ガチャン、と少し重い音と同時に技術室の扉の鍵が開く。後ろで「さっき何度やっても開かなかったのに…」と驚いた声を上げる海常の人達をそっちのけで鍵をポケットに閉まって扉に手をかける。ガラリと開けると埃っぽい空気に思わず顔をしかめる。隣で一哉が「うえ、埃くさー」と文句を言っているし、後ろでは黄瀬も「埃っぽいとことかマジ勘弁して欲しいんスけど…」と文句を言っていた。

「教室の探索お願いしてもいいですか」
「うおっ!」
「?あの、聞いてます?」
「あ、あぁ」
「私と康次郎は準備室を見てくるので、こっちお願いします」
「あぁ、わ、わかった」
「ごめんね、朝倉さん。笠松は女の人が苦手なんだ」
「あぁ、そういう事ですか」
「嫌いとかそういう訳じゃないから気にしないでね」
「あ、そこら辺は全然大丈夫です」

別に好かれようなんて思ってませんから、という言葉はさすがに飲み込んだけれど。話しかけた私を一切見ることなく返事をする笠松さんに首を傾げていると小堀さんが説明してくれる。この状況で男子も女子もねえだろ、と思ってしまった私は悪くないと思う。森山さんが「せっかく葉月ちゃんが話しかけてくれたのに何だその態度は!」とか何とか言ってたけど案の定「うるせえ!」と一蹴されていた。

康次郎と準備室に足を向けると後ろから黄瀬が付いてくる。表情から察するに私が何かするんじゃないかと疑っているんだろう。というか探索に出てからずっと見られてるから多分監視してるんだろうなって。やるならもう少し上手くやって欲しいなって思うけどここまで堂々としてるといっそ清々しいね。あの子と探索来た時もこんな感じだったのかな。

「どうなの?」
「何がだ?」
「後ろ、さっきもこんな感じだったの?」
「あぁ、そういう事か。さっきは向こうがグイグイ来てたから当たり障りない返事をしてたぞ」
「そもそも私とタイプが違うから比較対象にすらならなかったわ」
「どうするんだ、後ろ」
「いや、そうなんだよねえ…めっちゃ見られてるよねえ…」
「何コソコソしてるんスか」
「わあ…予想通り…」
「はあ?何言ってんスか、アンタ」
「……康次郎、そっちドア開く?」
「開いたぞ」
「中は?」
「至って普通だな。一応扉が閉まらないようにはしておこう」
「ん、よろしく」

後ろの黄瀬に聞こえないようにコソコソ話しているとイライラした様な口調で後ろから声が飛んでくる。予想通りの反応にぽつりと言葉が漏れる。その言葉にすら突っかかる黄瀬はとりあえず置いといて康次郎と本来の目的を果たすべく動く。シカトされたことに腹を立てたのか後ろできゃんきゃん吠える黄瀬にうるさいなあ、と思いながら振り返り見る。

「信用してください、なんて言わないわよ。私は私がここから出る為に動いてるの。あんた達と一緒に、なんて微塵も思ってないから」
「は、何言って…」
「私が脱出するためには一人じゃ難しいこともあるからあんた達を利用してんの。協力なんかじゃなくて、利用。あんたもその位ずるくなれば?仲良しごっこで脱出できるほど此処は甘くないと思うよ」
「自分のチームメイトも利用してるって言うんスか」
「は?ウチの主将サマ見てみなよ。イイコちゃんの青春ぶち壊すために私達を自分の駒として使ってんだよ?そんなの今更すぎでしょ」
「ほんと最低っスね、アンタら」
「そんな最低野郎共の手を借りないといけないんだからあんた達も大概可哀想ね」

霧崎にとって利用するとかしないとかは大した問題じゃない。お互いが有意義な時間を送るために一緒にいるだけだ。この関係は友情なんて綺麗なモンじゃないし、私たちがどんな言葉を使って説明しても誰にも分からないモノだと思ってる。ウチの連中は誰かと一緒に、なんて考えはない。全員揃って個人個人が此処から出る為に頭を巡らせて、その答えがお互いに利用し合うというものだっただけだ。

最低なんて言われても私からしたらあんた達の方がよっぽど最低だと思う。誰かが協力してくれることが当たり前だと思ってて、自分1人でどうにかしてみようなんて気持ちは欠片も持っていないのだから。誰かをを疑う時間があるなら、疑わしい相手を欺いて自分が勝つ為の手段を考えてる方が何倍も有意義な時間を過ごせる。みんな考え方が甘すぎるんだよね、ほんと。

「大丈夫よ、もし仮に私が裏切り者だとか敵側だったりした場合はアンタが手を出すより前にまこちゃんが気づいて私を仕留めるから」
「なっ…!」
「私はどんな状況でも最善の判断をまこちゃんがしてくれるって信じてるからさ、割と好き勝手に動いてるんだよね。お陰ですっごい楽。あんたも少し考え方変えたら?アンタひとりでどうにかしようなんて絶対無理だからさ」
「……ほんっと最低っスね。朝倉サン」
「あら、あなたよりはマシだと思うけど?黄瀬クン」

私の言葉に不服そうな顔をする黄瀬は最初の警戒心全開の目から、すこし警戒心の薄れた目になっていて。私のクズ思考に影響されるなんてこいつも大概クズなんじゃないだろうか。

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