(side:H)

「きゃああああ!」
「姫さん!?」
「や、やだ!こないで!」

聞こえてきた悲鳴に後ろを向けば扉から入ってきたゾンビが西条さんに迫っていた。床に座り込んで、涙目で後ろに後ずさる西条さんに誠凛の奴らが声を上げる。何となく西条さんの姿に違和感があったのは俺だけじゃなくて瀬戸も同じだった。二人で顔を見合わせて、盛大にため息をついて駆け寄ろうとする誠凛を止めた。けど、誠凛はそれを振り切ってゾンビに向かっていく。

「瀬戸さ、あれどう思う?」
「見たまま、でしょ。葉月の予想が大正解」
「女のカンも馬鹿にできないねー」
「ところで、あれ放っておいていいの?」
「…めんどくさ。瀬戸行ってよ」
「遠慮しとく。原が行けば」
「ええ…俺もやだよ」

一応武器は持ってるし大丈夫だろうと誠凛を放置して瀬戸と話す。葉月が言ってた西条さんがこちら側じゃない、という言葉。俺と瀬戸が引っかかったのは確実にこれ。悲鳴をあげて涙目で座り込む西条さんとその目の前に立つゾンビを見れば西条さんが襲われているように見える。

けれど、ゾンビは西条さんに近づくだけで一切攻撃はしてなかった。初めからこの可能性に気づいてた花宮と葉月にはさすが、というか何というか。たかが2体のゾンビに武器持ちで苦戦する誠凛にお互い呆れる。

「大丈夫ですか!?姫さん!」
「う、うん…ありがとう…!」
「気にすんな。仲間が危険な目にあってんのに助けないわけねえだろ」
「日向先輩…」
「げぇ。そういうのマジいらないから」
「てめえらな…何で助けようとしねえんだよ!目の前で仲間が死んでもいいのかよ!」
「助けてくれって言われてないし。俺達は君達の仲間じゃないから」
「それなー。友達ごっこすんのは勝手だけど俺らを巻き込まないでくんない?」
「け、喧嘩はだめです!大我くん!私、大丈夫だから!」
「姫…。チッ、わかったよ」

座り込む西条さんに手を差し伸べる黒子と、立ち上がった西条さんの頭を撫でる日向、俺達の態度に腹を立てる火神。いや、まじ、ほんとにこの場所に葉月がいなくてよかった。あと、花宮。花宮は機嫌悪くなるけど、それだけだから特に問題はない。が、葉月は別だ。こんなメロドラマ見せられたら絶対機嫌悪くなって俺が八つ当たりされる。

まあ、私のために喧嘩しないで!と言わんばかりの彼女には俺もイラついてるから気持ちは分からんでもない。さっきの紙をポケットにしまって、自分たちの世界に入り込む誠凛を横目に探索を再会する。棚の書類系からは何かが見つかる気配が一切ない。

「一個怪しく見えると全部怪しく見えちゃうよね」
「?どうしたの、急に」
「そこまで気にしてなかったけど、あの子かなり怪しかったんだね」
「今更でしょ。そもそも最初から怪しいとこしかなかったし」
「ま、葉月も気づいてたみたいだし?うちの頭脳組が予想外すとこ、見たことないからね〜」
「花宮に疑われるなんてご愁傷様、としか言いようがないでしょ。あと葉月も」
「今のことも報告した瞬間愉しそうに笑うんだよ。あの二人」
「あの二人の性格の悪さは折り紙つきだから」

誠凛の奴らから少し離れた場所で机を漁りながら瀬戸と話す。西条さんがこっち側じゃないのはほぼ確定。赤い紙に書いてあった裏切り者は彼女だろう。あとは、それを周りのみんなに知らしめるための材料集め。それに関しては俺がやらなくてもウチの頭脳組、もとい性悪組に任せとけば何とかなる。まあ、性悪組っていうともれなく俺たち全員そうなんだけど。

「あ、あの!これ…」
「ん?なに、どしたの?」
「その…テツヤくんたちがゾンビを倒して私を助けてくれた後、床に落ちてたんです」
「ふーん。で?なんで俺達に渡すの?」
「え、っと…その…」
「こらこらあんまり虐めたら姫ちゃんがカワイソウじゃん」

おずおずと俺達の前にやって来た西条さんが手に持ってたのは鍵。特別教室の鍵は毎回イベントが起きた後に現れるから今回も恐らくそれだろう。瀬戸が西条さんを見下ろして口を開く。彼女が裏切り者であることを決定づける証拠探し、といったとこかな。会話することで彼女が出すボロを拾おうとしてるって感じ。でも、今誠凛がいる所であまり問い詰めると面倒になる。

経験者は語るってね。恋情が絡むと人間面倒になるんだよ、瀬戸くんや。まあまあと止めればあからさまに安心したように息を吐く西条さん。いや、別に君を助けた訳じゃないから勘違いしないでね。小声で瀬戸に「探り入れるなら誠凛以外と探索に来てる時にしなよ」と言えば意味を理解したのか「はいはい」と肩を竦めてた。

「葉月起きてるかな」
「起きてるんじゃない。古橋が口滑らせてなきゃいいね」
「何で?」
「さっき散々葉月にちょっかい出してたでしょ」
「げ、マジかよ。戻るの嫌になってきたわ」
「じゃ、一人でここにいなよ」
「それはもっとやだ。体育館に戻って今回の探索結果を聞いた花宮のリアクションが気になるから帰る」

とりあえず、西条さんから鍵を受け取ってポケットに入れる。俺達の隣に立つ西条さんに「まだ何か用?」と言えば慌てた様に誠凛のところに戻っていった。残念ながら俺達は誠凛ほどチョロくない。つーか、涙目上目遣いとか見飽きてるし。守ってもらいたいだけのお姫様とか勘弁して欲しい。

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