまって鳥肌が立った。いやほんとこの状況で言うことじゃなかった。言霊って言うくらいだし滅多なことは口に出さない方がいい。でも言ってしまったものはどうにもならない訳で。私とザキのやり取りを聞いていたらしい陽泉の間に微妙な空気が流れる。

「このメモを書いた人がどんな研究してようが関係ないですよ。どうせ、このゲーム私たちの勝ちなんで」
「は?何だよ、急に…つーかどっから来んだよ、その自信は」
「間違えました。私たちの勝ち、じゃなくて私たちが勝つんで、問題ないです」
「アゴリラよりよっぽど男前アルな」
「一応褒め言葉として受け取っておくわ」

相手が誰だろうが関係ない。今までだって私たちは私たちのやり方で戦って勝ってきた。ウチには優秀な指揮官と優秀な兵がいる。心配することなんて何一つない。そう思ったら自然と口から出ていた言葉だった。やっぱり一緒に来てたのがザキでよかった。こんな恥ずかしいセリフあいつらの前では絶対言えない。

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