案の定、というかなんと言うか私の方が怪しいんじゃないのか的な視線は増えつつある。もちろんその筆頭は誠凛なんだけど、その他にもチラホラとそういう視線を向けてくる奴らがいる。やっぱりあの子が怪しい!って言うよりも私が怪しいってことにして置いた方があの子もボロを出しやすくなるんじゃないのか、と思ってまこちゃんに提案してみたけどそれは最終手段だとバッサリ切り捨てられた。やっぱりアイツ私のこと大好きじゃん。

「久しぶりに校舎に入るかも」
「まあ、お前出ずっぱりだったもんな」
「ちょっとは労わって欲しい」
「ここから出たらマジバのコーヒーでも奢ってやろう」
「えー?マジバ?ステバにしてよ」
「そこでグレード上げるのが葉月だよなあ…」
「うるさいよ」
「はぁ…どうせ全部飲まないで俺に渡すんだろう」
「あ、バレた?」

先頭を歩くのは陽泉の3年。その後ろを陽泉の2年、そしてその後ろを私と康次郎とザキの3人、最後尾を紫原という並びで廊下を歩く。全員揃いも揃って身長が高いもんだから首が痛い。誠凛の奴らが頑張りに頑張って入手した鍵を片っ端から試していった結果、第一理科室の鍵だと言うことが分かった。福井さんがゆっくりと鍵を開け、扉に手をかける。

順に中に入り、最後に入った紫原が扉を閉める。本当は私じゃなくて西条サンがここに来るはずだったのだが、誠凛の奴らがどうしても休ませたいと言った為私が出ることになったのだ。え、私も休ませて欲しいんですけどと思いつつもきちんと探索に来た私を誰か褒めてほしい。今回は今までと違って教室から準備室に入ることが出来ないようで、準備室に入るにも鍵が必要な事が分かった。

「探索、って言っても今までも準備室で何か起きてるからなあ…」
「ま、探すところもあんまねえしな」
「今回は出番なしだな」

理科室の作りは至ってシンプル。実験用の机と壁際の棚、窓際の水道があるだけだ。私の呟きにザキがつまらなそうに机に腰掛ける。陽泉の人達が棚を探っているのを横目で見ながら3人で話していると福井さんの激が飛ぶ。「てめえらも探せ!」という声に渋々腰を上げて立ち上がる。机の下の収納スペースや教卓の中などの物を隠せそうな場所を中心に探す。

結局これだけ探して見つかったのは青い宝箱と青い本。もう嫌な予感しかしない、と思っているのは私だけではなく康次郎とザキも同じようで顔を顰めていた。もちろん開けないわけには行かないため宝箱を開けて中から鍵を取り出し本に付いていた鍵を外す。前と同じ手でくるってことは無いと思うけれど警戒するに越したことはない。

「はあ…開けたくねえ…」
「正面から外れとけよ」
「わかってる」

案の定、またカラカラと中で音が鳴っている本を手に小さくため息を吐く。ザキに言われるまでもなく、正面から少しずれて本を開ける。何が出てくるのか、と構えたが何かが飛び出してくるという訳ではなく、中に入っていたのは青い紙と黒いガラス玉。青い紙には『裏切り者』と一言記されていてそれ以外には何も書かれていない。

「…直球だあ」
「入っていたのはそれだけか?」
「あと黒いガラス玉。まだ中から出してないけど」
「ねえ、朝倉さんって本当に裏切り者じゃないの?」
「へえ…何で?」
「朝倉さんにだけ開けられるアイテムは全部俺達にとって不利になるような物ばかりだっただろう?」
「…確かに、言われてみれば…」

紙をヒラヒラとさせながら笑う私にザキが呆れたような顔で返す。康次郎が私の手に持たれている本の中を覗き込むから見えやすいように本を少し傾ける。赤、青、と来て次は黒。これが何を示すのかと頭を悩ませていると氷室の声が頭上から降ってくる。氷室は青い何かが私達に取ってマイナスになる物しかなかったことに気づいていたようで私の持つ本を指さしている。

「気付いてたんだ」
「まあね」
「それで、私に何を聞きたいの?」
「いや。朝倉さんがもし裏切り者で俺達の敵だとしたら怖いなと思ってね」

私の言葉に肩を竦めて見せる氷室を真っ直ぐ見据えるけれど本心を見せようとはしない。この男は私の事も、アノコの事も信じてない。信じてるのは自分の身内だけ、というのがひしひしと伝わってくる。最初に一緒に探索に来た時は当たり障りない態度で私の事を探っていたようだけど、ここまで私が裏切り者だある事を裏付けられる物が揃えば切り込んでくるだろうとは思っていた。

「おい氷室、止めろ。今はそんな事言ってる暇ねえだろ」
「親切心で一つ教えてあげましょうか。裏切り者を一生懸命探す行為は、今この場では首謀者側の思うつぼですよ」
「どういう意味だ」
「言葉のままですよ…って、ちょっと!」
「今度は黒〜?」

お互い視線を交わらせたまま動かない私達を止めるように福井さんが間に入る。「すみません」と謝る氷室をチラリと見た後、口を開く。小さく笑いながら話す私に福井さんが怪訝な顔をする。福井さんに応えようとした瞬間、隣から腕が伸びてきて私の手の中にあった本から黒いガラス玉が持ち上げられる。犯人は言わずもがな、紫原。

さっさと返せ、と言う私に紫原はガラス玉を少し眺めた後、本の中に戻そうとした。が、するりとその手から零れ落ちたガラス玉は少し高めの位置から床に向かって落ちていく。咄嗟に手を伸ばしたけれど、その手はガラス玉を掴むことが出来ずに空を切った。そして、目の前で床に落ちたガラス玉が小さく音を立てて、割れた。


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