嫌いなんだけど

特別教室棟の端に二つと、教室棟の端に二つシャッターが下りた場所があって、恐らくそこは二階に行く為の階段なのだろう。全ての階段にシャッターが下りていて、さっき入手した大きめの鍵はシャッターを開けるための鍵であることは明白だった。試しに体育館に一番近いシャッターに鍵を差し込んで回してみるとガシャンと重い音がして鍵が開いた。けれど鍵が開くことを確認して、シャッターは上げずに体育館に戻る。次の探索班が一階の全てのシャッターを開けて二階に上がる方が安全だからだ。

「はあ...」
「なんや葉月ちゃん、ため息なんかついて」
「何でもないですこっち来ないでください」
「釣れへんなあ…仲良うしようや」
「絶対嫌」
「葉月、動きにくいんだけど」
「瀬戸ステイ動かないで」
「いや動かなきゃ探索にならないから」
「探索よりも私は自分の身を守る方が大事だから」
「それは葉月だけじゃないと思うんだけど」
「違う、意味が違う、対象が違う」
「ほんま可愛ええな〜」
「今吉、程々にしないと本格的に嫌われるぞ」
「んー...それは困るしそろそろ止めにしよか」
「もう既に本格的に嫌いなんだけど」
「なんか言ったか?」
「言ってません」

そして次の探索班と言うのが最悪だった。今吉さん率いる桐皇と古橋と瀬戸と私。花宮は次が桐皇だと分かっているから来なかったんだろう。物凄くいい笑顔で私を送り出してた。死ねばいい。体育館を出てシャッターを開けるために校舎を歩き回る。後ろからついてくる今吉さんにため息をつく。そんな私にニヤニヤ笑いながら絡んでくる今吉さんから逃げるように瀬戸を盾にする。文句を言いつつも振り払わないところが瀬戸のいい所だ。多分振り払うのすら面倒ってだけだと思うけど。

古橋は我関せずを貫いている。お前もうちょっと助けるとかないわけ、という気持ちを込めて睨みつけるとキョトンとした顔で見返してくるから多分私の言いたいことは伝わってない。くそ。嫌がる私に絡み続ける今吉さんを諏佐さんがやんわり止める。嫌われるんじゃなくてもう嫌いなんだよそれ位気づけよクソが、と内心荒みながらも着実にシャッターを開けていく。最後のシャッターを開けて、階段を登る。二階も一階と同じ様に渡り廊下で繋がった特別教室棟と教室棟があった。教室の場所を把握するためにも一度見て回ることにして、歩き出す。

「三階はやっぱり行けないか...」
「焦らんとゆっくり行こうや」
「...ソウデスネ」
「ま、ゆっくり行きたいとこやけどそうも言ってられへんみたいやで」
「は?どういう...あぁ、そういう事ですか」
「さすが葉月ちゃん。ゾンビさんのお出ましやってのに冷静やな」
「そっくりそのままお返しします。別に倒せばいいだけの話でしょう?武器もあるし慌てる必要がありません」
「とか言ってるけど葉月が戦ってくれるの?」
「戦ってほしいの?」
「別に。俺が動かなくてもいいならそれに越したことないから」
「さすが瀬戸。だけど戦ってね。古橋のやる気を見習って」
「うわあ...目輝いてるじゃん」

三階へと続く階段を遮るシャッターに触れながら呟くと今吉さんが後ろから声をかけてくる。絡んでくんなって言ってんだろ、と思いながら振り返るといつもの飄々とした表情ではなく、少し焦ったような珍しい表情の今吉さんが立っていて。まあその表情の理由はすぐに分かった。私達が今いる場所は教室棟の一番奥。つまり、何時ぞやの退路がない状態でゾンビが襲いかかってくるという状況が再来してるわけだ。

今吉さんが何で焦ってるかは何となく分かる。パッと見ただけでも十体はいるゾンビを完全に仕留められる自信がない、と言ったところだろう。そりゃ、桐皇だけじゃ厳しいかもしれないけど何のために私達が一緒に来たと思ってんだこの人。自信満々に話す私の後ろで瀬戸が呆れたような声をあげる。古橋は目をキラキラさせて今にもあのゾンビの中に突っ込んでいきそうだ。

「よし、じゃあ二人共頑張って!」
「ちょい待ち。青峰と若松、お前らも一緒に行って来ぃ」
「えっ、俺っすか...」
「あ?んでだよ」
「戦い慣れといて損は無いやろ?それに古橋くんも瀬戸くんもおるし、大丈夫やって。な?葉月ちゃん」
「...なんで私に聞くんですか。と言っても戦い慣れるってのには賛成です。ま、コイツらはフォローとかしないと思うんで怪我しても自己責任でお願いします」
「大丈夫やろ。青峰なんて特に殺したって死なんような奴やし」
「どういう事だよ」
「そのままだよ!おら!行くぞ青峰!」
「頼んだで〜主将〜」

徐々に近づくゾンビに一歩を踏み出そうとした二人を止めるように今吉さんが声を上げる。これからウチにばっかり戦わせなくても良くなるように少しでも戦える人を増やしたいという今吉さんの考えによって青峰と若松も参加することになった。一切フォローする気がないのかこちらを見向きもしない二人に苦笑いを浮かべながら向かってくるゾンビ達に目を向けた。

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