決まりだな

「決まりだな」

花宮がそう言ってあの子を見た。楽しそうに談笑する彼女は自分が疑われているなんて欠片も思っていないんだろうか。それとも全てをわかった上で笑っているのだろうか。どちらにしても私と彼女がアノヒトに選ばれた大事な人であることには変わらない。何一つ謎は解決しないままに新しい謎ばかりが増えていく。ほんとにいい加減頭が痛くなりそうだ。

体育館に帰ってきた私の手が血まみれなことにほとんどの人が、というか全員が驚いていて。そんなみんなを見てヘラリと笑った私の頭を花宮が思いっきりチョップしたのがついさっきの話。普通に涙が出るレベルで痛かったからあいつ相当な力で殴りやがった。絶対ゆるさねえ。ちなみに今は花宮が持っていたハンカチで手が覆われている。ハンカチ持ち歩いてる男子とか滅多にいないよね、女子力ありすぎてびっくりした。

「どうする?次の探索、あの子も連れて行ってみる?」
「はい。ただ、彼女は戦力外なのでフォローお願いします」
「...あんまり了承したくないけど分かった」
「どうせ次の探索は誠凛だ。お前がフォローしなくてもあっちが勝手に何とかするだろ」
「は?次誠凛と一緒かよクソじゃん」
「女監督は待機だし、ウチからは健太郎と俺が出るからいいだろ」
「マジ?頭脳組来んの?やばいね圧倒的偏差値の差」

私の役割は探索する上で必須だということ。それに対して彼女の役割は未だ明確になっていない。だが、彼女だけを連れて行っても私がいないとどうにもならないから必然的に私がいるときに連れて行かざるを得ない。非常に嫌だ。しかも誠凛と一緒なんてありえない、と思わず漏れた本音だったけど花宮の言葉を聞いてやる気がちょっとだけあがった。花宮と瀬戸が来てくれるなら大丈夫だと思う。多分、きっと。花宮の私への精神攻撃がなければ無事探索を終えられる可能性があがる。

誠凛のカントクさんは自分も行くといっていたけど、誠凛のメンバーが必死に止めたことと私と花宮の「足手まといは邪魔だから来んな」の一言に返す言葉もなく大人しく引き下がっていった。探索に出るまでがまたしても長く、私のイライラの要因のひとつである茶番劇がまた始まった。はあ...頼むから現実世界に帰ってから好きなだけやってください。ただえさえ痛い頭がその茶番劇でさらに痛くなった。クソ。

「もしかしたら特別教室は毎回何かイベント発生する決まりかもしれないから全員注意でお願いシマス」
「姫さん、少し下がっていてください」
「え、でも...」
「何かあってからじゃ遅いだろうが、ダアホ」
「テツヤくん...日向先輩...」
「...はあ...開けマース」

こいつらは毎回毎回何かアクションを起こすときは茶番をしなきゃいけない病気か何かですかね。もう私はいちいちリアクションしないことにしました。反応すると疲れるしイライラするから知らないフリをすることに決めました。花宮と瀬戸も諦めた様な顔をしてるから多分考えてることは同じ。ゆっくりと美術室の扉に鍵を差し込んで回す。技術室をあけたときと同じように音がして鍵が開く。

私が鍵を開けて、瀬戸が扉を開ける。花宮が教室の中を覗き込んで少し見た後、こちら見て頷く。それを合図に全員が教室に入って、最後に教室に入った伊月が扉を閉める。机と棚が並び、奥には準備室へと繋がるであろう扉がひとつ。こちらもまた至って普通のどこにでもありそうな美術室だった。瀬戸には誠凛と一緒に美術室内を探索してもらっている。そして、私と花宮は黒子と火神、そして問題の彼女を連れて美術準備室へと続く扉の前に立っている。

「開けるよ?」
「あぁ」
「...また鏡ですか、そうですか」
「技術室と同じタイプの鏡なら壊したいとこだが...」
「まだ100パーセント同じとはいえないから壊さない方向で」
「となると...後何かありそうなのはこれか」
「だよね。何かな、この真っ赤な宝箱」
「あからさま過ぎていっそ清々しいな」
「鍵穴はなさそうだけど...開かないね」
「...おい、これ開けてみろ」
「えっ!?私...ですか?」
「お前以外に誰がいんだよ」
「それが人に物を頼む態度ですか?」
「あ?誰が誰に物を頼んだんだよ」
「お前が姫に開けろって言ったんじゃねえか!」
「俺は頼んだわけじゃねえよ、命令したんだ」
「尚更悪いじゃねえか!」
「うっさいな。いいから開けて、早く」
「あ...はい...!」

準備室の中には見覚えのありすぎる全身鏡が置いてあり、その隣の棚の中には小さな宝箱が入っていた。鍵穴がないから鍵がかかっているわけではないであろう宝箱は私や花宮がどれだけ力をこめても開かず、何かに気づいたような表情をした花宮が彼女に宝箱を渡す。宝箱を開けるだけなのにいちいち突っかかってくる黒子と火神を適当にあしらって宝箱を開けるように促す。カパリと開いた宝箱の中に入っていたのはまたしても鍵。なんだかマトリョーシカを開けているような気分だ。

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