バカね

「扉の鍵ではない...ってことはアレか」
「今までのパターンから言えば今頃健太郎が見つけてる頃だな」
「えー?そんな簡単に見つかるかなあ」
「ま、別の教室にあるって可能性もあるけどな」
「えっと...この鍵って私が持っていた方がいいですか?」
「いいよ、頂戴」
「開けてもらっといて礼もなしかよ」
「ううん、いいの。私にはこれくらいかできないもん」
「お前もたまには怒っていいんだぞ」
「でも私にできることをやりたいから」

鍵を西条さんから受け取ってポケットに入れる。私にはこれくらいしかできないってよく分かってんじゃん。恐らく、彼女の役割はこんな風に隠された宝箱を開けることなのではないか。これが何度も続けばほぼ確定だろう。にしても、鍵の色が怖いくらいに真っ赤なのは何でなのか。さすがにここまで真っ赤だと気持ち悪い。それにあの宝箱、なんであんなに分かりやすい場所においてあったのだろうか。まるで、見つけてもらうためといわんばかりの置き方だった。それなら他の鍵やアイテムもわかりやすい場所に置いてほしかった。

「花宮、葉月、これ」
「わお、ビンゴ」
「ふはっ、予想通りだったな」
「でも、今までと柄違うよね」
「こんだけ真っ赤で目立つものが棚の中に置いてあったんだよね。まるで見つけてくれっていってるみたいにさ」
「やっぱり瀬戸もそう思う?」
「重要かどうかは知らないけど、この赤い本と鍵のセットも何かしらあることは確かだね。それに、今回の探索でいくつか仮説も立てられたでしょ」
「あぁ、大体見えてきた」
「さすが、頭の回転がお早いですね」

本を持って準備室に顔を覗かせた瀬戸は私と同じことを考えていた。少し考えるようなそぶりを見せた後、ニヤリと笑った花宮に何か分かったんだろうなと思っていたらまさかの大体の概要が見えてきた発言に思わず間抜けな声が口からこぼれた。驚きとかいろいろ通り越してもうなんかすごいね、って感じ。まあ、私の中にもいくつかの仮説は立てられててあるんだけどね。

あの子が見つけた鍵を使って本に見せかけた箱を開ける。中には真っ赤な紙が入っていて、そこには『偽者はいない』と書かれていた。つまり、ついさっき見つけてきた偽者が私たちの中にいることを仄めかすようなことが書かれた紙を真っ向から否定するものが出てきた。余計に頭が混乱してきたけどここで考えることを放棄するのは癪だから頭の中で疑問点をあげては仮説を立てる。確実に分かっている内容と仮説を照らし合わせて筋の通るものをピックアップする。

「全部立場の違うもの...?」
「やっと気づいたか」
「あー...そういうことね。分かった、あー、分かった」
「は?どういうことだよ」
「それが人に物を頼む態度ですか?火神クン?」
「てめっ...!」
「落ち着いてください、火神くん。朝倉さんも煽らないでください」
「は?何自分は関係ありませんみたいな涼しい顔してんの?」

たどり着いたひとつの考えをポツリと呟く。そんな私を見て花宮がニヤリと笑う。正解か不正解かは分からないけれど、自分の中で納得のいく答えが見出せたことにいい気分になっていたのに、火神のせいで台無しだ。隣で黒子が火神を宥めてるけどお前が此処にいることそのものが私にとっては気分を害す要因だ。とは言っても私たちだけが分かっているだけではダメなわけで。不本意だけど、非常に不本意だけどコイツらにも分かるように丁寧に説明してあげなければならない。

「簡単に言えば、見つかった紙を書いた人物はそれぞれ別人で、あの紙は私たちにとってプラスになるものだってこと」
「別人…ってどういうことだよ」
「偽物はだあれ、って言葉は私達の中に偽物がいる事を示していて、偽物はいない、って言葉は私達の中に偽物はいない事を示してる」
「…そりゃ、そうだよな…?」
「じゃあ、何で矛盾した内容の紙が私達の手の中にあると思う?」
「…?何でって…ここから出る為だろ?」
「バカね。ここから私達を出したいならどちらか一方で充分。わざわざ、正反対の内容のものを置く必要なんてない」
「じゃあ何で…」
「私達をここから脱出させたい誰かと、私達を脱出させたくない誰かがいるってこと」
「なら、俺達をここに連れてきた犯人は二人いるってことか?」
「それはまだ分からない。研究がどうのって書いてたメモから考えるに、私達をここに連れてきた犯人は二人いる、もしくはどちらの考えも持っている一人の人、って可能性がある」

かなり分かりやすく言ってあげてるつもりにも関わらずイマイチ分かっていない様子の誠凛メンバーにイラッとしながらも説明をする。伊月と木吉は早い段階で気づいていたみたいだけど。分かってて言わなかったのか確信がなかったのか、まあどっちにしても誠凛はやっぱり馬鹿ばっかりなんだと分かって笑ってしまったのはしょうがないと思う。花宮と瀬戸も私と話をする誠凛が馬鹿すぎて「これだけヒントやってんのにまだ分かんねえのかよ」みたいな顔をしてた。うん、私もそう思ってました。

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