(side:Y)

保健室で意識を失ってから一向に目を覚ます様子のない葉月に花宮が舌打ちをする。葉月が起きないと探索に行けないせいで、脱出の為の手がかりを探しに行くことも出来ない。

「あ、あの…!」
「どうしたんですか?」
「その…探索に、行きませんか?」
「どういう事だい?」
「1階と2階とで変化があるなら、朝倉さんがいなくても探索できるようになってるんじゃないかと、思ったんです、けど…」

静まる体育館に響いたのは誠凛の女の声。確かに、その可能性もない訳では無いなと赤司や桐皇の主将が納得する。花宮は、いや、うん。あの女に言われるまで気づかなかったって事実が気に食わないのは分かったから、その顔止めろよ。ほんとに悪役の顔してたぞアイツ。

「そうだな…しかし、俺達だけで探索に行っても進展する可能性は低い。1階と2階とで変化した可能性があるとすれば西条さんが探索に出ても進展するようになった、という事だな…」
「つまり、姫さんが探索に行かなきゃ行けなくなるって事ですか?」
「あくまで可能性の話だよ。まだ確定ではないが、おそらくそうだろうね」

そんな…と絶望に満ちたような顔をする黒子に頬が引き攣る。前に葉月が霧崎の中じゃ俺は唯一の良心とか何とか言ってたけどさすがに俺も黒子みたいなタイプはちょっと遠慮願いたい、と、思ってしまった。

「え、あの子探索に出んの?足でまとい確定じゃん」
「いやお前直球すぎんだろ」
「だってそうじゃね?」
「そうだけどよ…」
「えー、あの子と探索行くの嫌なんだけど。葉月ー起きてよー」
「そのタイミングで葉月が起きたら原、殺されるよ」
「それな?俺も思ったわ」

葉月の頬をつつくだけに飽き足らず、髪の毛を引っ張ってみたり、頬を引っ張ったりする原を呆れた目で見ながら瀬戸が言う。まあ…今起きなくても古橋あたりが後で口滑らせて言っちゃいそうなんだけど、そこは黙っておく。

「ま、探索行ってみたら分かるんとちゃう?」
「そうですね。西条さんと誠凛の皆さん、それから霧崎の原さんと瀬戸さんに探索に行ってもらいます」
「うげ、まじ?」
「葉月にちょっかいだしてた罰のようだな」
「ええー、瀬戸だけでいいじゃん」
「いいから行ってこいよ。誠凛の奴ら超睨んでるぜ」
「やる気満々って感じだね。めんどくさ」
「ほんとめんどいんだけど。ザキ変わってー」
「嫌だっつーの」
「まあ、頑張れ」
「へいへい、行きますよーだ」

桐皇の主将の言葉に赤司が頷いて、指示を出す。名前を呼ばれた原が露骨に嫌な顔をして、瀬戸も微妙な顔。俺さっき探索行っててよかった。俺も誠凛プラスあの女と一緒に探索とか普通に行きたくない。嫌だ嫌だと立ち上がろうとしない原を瀬戸が引きずる様にして連れていく。

「葉月が次の探索までに起きてくれないと俺達もああなるってことか」
「だな。まじ行きたくねえけど」
「…というか、葉月の様子おかしくないか?」
「言われてみればさっきより魘されてるような…」
「ほんとにこのままで大丈夫なのか?」
「花宮が分かってないのに俺らが分かるわけねえだろ」
「それもそうだな」

古橋の言葉に葉月を見れば、額にはうっすら汗が滲んでいて、さっきよりも苦しそうな顔をしている。夢の中で何が起きてるかは分からないが、何となくこのまま放っておくのは行けない気がして心配になった。

〜〜〜

結論から言おうと思う。

「何っにもねえじゃん!ふざけんな!」

後ろから追いかけてくるゾンビと、追いかけられる私を眺める男の子たち。そして、ヒントがあると思って探してみたけれどそもそも探す場所がない。本当に何も無い。ただただ駆け足でゆる〜い鬼ごっこをしてるだけ。あまりの進展のなさにイライラしてきた。

「そもそも何がクリア条件なんだよ…つーか、これクリアしてどうすんだよ…」

全く意図の読めないこの鬼ごっこに頭が痛くなってくる。もう一度この状況に陥る前を思い返す。僕たちが鬼で、お姉ちゃんが逃げる人、とそう言ってた。そして意識を失った私を待っていたのは、この謎の状況。そこまで考えて何かに引っかかる。何?何に引っかかってる?

「僕たちが、鬼…お姉ちゃんが、逃げる人…。ちょっと、まって…」

僕たちが鬼、お姉ちゃんが逃げる人。つまり、今私を追いかけてきてるゾンビたちは鬼じゃない…?開始早々追いかけられて、鬼だと思い込んで逃げているだけだとしたら。あのゾンビは倒してもいいってこと?いや、だとしたら彼らはなんで追いかけてこないのか。鬼ごっこってアレだよね?追いかける人と逃げる人がいて初めて成立するものだよね?

「考えててもしょうがないか…」

背を向けていたゾンビたちに向き直る。最初に立てていた仮説だと、彼らは目と足がないから追いかけられない。だから代わりにゾンビを追いかけ役にした、と思っていた。でもその仮説が正しければ私がここから脱出する為のナニカが必要。でも、そのナニカはこの空間には存在しない。つまり、私が最初に立てた仮説は間違いである可能性が高いということ。

ここから脱出する為のナニカがこの空間にない、ということはまず有り得ない。だとすると、ここから脱出する為のナニカはもう既にこの場にある可能性が高い。そして、そのナニカはゾンビか彼らであると考えるのが妥当。そして、彼らが鬼であるということは、ゾンビたちは触れても問題ないと考えられる。

「5体、ねえ…ま、楽勝でしょ」

ニヤリと笑った私は多分めちゃくちゃ悪い顔をしてると思う。視界の端で男の子たちが笑ったような気がして、そっちを向いたけどさっきと同じように無表情で立ってる二人に気のせいかと、目を逸らした。

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