ガラス玉が割れた瞬間、まるで視界を奪われたように世界が闇に染まる。少しするとこぼしたインクを拭き取った様に、徐々に視界が開けていく。ぱちり。一度瞬きをして、次に目を開けると目の前には見慣れたゾンビ。反射的に距離を取って、辺りに目を向ける。全員の隣に一体ずつ。つまり、計8体のゾンビがこの教室内にいた。

「チッ…!めんどくさい事してくれたな!紫原!」

手を伸ばして襲いかかってくるゾンビの腕を蹴り上げ、その足でゾンビの胴体に蹴りを入れる。くの字になったゾンビの頭に踵を落として、床に倒す。今までならそれで消滅していたゾンビだったが、うめき声と共に起き上がろうと動き始める。

「階層が上がれば敵レベルも高くなるってわけ、ねっ!」

まるで本当にゲームの世界のようだ、と何度目か分からないほど考えたことが頭をよぎる。起き上がろうとして、四つん這いのような姿勢になっているゾンビの腹部を蹴り上げて、仰向けに倒す。頭を思い切り蹴り飛ばせばゴキリ、と鳴っては行けない音と共にゾンビの首が曲がる。「グ、ガァ…!」と苦しげに声を上げて消えていくゾンビを見ながら辺りを見回す。

大体は対応出来ているようで特に問題はなさそうだ。言うなれば福井さんが少し苦戦しているくらいで、これといって誰かが大怪我をするとかそういう状況にはなっていなかった。やはり戦力的に陽泉を連れてきて正解だった。これで他の学校だったら確実に誰かしら倒されていただろうし苦戦を強いられていただろう。なんて考えていれば、最後の一体を福井さんが倒したことで私達一人一人の目の前に現れたゾンビが全て地に伏せた。

「はあ…はあ…おいこら紫原ァ!」
「ごめんて〜」
「まさか一人一体なんて思わなかったね」
「安易な行動すんじゃねえって言っただろうが!!!」
「も〜全員無事だったんだからいいじゃん」
「結果論だろうが!!!」

息を切らした福井さんが紫原に文句を言う隣で涼し気な顔をする氷室を眺めながら康次郎とザキに目を向ける。康次郎が床を指さして何かをザキに言った後、ザキがしゃがみ込む。多分ドロップアイテムを回収してるんだろうと思いながら近づけば康次郎の視線がこちらに向く。

「ドロップアイテム何だった?」
「気付いてたのか?」
「何となくね」
「そうか。ドロップアイテムは恐らく別の教室の鍵のようだな」
「ふうん。第二理科室か準備室希望」
「俺が持ってればいいのか?」
「ああ。ザキが持っててくれ」
「おー。りょーかい」

近づいて声をかければしゃがみ込んでいたザキも顔を上げてこちらを見てくる。その手には鍵が握られていて、大きさ的にもタイミング的にもこの回の特別教室の鍵であることは確かだった。ザキがポケットに鍵を閉まったのを確認してから未だに騒いでいる陽泉の奴らに視線を向ける。いつまでやってんだあの人たち。

「何か見つけたアルか?」
「鍵」
「ゾンビを倒したことでアイテムが貰えるなんて本当にゲームみたいだね」
「楽しそうだね、アンタ」
「ああ。日本のホラーハウスはリアリティが高いね」
「こんなお化け屋敷聞いたことないけど」
「鍵が見つかったってんなら一回戻るか」
「いや、このまま探索続けます。多分2階はほぼ物理攻撃で解決できるみたいなので」
「…?どういう事だよ」
「今まで鍵を入手する為に必ずゾンビと戦ってるんです。つまり2階、もしくはここから先は鍵を入手する為にゾンビをと戦わなきゃいけない可能性が高いってことですよ」
「…なるほどな。ほんと、憎たらしいくらい頭の回転早いなお前」
「他の人達が遅いだけですよ。別に普通です」
「…可愛くねえな」
「可愛くなくて結構です」

ひとしきり騒いだ陽泉の奴らが覚めた目を向ける私達の元へと歩いてくる。聞かれた質問に淡々と返事をしていれば福井さんが何とも言えない視線を向けてくる。可愛さなんてものは求めてないし、どうとでもいい相手に可愛く見られたいなんてこれっぽっちも思っていない。可愛いリアクションをしてくれる女の子が好みなら体育館にいる3人にでも頼んでほしい。

一度体育館に戻ってもいいかもしれない、とも考えたがこれと言って収穫があったわけでもなければ体力的、戦力的な余裕が無いわけでもない。それならば時間をかけて体育館に戻ってもう一度ここまで来るよりも次の教室をある程度探索しておいた方がいいのではないか。康次郎やザキからも賛同の返事を貰っているため、その旨を陽泉の奴らに伝えて第一理科室を後にする。

「頭使うような探索より物理攻撃で何とかなる単純明快な探索の方が楽でいいわ」
「…お前の場合どっちでも無双だろ」
「あのオタマロには負けるけどね。あ、でもザキには勝てる自信あるよ」
「俺もお前には勝てると思ってねえよ」
「ザキが葉月に勝てる所なんてあるのか?」
「いや…ある、んじゃね?」
「お前ら私をなんだと思ってんだよ」


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