そういう問題か!!!

今まで通りなら家庭科室の鍵が見つかるはずだったけれど、見つかったのは赤い宝箱とその鍵だけ。何かあると思っていた鏡にも変化がなく、まさかここまで来て詰みゲーなのかと頭を抱えたくなった。

「何かありましたか?」
「別に」
「一人になったら危ないですよ」
「あんたに言われたくないんだけど」
「…私、朝倉さんに何かしましたか?」
「は?」
「だって、朝倉さん私とあんまりお話してくれないから…」
「単純に嫌いだから以外に理由ある?」
「わ、私は朝倉さんとも仲良くなりたいんです!」
「私はなりたくないから」

全身鏡に自分の姿を映してみるけれど至って普通の鏡で何の変化も起きない。鏡の中の自分を見ながら考えを巡らせていると鏡にもう一人の姿が映る。ホラーでも何でもなくあの女が私の隣に立ったってだけなんだけど私的にはこの女と二人きりってことが何よりも恐怖。

この女と二人で会話とか無理。何が無理かって全てが無理。直接嫌いだと言っているにも関わらず仲良くなりたいとかほざく馬鹿に頭が痛くなる。だから嫌いな奴と仲良く出来るわけねえだろ、アホなのかこの女。隣で瞳を潤ませながらこちらを見るバカ女をどうしようかと頭を働かせていると鏡がぐにゃりと歪んだ。

「なっ…!?」
「朝倉さん!」
「っ…!あんたじゃどうにも出来ないから花宮達呼んできて!」
「で、でも…!」
「いいからさっさと行け!」
「朝倉さんを置いてなんて行けません!」
「さっさと行けっつってんだろ!」

歪んだ鏡から伸びてきたのは真っ白い手。一番鏡に近かったはずの西条さんを完全無視してその手は私に伸びてきた。右腕を引っ張られ、背中に手が回って鏡の中に向かって引きずられる。隣でどうしようと慌てるばかりで何もしないバカ女に思わず口は悪くなるし、声も大きくなる。私の大声が聞こえたのか扉越しに花宮の声が聞こえる。ドンドンと扉を叩く音が聞こえて、ああ扉開かないんだ、と何故か冷静な頭で思う。

力の差は歴然で体が徐々に鏡に近づく。思いっきり握られている右腕がズキズキと痛むし、隣でどうしようどうしようと慌てるバカ女へのイライラも募る一方だ。このまま鏡を蹴り壊してもいいけれど、片足をあげた瞬間鏡の中に引きずり込まれる自信がある。西条さんに鏡を壊してもらうか、扉を開けてもらうかの二択だけど前者の方が圧倒的に早い。心配なのはこのバカ女がちゃんと鏡を壊せるのか、ってことだけだ。

「っ…西条さん!鏡、っ壊して!」
「こ、壊すんですか!?」
「何でもいいから鏡に向かって投げて!」
「でもそんなことしたら朝倉さんが…!」
「いいからさっさとしろって言ってんだろ!」
「っ…!で、でも…!」
「だあああ!もう!これぶっ壊したら会話でもなんでもしてやるからさっさとしろ!」
「わ、わかりました…!」

何かと理由をつけて扉を壊したがらないバカ女に声を荒らげる。何故か涙で目を潤ませてこっちを見てくるもんだから思いっきり頭をぶん殴りたくなる衝動に駆られた。準備室の中にあった椅子を持ってこちらに駆け寄ってきた西条さんが鏡に向かって椅子をぶつける。が、勢いが弱すぎるのと鏡自体の耐久力が強いこともあって微かにヒビが入っただけだった。そうしている間にも私の体は着々と鏡の中に引きずり込まれていく。

「おい!葉月!」
「ちょーっと、やばいかも…!」
「は、花宮さん!朝倉さんが鏡に…!」
「お前は、いいから鏡割れって、言ってんだろ…!」

いつまでも鏡を割ろうとしないバカ女に声を荒らげようにもそろそろやばい。徐々に鏡に飲み込まれる私を見てどうしよう、と口元を覆って立ちすくむ。そんな彼女の手の隙間から見えた口がニヤリと弧を描いたような気がして、一瞬体が強ばった。ずるりと一気に飲み込まれた体にやばいと思った瞬間、扉がけたたましい音を立てて壊れた。

「葉月!」
「はなみ...っ、うわあ!?」
「手間かけさせんじゃねえよ、ブス」
「ちょ、ま、えっ...心臓止まるかと思った...」
「大丈夫?葉月」
「いや、うん、大丈夫だけどなんで止めなかったの!?」
「俺がやめたらって言って花宮が止めるわけないじゃん」
「いやそうだけどさ!?てか、花宮もそれ投げる!?」
「当たってねえからいいだろ」
「そういう問題か!!!」

かっこよく私の名前を呼びながら登場した花宮にキュンとするとでも思った?登場早々に私に向かってトンカチをぶん投げるような男にときめきも何もあったもんじゃない。まあ、私に向かってと言うより鏡に向かってだから強くは文句言えないけど。男子高校生の現役バスケ部にトンカチ投げられてときめく女がいてたまるか。準備室の扉はボロボロになっていて聞けば「技術室のノコギリでめちゃくちゃ殴った」らしい。つまりぶっ壊したってことですね。

トンカチも技術室にあったものを持ってきたらしい。私がやばいと言った時、真っ先に鏡だと思ったらしい。その上西条さんが鏡という単語を出したもんだから確信が持てた花宮が誠凛をパシッて武器(仮)を取りに行かせたようだ。頭使えねえんだから体動かせよって話。トンカチがなければノコギリを投げるつもりだったらしい花宮に「頭おかしいんじゃない?」って言ったら頭を叩かれた。

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