カチリ、鍵の開く軽い音がして第二理科室の扉が開く。私の予想通り第一理科室で見つけた鍵は第二理科室のものだった。ザキが中の様子を伺い、何も無いことを確認して順に中に入る。最後に入った康次郎が扉を閉めて教室内を見回す。第一理科室と作り自体に大した差はなく、違うところと言えば棚に入っているものが違う、といったくらいだろうか。

「何も無い、とは思いますけど一応探索しましょう。さっきと同じ黒いガラス玉を見つけた場合は取り扱いに注意してください。くれぐれも絶対落とさないようにお願いしますね」
「あーもー、わかってるってば」
「二度目はねえからな、紫原」

わざとらしく紫原を見ながら最後の言葉に力を込めれば不貞腐れたような顔をしながら紫原が返事をする。福井さんも私と同じように紫原に念を押していてさすがにこの状況じゃ考えることは同じか、と息を吐く。探索、とは言っても第一理科室と同じで探索できる場所は棚の中と机の下の収納スペースくらいしかない。見落としがないように目を光らせているとキラリと一瞬光るものが目に入る。

「見つけた」
「あったか?」
「うん。黒いガラス玉」

真ん中の机の下の収納スペースにあった黒いガラス玉を手に取れば、それは私の手の上できらりと光る。隣に立った康次郎にガラス玉を一度見せて落とさないように胸ポケットにしまう。その後も探索を続けたが案の定、何も見つかることはなく一度体育館に戻ることが決まった。歩きながらも時折、胸ポケットの膨らみに手を当ててガラス玉がそこにあることを確認する。これで落としただのなくしただのとなれば、何を言われるかたまったもんじゃない。

体育館に戻り、第一理科室で起きたことと第二理科室で起き得ることを報告すれば私が考えていた通りの答えが返ってくる。恐らく黒いガラス玉の落下はゾンビ出現のスイッチになっている可能性が高いという事。そして、落下した際にその場にいる人間と同じ数のゾンビが出現する可能性があるということ。これら二つの可能性が正しいとすれば戦力的な余裕があるメンバーで第二理科室に向かうのが最善だという判断となった。

「いいように使われてるみたいで癪だよね」
「みたい、じゃなくていいように使われてるんだろ」
「でも、私たちがいないとアイツら脱出できないわけでしょ?大嫌いな私たちにお願いしますって言わなきゃいけないなんてほんと可哀想だよね」
「葉月、顔やばいぞ」
「どういう意味だザキこら」

頭の後ろで手を組みながら歩く一哉が不満げな声を上げ、康次郎が冷静に言葉を返す。その言葉にまこちゃんがふはっ、と悪そうに笑ったのと同時に私もくっ、と喉を鳴らして笑ってしまった。何笑ってんだよ、とでも言いたげな視線を向けてくるザキに向けてにやりと笑って言葉を紡げばザキがひくり、と頬を引き攣らせる。私の言葉に概ね同意だったのかまこちゃんも同じように笑っていた。

第二理科室に辿り着き、まこちゃんが少し扉を開けて中を見る。何もないことを確認して扉を開け、順に中に入り最後に入った健太郎が扉を閉める。まこちゃんが私に目を向けるので、それに小さく頷いて胸ポケットから黒いガラス玉を出す。手のひらに乗せたそれを皆に見えるように少し傾ける。全員がそのガラス玉に視線を向けながら一定距離離れる。全員が離れたことを確認してゆっくりと手のひらを下に向けた。

「やっぱり…!」
「葉月と花宮の言った通りじゃん」
「つくづくうちの頭脳組は頼りになるな!」

ガラス玉が床に触れて、割れる。その瞬間、先程と同じように一瞬視界が暗くなって次に明るくなった時にはすぐ近くにゾンビが立っていた。ちらりと周りに視線を向ければゾンビの数は5体。予想通りの展開ににやりと口角が上がったのが分かった。まこちゃんの口角もわずかに上がっていて、一哉やザキは分かりやすくテンションが上がっている。康次郎と健太郎の表情はあまり変わっていないけど、康次郎は心なしか瞳が輝いている。

ゾンビ相手にいきいきと技を仕掛ける一哉達は傍から見たら相当やばい奴だ。とは言うものの私も少なからず楽しんでいる以上人の事は言えない。相も変わらず私に向けて手を伸ばしてくるだけの単純な動きをするゾンビの手を躱して背後に回り膝裏に蹴りを入れる。膝カックンの要領で膝をつき低い位置に来たゾンビの側頭部に思い切り蹴りを入れればぐらりと傾いて床に倒れる。

「葉月!」
「な、にっ…!」

床に倒れたゾンビの頭をぐしゃりと踏み潰し、ゾンビが動かなくなったのを確認する。振り返れば同じようにゾンビを倒した一哉達が立っていた。ふ、と肩の力を抜いた瞬間だった。珍しく声を荒げたのは康次郎で、その焦ったような表情にまさかと思い振り返れば頭がない状態で動くゾンビの姿が目に入り思わず息を飲む。反射的に後ろに飛び退いて距離を取れば何事もなかったかのようにぐらりとゾンビは倒れて消滅する。

「び、っくりした…」
「大丈夫か?」
「いや、ごめん。ありがと」
「驚いたぞ」
「いや私が一番驚いたよね」
「まあそうだろうな」


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