私も思った

アイテムはかなりあっさり見つかった。日付が書かれた白い紙が床に一枚落ちていて。破り取られた跡があるから元々は日記とかノート系だったものなんだと思う。ただその白い紙に書かれている文章は穏やかではなくて。

《〇月×日 やっと見つけた。可愛い可愛い僕のお姫様。あの頃と変わらない綺麗な顔と綺麗な声。でも一つだけ変わってしまった。あの頃の君は純粋で真っ白だったのに。今の君は真っ黒になってしまった。》

…気持ち悪い。僕のお姫様って何だ。お前は王子様にでもなったつもりか。見なかったことにしたい気持ちを抑えながらその紙を折りたたんで制服のポケットに入れる。ぐるりと見回してみても普通の用具室で何か特別な物はない。

「これが見つかっただけでも収穫かな」

そう思って用具室を出ようとした時、視界の隅でキラリと何かが光った。薄暗い用具室で目を凝らすと棚の一番上に何かがあるのがうっすら見えて手を伸ばす。全然届かない。クソ。近くにあった箱に足をかけて、棚に手をかけて、腕を伸ばす。

目当ての物に手が届いてホッとしたのもつかの間。バキッと嫌な音がしてグラリと体が傾いた。反射的に目の前の棚を掴もうとするけど埃がたまってた棚は掴ませてくれなかった。あ、これやばい絶対痛い。

「あっぶねー!大丈夫っすか?」
「…大丈夫。えっと、秀徳の…なんだっけ」
「ぶはっ!秀徳高校一年の高尾和成でっす!」
「ああ、そうだ。高尾、ありがと」
「いえいえ!何してたんすか?」
「アイテム探し?」
「なんで疑問形なんすか」
「何となく」

終始爆笑しながら話す高尾に引きながら話をする。何がそんなに面白いんだコイツ。まあ、助けられたことには変わりないから一応お礼は言う。霧崎だからってお礼も言えないほどクズになった覚えはないし、なりたくないしね。

「高尾は何しに来たの」
「朝倉さんがここ来るの見えたから何してんのかなーって」
「怪しいことしてねえかな、コイツみたいな?」
「まさか!俺もアイテム探しでーっす!敵が出た所にアイテムが落ちてるのはホラゲの定番なんで!」
「ナチュラルにあの子のこと敵呼ばわりしたね」
「まだ敵って決まった訳じゃないけど警戒するに越したことはないかなーって感じっすね。1人だけバスケ関係者じゃないし」
「なるほどね。でも私とあんまり仲良くしてると誠凛さんとか誠凛さんとか誠凛さんの目が痛いと思うよ」
「全部誠凛だし!ぎゃはは!」
「…ほんと変な奴だなお前。何でそこで笑えるの」
「辛辣!」

頭の後ろで手を組んで笑う高尾は笑顔で面白い事を言う。あの女の子に対して疑いの念を抱いてるのは私達だけじゃないわけか。あ、私達って言うのは霧崎のメンバーのことね。あいつらもそういう勘は働くから。にしても、赤司とか今吉サンは客観的に物事を見れるしあの2人は賢いと思うけどまさかここにもそのタイプがいるなんて思わなかった。

「にしても、この状況で挨拶回りってすごいっすね」
「やっぱ挨拶回りしてたのかあの女」
「あの女って…ぶふっ」
「さーてと鍵もゲットできたし、古橋の様子でも見に行くかー」
「鍵?あぁ、さっき落ちそうになりながらゲットしたやつっすね」
「落ちそうになった、は余計」
「だって事実だし?」
「生意気だな、一年坊主」
「サーセンしたー」
「てか、私の名前知ってんの?」
「あれ、知らないんすか?朝倉さんって結構有名人っすよ」
「へえ、クソほど嬉しくねえ」
「口悪っ!」

ケラケラ笑う高尾を後ろに引き連れて古橋がいる方向に歩き出す。もちろん、拾った鍵は白い紙同様にポケットの中に入れて、落としたりなくしたりしないようにしてある。花宮が私、ではなく私の後ろをついて歩く高尾を見て眉を潜めた。うん、だよね。絶対そういうリアクションすると思った。

けれど、高尾と花宮は結構仲良く…っていうか普通に良い関係が築けそうな気がする。いや何となくだけど。高尾のコミュ力然り、性格然り。程々に性格悪いけどそれを表に出さずに適切な距離感で相手と向き合う。言ってしまえば私と似たようなタイプ。私と花宮が仲良くなれたんだから良い関係にならないわけが無い。

「古橋、何かあった?」
「あぁ、本が一冊見つかった」
「それだけ?」
「それ以外は至って普通だったな。それより後ろのは何だ?」
「秀徳高校一年の高尾和成でっす!よろしくお願いしまーす!」
「…あ、あぁ」
「なんで古橋は困ってんの?」
「いや、返答に困って」
「自分も自己紹介すればいいじゃん」
「…霧崎第一高校二年の古橋康次郎だ」
「古橋さんっすね、よろしくお願いしまっす!」
「原みたいだな、チャラさが」
「あ、やっぱり?私も思った」
「適度にうざいチャラさだな」
「適度にうざいって…っ!ぶほぉ!」
「さっきから貶されると笑うんだよねこいつ。Mなのかな」
「となると、同じ属性の原もMなのか」
「えっ、あいつは生粋のドSでしょ」
「何の話っすか!」

真剣な顔で訳の分からない話をする私と古橋の隣でひいひいと腹を抱えて高尾が笑う。コイツ、いつか笑い死ぬんじゃないのかってくらい笑ってる。割と古橋とはこういう話をするから私的には別段面白いことをしているつもりはないんだけど。そう思いながら古橋が持っていた日記を預かり見てみると、小さな南京錠が付いていて開けられなくなっていた。ふむ、なるほど。これの為のあの鍵だったわけか。さっき拾ってきた鍵をポケットから取り出して鍵穴に差し込むとビンゴ。ぴったり当てはまる。このまま開けてもいいけど何かあると困るから花宮に持っていこう。ひとりで行くのは怖いからこのふたりも連れていこう。そう思って、鍵を一度ポケットに閉まって日記を片手に歩き始めた。

ALICE+