分かりにくいよね

次に探索に出たのは海常。一応、原と古橋が一緒に行ったけどすぐに戻ってきた。特別教室のものと思しき鍵は使えず、教室にも一切何もない。ゾンビも出てこないし、普通に歩いて帰ってきただけだったらしい。ここまで来ると今考えている一つの仮説が確定する。

「…葉月」
「私の前にあの子にしよう」
「どうする、赤司」
「分かりました。原さんと古橋さんももう一度海常と一緒に探索に出てもらいます」
「よしっ」
「次はお前も行くんだからな」
「分かってる分かってるよ」

前回の探索と今回の探索で違った点は、ガラス玉に弾かれた私がいたかいないか。ガラス玉に弾かれる人に何かしら役割があるのだとすると探索には必ず行かなきゃならない、というのも納得できる。そうなると私以外にもガラス玉に弾かれた人がいるわけで。彼女が探索に出て事が動けばガラス玉に弾かれた人がいないと探索が成立しない、ということになる。

「わ、私ですか?」
「赤司くん、どうしても姫さんが行かなきゃいけないんですか」
「彼女もこの状況から脱するために重要な役割を果たす可能性があるからね」
「でも…!」
「テツヤくん!私行くよ!大丈夫!」
「姫さん…」
「海常の皆さんもいるし、原さんと古橋さんもいるもん!怖いことなんてないよ!」

はいはい茶番乙。よくもまあこんな痒くなるような会話ができますね、貴方達。まあ確かにあの子が探索に行くのは確かにちょっと心配。戦えるようには見えないし、探索に行って足を引っ張られても困る。あの子を庇って誰かが怪我しました、とか洒落にならないからね。

それから少ししてやっと探索チームが出発した。誠凛の茶番劇に続いて海常まで茶番劇を始めるもんだから思わず「さっさと行けよクソが」と口に出しそうになったけど飲み込んだ私は偉いと思う。まあ、私が言わない代わりに私のイライラを感じ取ったらしい原が「まだー?俺早く行きたいんだけど」と言ってくれたんだけど。さすが原、後で10円ガム買ってやる。

「仮に私がこのメモの女の子だとしたら青いガラス玉に触れない理由は?」
「お前がメモの女で、ここから出る為の鍵になってるってことだろうな」
「だよね。じゃあ、赤いガラス玉は?」
「あの女も何かしらあるってことだろ」
「うん。じゃあその何かしらって何?」
「あの女とお前が同じ様にプラスの意味で重要人物だってことと…」
「マイナスの意味での重要人物ってこと…」
「どちらにせよあの女を警戒しておくに越したことはねえ」
「…何も起きないのはあの子がメモの女の子であるって可能性は?」
「はあ?」
「条件的にはあの子にも十分メモの女の子である理由は揃ってるよ。それに大事な女の子を傷つけようとは思わないでしょ」

挙げられる疑問に一つずつ答えを示していく。そこで行き当たったのは一つの考え。あの子がメモの女の子である可能性。ガラス玉に弾かれてゾンビとの遭遇率は今のところ100パーセントの私は果たしてほんとにメモの女の子なのか。探索に行っている彼女が戻ってきて、何も起きなかったという報告だった時、私より彼女の方がメモの女の子である確率が上がるんじゃないのか。

彼女を知っている人が一人もいない、というだけでも彼女の疑いは大きくなる。けれどこんな非現実的な状況で常識は通用しない。つまり、ここにいる人達の記憶が操作されている可能性もある。そうなると彼女は本来実在する人物…?いや、でもだとしたら最初の彼女のリアクションはおかしい。自分が忘れられていると知ればそれなりに動揺するし、思い出してもらおうとするはずだ。けれどそんな素振りは見せていない。彼女がそういうのを一切悟らせないレベルで女優だってこと?

「うるせえ」
「は?いや、待って何が?」
「ブッサイクな顔してんじゃねえよ」
「なんで貶されてんの私」
「お前は黙ってやることやってろ」
「…はいはい」
「顔、ニヤけてるよ」
「あ、やっぱり?いやー、だってさあ…ねえ?」
「分かりにくよね、花宮のデレ」
「ほんとにね。訳したら変な心配しなくていいからいつも通りにしてろよってことでしょ」
「ま、葉月が悪者だったら似合いすぎてて引くからやめて欲しいけど」
「君は励ましに来てくれたんじゃないの?ん?」

悶々と考える私に花宮が口を開く。言い方は乱暴だけど励ましてんだろうな、と思ったら「こいつ私のこと大好きかよ」と思ったけどあえてそれは言わなかった。言ったらどうなるか分かったもんじゃないし。でもニヤニヤは抑えきれてなかったみたいで、隣に寝転がってた瀬戸に指摘された。てか、起きてたんだったらもう少し協力してほしいんだけど。

全く気にしないってことは出来ないけど、少し気持ちが楽になったのは確かで。考えたところでどうにもならないし、なるようにしかならない。だったら楽しんじゃえばいいじゃん。だってこんなリアル脱出ゲームみたいなこと、現実じゃ絶対できないしね。なんて考えてた私が甘かったことを知るのはまだずっと先の話。

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