《僕のお姫様にに虫がついた。一刻も早く払わなければならない。それから、彼女の気分を害す奴らも多くいる。そいつらもまとめて排除しなければ》

「...うぇ、気持ち悪」
「これ、葉月のことかもしれないんでしょ」
「無理無理、鳥肌立ってる」
「まあ確かに気持ち悪いな」
「てか、こんだけ倒して収穫が紙一枚ってどういう事?」

ゾロゾロと押し寄せてくるゾンビを一掃して、ドロップアイテムを探すべく視線を床に落とす。暗い廊下にぼんやりと浮かび上がる何度目かの白い紙に盛大にため息をつきたくなった。中に書いてある内容も言わずもがな、と言った感じ。普通に気持ちが悪いし鳥肌が立つ。アノヒトに選ばれたのが私かあの女であるということは、この紙に書いてあるお姫様は私かあの子だということ。私でないことを祈りたい。

二階の教室棟には二年七組と八組、そして三年一組から四組までの教室と生徒会室、トイレがあった。特別教室棟には校長室と職員室、保健室、第一理科室と第二理科室、理科準備室と放送室、トイレがそれぞれ並んでいた。

「前回もこのパターンだったし、教室探索したらなにか見つかるんじゃない?」

と言った健ちゃんに従って各教室を探索する。予想通りというかなんというか。二年七組の教室から見つかった大きめの鍵。これは恐らく二階にあるどこかの特別教室の鍵だ。三年一組、二組からはそれぞれ見覚えのありすぎる白い紙。正直もう見たくない。

《協力者を得た。アイツには相当な変態だと言われたがアイツも中々やばい奴だと思う。まあ、僕は愛しの彼女さえ手に入れば他に何もいらない》

《まさか自分の実験のために自分の人生を賭けるとは。さすがの僕でも驚いた。でも誰もいない僕達だけの世界で暮らすのもありなんじゃないかと思い始めるようになった》

この紙のお陰でひとつ分かったことがある。私達をこの謎の空間に連れてきた犯人は恐らく二人。私か彼女に異様なまでに執着する人間と何かの実験のために多くの人間を必要とする人間。そして、この紙の通りなら今いる此処は異世界で私達は何かの実験に利用されているということ。

「犯人が二人いるって分かっただけでも収穫か...」
「しかも二人揃ってやばい奴だし」
「異世界で二人きりか...無しではないな」
「無しに決まってんでしょ、何アホな事言ってんの」
「すまない。場を和ませようと思って」
「和まねえよ、アホか」
「葉月、口悪い」
「悪くもなるわ。こんな意味わかんない場所に連れてこられて、意味わかんない実験に利用されてムカつくとかいうレベルじゃないっつーの」

紙を片手にイライラする気持ちを抑えながら考える。隣でボケ始める康次郎に八つ当たりしたら健ちゃんに怒られた。健ちゃんはいつから私のお母さんになったんですかね。口が悪いとか最後に言われたのいつだか覚えてないくらいには昔の話だよ。なんて話していると後ろからいやーな気配。

「そんな葉月ちゃんに朗報やで」
「朗報?そんなもんあるわけないじゃないですか」
「ほんまに機嫌悪いなあ。ほら」
「?宝箱、ですか」
「ついでにこんな本も見つけたんやけど」
「...はぁ、わかりましたよ。開ければいいんでしょ」
「さすが葉月ちゃん。話が早くて助かるわ」

後ろからかけられた声に振り返るとそこに立っていたのはニコニコ笑う今吉サンで。思わず顔を顰めたが、今吉サンが持ってきた青い宝箱と青い本型のケース。美術室で見つけた赤いやつと同じ系統のものだろう。あの時は赤いガラス玉に触れなかった彼女が開けられた、ということは今回は青いガラス玉に触れなかった私が開けられるものであるということ。

「宝箱の中は...やっぱり鍵か...」
「で、この本を開けるわけか」
「赤い本の時ってこんなに分厚かったっけ?」
「いや、もう少し薄かったはず...」
「何かアイテムが入ってるんじゃないか?」
「だと思うけど...」

赤い本と大きさが違うことに気づいた健ちゃんが本を指さす。振ってみるとカラカラと音がするから、多分アイテムが入っているんだと思う。鍵穴に鍵を差し込み、回すとカチリと軽い音がして鍵が開く。少し開けた瞬間、中から押し出されるようにして開いた本から何かが飛び出してくる。反射的に避けたけど、避けきれなかったのか肩に鈍い痛みが走る。

「いっ、た...」
「なっ...!?ナイフ!?」
「びっくり箱かよ...つーかタチ悪...」
「だ、大丈夫ですか!?」
「掠っただけだから平気」
「あ、後でちゃんと手当てしないと...ってああ僕なんかが指示してすいません!」
「今吉サンのとこの後輩うるさいんですけど」
「悪いヤツやないから、まあ許したってや」

痛みを訴える肩を押さえていると後ろから若松の焦った様な声。ナイフが飛び出してくるとか割とシャレにならない。私が避けれてなければ思いっきり刺さってたし、避けていても後ろに誰かがいればその人に刺さってた。何をするにも警戒しなきゃならない状況に嫌気がさす。

一番近くにいた桜井が慌てて私に駆け寄ってくる。勝手に喋って勝手に謝ってる桜井を横目に今吉サンに文句を言う。何を言ってもヘラリと笑って返す今吉サンに舌打ちをしたくなったのを飲み込んで床に落ちた青い本に目を落とした。

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