《偽物はだあれ?》

「…どういう意味だ?」
「俺達の中にって事じゃないんスか?」
「そもそも偽物ってどういう意味だ?」

技術室で見つかったのは白い文字が書かれた黒い紙。準備室にはノコギリなどの刃物系がずらりと並んでいた。もちろん、すべて錆び付いていて正規の用途では使えなさそうだった。まあ、私達やゾンビに当たればそこそこの怪我は与えられるレベルの物だから武器としては有効だと思うから何本か持って帰ろう。

黒い紙の文字は私やまこちゃん達が考えていた仮説を確信へと変えるようなものだった。彼女、もしくは私がこちら側ではない可能性があるというもの。おそらくあのガラス玉も偽物を見つけるために必要なアイテムだったのだろう。でもガラス玉が2つしかない、とは誰も言っていないわけで。まだ隠されている可能性もある。今、早急に解決しなきゃいけない問題ではないだろうから、この紙については戻ってから考えた方が良さそうだ。

「とりあえず教室棟も一通り見てから戻りましょう。この紙のことは後で考えます」
「あ、あぁ。わ、かった」

私の言葉に笠松さんが返事をした瞬間だった。ガタリと音がして準備室の扉がガタガタと音を立てて揺れ始めた。全員が言葉を失う中、康次郎と一哉がノコギリと椅子を持って前に出る。立ち尽くす海常の面々に「下がっててください」と声をかけて、私も二人の後ろに立つ。

「さっき何もいなかったよね?」
「あぁ。人影は一切なかった」
「チッ、めんどくさいけどドロップアイテムの可能性もあるから確実に仕留めてよ」
「武器もあるし余裕っしょ」
「準備室から出てくるってことは相手もコレを持ってる可能性もあるってことだが」
「……余裕っしょ」
「声上ずってるよ、一哉くん」
「あのビジュでノコギリ持って出てくるとか超ホラーじゃん」
「この状況が既にホラーなんだから今更何が起きたっておかしくないでしょ。コイツの顔見てみなよ、目輝いてるからね」

ガタガタと音を立てるドアに向き合う私達の後ろでは「やばくないスか!?」「あいつらどうする気だよ…」なんて声がしていて。正直、海常がいるせいで動きが制限されるから邪魔といえば邪魔だ。さっき一哉も小さい声で「アイツら邪魔なんだけど」って言ってたから一哉も康次郎も同じことを考えているんだろう。

「よし、埒が明かないから壊せ」
「マジ?」
「何回か椅子で殴れば壊れるでしょ。脆くなってるっぽいし。康次郎、そこの椅子ちょーだい」
「これか?」
「ん、ありがと」
「やばいね。まじ葉月ゴリラじゃん」
「へえ、一哉くんってばそんなに椅子で殴られたかったんだぁ。早く言ってよぉ」
「待って待って冗談だから椅子振りかぶんないで、ごめんて」

ヘラヘラ笑って謝る一哉からは何の誠意も感じられない。許せないからさっき買ってあげようと思った10円ガムはなしだ。さっきからガタガタ揺れている扉は今にも壊れそうなほどで、正直さすが廃校といった感じの扉だった。椅子で壊すとは言ったものの本当のところは扉を外す、という方が合ってると思う。

康次郎から受け取った椅子を思い切り扉にぶつける。三回目くらいでガダンッと物凄い音がして扉が外れると、予想通り扉の向こうにはゾンビが複数体立っていた。扉が外れたことで一直線にこちらに向かってくるゾンビに背を向けて一哉と康次郎の後ろまで戻る。後は任せた、がんばれお前ら。

「葉月逃げるの超早いんだけど」
「逃げてないから、戦略的撤退だから」
「逃げてんじゃん?」
「いいからさっさと行け」
「はいはい」
「ほんとに大丈夫なんスか!?」
「大丈夫だから黙って見てろ、うるさいなあ」
「うるさいってなんスか!こんな意味わかんない状況で平然としてられるわけないっスよ!」
「私はその意味わかんない状況に遭遇するの三回目なんだよ。さすがに慣れるっつーの」
「はあ!?こんなの慣れとかそう言う話っスか!?」
「うるっさいなあ。大丈夫って言ってんだから黙ってろ、よっ!」

ゾンビ達と戦う二人を見ながら後ろに下がる。私の真後ろにいた黄瀬が私の肩を掴んで文句を言う。声のでかさと突然肩を掴まれたことに対するイラつきで口が悪くなってしまったのはしょうがないと思う。ついでに私より身長が高いっていうのもむかつくポイントのひとつだ。話している最中に二人が仕留め損ねたゾンビが一体こっちに向かってくる。伸ばされた手を弾いて、腹に蹴りを入れる。後ろに倒れたゾンビの頭を康次郎が潰して撃退完了。

「こっちに流れてきてるんだけど」
「文句言わないでよ、俺たちだって結構頑張ってるっしょ?」
「というか、ゾンビの数が一向に減らないんだがどうなっているんだ?」
「あれじゃね?葉月が扉壊したから無限ループ的な」
「え、まじ?めんごっ」
「可愛くねえし。つか、葉月が元凶ならこれ何とかしてよ」
「何とかって言われてもなあ…あ?あ、ああ!ちょっと康次郎!あれだ!あれ!鏡!」
「あぁ、あれか。あれを壊せばいいのか?」
「絶対そうだよ!ちょ、こっち引き受けるから康次郎は準備室行って!」
「わかった。怪我するなよ」
「そっちもね!」

ゾンビを仕留め損ねた一哉と康次郎に文句を飛ばすと文句が返ってきた。倒しても倒しても湧き出てくるゾンビに首を傾げる。一哉は私のせいとか宣ってるけどそんなはずない。そう思ったのと同時に準備室に置いてあった不釣り合いな鏡を思い出した。近くに来ていたゾンビを倒しながら康次郎に叫ぶ様に言うと納得した様な返事が返ってくる。後ろで何のことだか全く理解出来ていない海常組は放っておいて、準備室に向かう康次郎を目で追いかけた。

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