お前なんじゃねえの

《今日病院で見かけた女の子に決めた。黒い髪に黒い瞳、鈴の音のような声と賢い頭。しかし、あの子を研究に使うのは惜しい。どうしようか》

《また失敗。何度実験しても結果は同じ。やはり、この結果以外はあり得ないのか?いや、研究が悪いのではなく対象が悪いのだろうか。ならば、対象を優れた者に絞れば良いのではないか。恐らくこの実験が最後になる》

《邪魔だった周りの大人を消した。私の職業なら簡単な事だった。誰にも怪しまれずに人間をこの世から葬ることが出来る。あの子の心の傷につけ込んで私に全てを任せてくれる様に仕向けよう。まだあの子は子供だから、私が守ってあげないと》

上から順に二年三組、四組、五組で見つかった白い紙の中身。二年二組からは青いガラス玉が見つかった。赤いガラス玉と同じく、なにか大事なアイテムなんだろう。

「こっちの鍵はまだ試してないから次の探索で試して下さい。それから、今度は青いガラス玉です。ちなみに青いガラス玉には私触れなかったんでそこんとこよろしく」
「…は?」
「いやだからこの鍵はまだ試してないから…」
「そこじゃねえよ」
「?ああ、ガラス玉?」
「触れなかったってどういうことだ」
「いや、そのままの意味。だから今ザキに持ってもらってるんじゃん」

そう。今言った通り、私は青いガラス玉に触れなかった。二年二組の教室の机の中に入っていたガラス玉を取ろうとした瞬間バチリと弾かれた。思ったより痛くて、ちょっとイラッとしたのはここだけの話。ザキからガラス玉を受け取った花宮が徐に私の手を取って、その手にガラス玉を乗せた。

「いった!?は!?」
「…おい、赤司。これも全員触らせろ」
「わかりました」
「おいこら待てよ面白眉毛」
「あ?誰に向かって言ってんだブス」
「私触れなかったって言ったよね?」
「言ったな」
「じゃあ何でわざわざ触らせたわけ?」
「試したいことがあったってのが4割」
「残りの6割は」
「帰ってきたら覚えとけよって言っただろ」
「はあ!?ただの八つ当たりじゃん!ふざけんな」
「うるせえ」
「マジありえんこいつ許さん」

もちろん、ガラス玉が私の手に触れた瞬間バチリと音を立てて床に落ちた。だから痛えって言ってんだろクソ。ケロッとした顔の花宮に心の中で復讐を誓った。この手の痛みは倍にして返してやるからな、覚えとけよ。

けれど、確かに試したいことがあるって言うのには私も納得。ガラス玉に触れられないのは特定の人間であることはほぼ確実。それに場所という条件がプラスされるのか否か。私が体育館の外でも中でも弾かれた、ということはガラス玉に触れることができないのは特定の人間であり場所は関係ない、ということになる。

まあ、まだ100%そうだとは言えないけどね。色が二つあることも悩める要因なわけで、他にもあるのか、とか赤と青で何が違うのか、とか。探索に行くと1つ問題が解決して2つ3つの問題が浮上するから結局問題が増えていくんだよなあ。めんどくせえ。

「葉月」
「なんだよ」
「お前、確か親いなかったよな」
「?あ、ああ。うん、私が5歳くらいの時に死んだよ。理由は知らんけど」
「このメモの女の子ってお前なんじゃねえの」
「…はあ?なんで」
「黒い髪と黒い瞳の女って時点でお前とあの女しかいねえだろ」
「確かに…鈴の音のような声だし賢いし」
「あ?そこは別に当てはまらねえだろ」
「当てはまってなかったらそれ私じゃねえじゃん」
「あぁ、昔の話だもんな。悪い」
「死ねよ」

ふはっ、と笑いながら私を貶す花宮にイラッとしたけどよく考えてみれば確かにそうだ。誠凛のカントクは茶髪だし、桐皇のマネはピンクだからこの時点で条件には当てはまらない。黒髪は私とあの女だけ。そしてその二人は瞳の色も黒。声と頭脳に関してはまこちゃんも言ってたとおり今と昔で違うから今は保留。そして大事なのは『邪魔だった周りの大人を消した』という言葉。

あの女がどうかは知らないけど確かに私の周りには大人がいない。とは言ってもあんまりその時のことは覚えてない。親戚から「葉月ちゃんのお父さんとお母さんは葉月ちゃんが5歳の時に亡くなったのよ」って小学校高学年くらいの時に言われただけだったから。だとしても今一番この条件にあてはまっているのは私、か。聞きたくないけどあの女にも聞かなきゃいけないよなあ…。あ、でも私が聞く必要ないじゃん。赤司に聞かせればいいし。あ、それで行こう。

「あの子にも同じこと聞いてきてよ、赤司」
「俺、ですか?」
「うん。今の話聞いてたでしょ?」
「わかりました」
「よろしく〜」
「自分が行きたくないだけだろ」
「は?その通りですけど?じゃあ花宮が行く?」
「嫌に決まってんだろ」
「そう言うって分かってるから赤司に言ったんだよ」

これであの女に両親がいれば一件落着、メモの女の子はほぼ100%私ってことになる。あれ?一件落着ではないな、面倒くさくね?と、思っていたのだけれど帰ってきた赤司の口から出た言葉は「彼女も幼い頃に両親を亡くしています」というものだった。言いたくないけれど、私とあの女の状況というか共通する部分が多すぎる。違うのは弾かれたガラス玉の色だ。赤と青で何が違うんだ。

「考えても仕方ありません。もう一度探索に行きましょう」

悩む私の耳に、体育館内に、赤司の凛とした声が響いた。

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