まこちゃんと一緒に保健室の棚を探っていると使ってくださいと言わんばかりに綺麗な救急箱が出てきた。開けてみると中には消毒薬や塗り薬、湿布に絆創膏にガーゼ、包帯。まるで私たちが怪我することを前提に置かれたかのようなラインナップを見て自分の眉間にシワが寄ったのが分かる。隣の棚を探っているまこちゃんの方を向くと眉間にシワを寄せて手元を睨みつけていた。気になってまこちゃんの手元を覗き込んで後悔した。見なきゃよかった。

「まじか…」
「チッ、これも持っていけってことかよ」
「ええ…コレを使わなきゃいけなくなる時があるってことだよね」
「んな展開あってたまるか」
「いやいや、でもそういうことでしょ。コレは。それにこっちも十分すぎるくらい見つかったし」
「チッ!」
「そんなに舌打ちしてると舌取れるよ」
「取れるわけねえだろバカかクソ女」
「もう…超機嫌悪いじゃん…」

まこちゃんの手元にあったのは解毒薬、と書かれた大ぶりのビンが3つ入ったケース。解毒薬まで準備されてるってことは使わなきゃならなくなる可能性があるってことで。さらにもっと言えば毎回探索に出なきゃならない私はその薬を使う可能性が誰よりも高い。まこちゃんは絶対言わないけど私がこの薬を使わなきゃならなくなる最悪の展開を思い浮かべてイライラしてるんだと思う。ほら、まこちゃん私のこと大好きだからさ。

「何か見つかりましたか」
「救急箱と解毒薬。はい、あげる」
「解毒薬、ですか。コレを使わなきゃならなくなるような状況にはしたくないですね」
「まあね。で、そっちは?」
「赤い宝箱と、赤い本です。これは西条さんにしか開けることが出来ないので、一度体育館に持って帰ります。...朝倉さん?」
「…何かいる」

見るからにイライラしてるまこちゃんから解毒薬を受け取って机に置く。近づいてきた赤司の問いに答えて、お互いに得たものを共有する。一度体育館に戻る、という方向で話がまとまったと思った時、ぞわりと嫌な感じがしてカーテンの閉められたベッドに目を向ける。風もないのにゆらりとカーテンが揺れて、ぼんやりと影が浮かび上がる。私たちよりずっと小さな二つの影がゆらりと動く。

「全員走る準備しろ」
「いや、多分ドア開かないと思う」
「あ?何でだよ」
「勘」
「...チッ、本当に開かねえじゃねえか」
「私の勘がよく当たることはまこちゃんが一番よくわかってるでしょ」
「で、どうすんだ。この状況」
「いやー、どうしよっか」
「何も考えてねえのかよ」

『ねえ、お姉ちゃん』

隣で文句を言うまこちゃんに返事をしながらゆらりと揺れる影に目を向ける。ゆらり、ゆらり。揺れるだけで一向にアクションを起こしてこない影にどうしようかと考える。今まで見てきたゾンビとは何か違うような気がして、近づこうと一歩足を踏み出したその瞬間だった。鈴が鳴るような可愛らしい声が聞こえてきて思わず近づこうとしていた足を止める。

『ねえ、お姉ちゃん』

全員に聞こえていた様で、まこちゃんと顔を見合わせる。さっきまで揺れていたカーテンがぶわりと風に煽られてベッドの中が見える。立っていたのは二人の小さな男の子。一人は眼球がなく、一人は足がなかった。

『お姉ちゃん、遊ぼうよ』

『お姉ちゃん、遊ぼうよ』

二人で交互に喋っているのか同じセリフが必ず二回繰り返される。 襲いかかってくるわけでもなく、ただベッドの横に立って私をじっと見つめてくる二人から、何故か目が離せない。周りの音が聞こえなくなって、男の子の声しか聞こえない。まるで、この場にいるのが自分だけのような感覚に息が詰まる。

『鬼ごっこ、しようよ』

『鬼ごっこ、しようよ』

『僕たちが、鬼』

『僕たちが、鬼』

『お姉ちゃんは、逃げる人』

『お姉ちゃんは、逃げる人』

ズキズキと痛み始める頭と霞む視界に立っていられなくて膝をつく。

『お姉ちゃんが負けたら、お姉ちゃんの大事なもの、ちょーだい?』

『お姉ちゃんが負けたら、お姉ちゃんの大事なもの、ちょーだい?』

きゃはっ、と無邪気な笑い声が聞こえた後、私の意識は闇に沈んだ。



〜〜〜



(side:H)

ベッドの横に立つ二人のガキが口を開いた直後から葉月の様子がおかしい。何度呼びかけても反応しないどころか、まるでこっちの声が聞こえていないような様子に舌打ちをする。

『鬼ごっこ、しようよ』

『僕たちが、鬼』

『お姉ちゃんは、逃げる人』

ガキ共がそういった瞬間、がくりと葉月が座り込む。隣にしゃがんで顔を覗き込むと、真っ青な顔と光の消えた目。何度名前を呼んでもピクリとも動かずにただ一点を見つめ続ける葉月に再度舌打ちをする。

『お姉ちゃんが負けたら、お姉ちゃんの大事なもの、ちょーだい?』

その言葉と共にガキ共が消えて、葉月の体が倒れてくる。まるで眠っているかのような葉月を抱き上げてヤマに扉が開くかどうかを確かめさせる。

「は?さっきまで開かなかったのに…」
「恐らく、朝倉さんがこうなることが扉を開けるための条件だったんでしょう。一度体育館に戻って、朝倉さんが目を覚ますのを待ちましょう」

そう言った赤司に従って保健室を出る。先程見つけた救急箱と解毒薬はヤマに持たせて、隣でギャンギャン喚く実渕と葉山をうるせえ、と睨みつける。体育館に戻ると、意識のない葉月を見て体育館内がザワつく。色んな感情の視線を背中に受けながら一哉達がいる場所に葉月を運ぶ。

「え、葉月死んだの?」
「縁起でもないこと言うんじゃねえよ!」
「冗談に決まってんじゃん。ザキ何でもかんでも本気にしすぎ〜」
「何があったんだ。花宮」
「とりあえず、葉月寝かせたら?」
「ああ。ヤマ、さっきの事コイツらに話しとけ」
「はあ!?俺かよ!」

床に瀬戸のブレザーが敷かれてその上に葉月を寝かせると、古橋が自分のブレザーを葉月にかける。ヤマに説明を頼んで、先程見つけた赤い宝箱を開けさせるためにあの女の方へと足を向けた。

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