先程のゾンビの動きに感じた不信に知らないふりをして第二理科室内を見回す。きらりと光る何かが私の前に現れたゾンビがいた場所に落ちているのを確認してゆっくりと近づき手に取れば、それはやはり教室の鍵だった。普通に考えれば準備室の鍵だろう。もう既に次の教室に入るつもりのまこちゃん達の元に鍵を持って歩いていけば眉間に皺を寄せたまこちゃんに額を弾かれる。まあ所謂デコピンと言うやつだ。

「なぜ」
「心配かけんなって意味でしょ」
「心配…?悪童のくせに…」
「それ関係ねえだろ。つーかお前も素直に心配してくれてありがとうとか言えねえのかよ」
「は?ザキのくせに生意気なんだけど」
「なんでだよ」
「花宮めちゃくちゃ睨んでるから止めたら?」
「それもっと早く言ってよ。ただでさえ普段からクソみたいなことしか言わないんだからこういう時くらい役に立つこと言ってよ」
「待って、なんでそんなに当たり強いの?泣くよ?」
「照れ隠しなんだろう」
「黙れ康次郎」
「すまない」

額を押さえて首を傾げる私の頭を健太郎がぽんと撫でる。普段馬車馬のように使うくせに、と少し気恥しくなって文句を言えば隣に立っていたザキが呆れたような視線を向けてくる。軽く握った拳をザキの肩にぶつけていれば後ろから一哉が声をかけてくる。一哉の指さす先に視線を向ければこちらを睨むまこちゃんの姿。何人か殺してきましたみたいな視線止めなよ、という意味を込めて見つめ返せば盛大な舌打ちが返ってきた。

ゲラゲラ笑う一哉を冷めた目で見ればわざとらしく泣き真似を始めるものだからあまりのウザさに一発入れようかと思った瞬間今まで静かにしていた康次郎がぽつりと呟く。当然と言わんばかりの顔の康次郎の言うことを認めるのが癪で思い切り康次郎を睨みつければ肩をすくめて軽い謝罪の声が返ってくる。ついさっきまでゾンビと敵対していたとは思えない緩みに緩んだ空気の糸を張り直すようにまこちゃんの声が響く。

「お喋りもそこまでだ」
「悪役みたいなセリフだね」
「一哉ちょっと黙って」
「開けるぞ」

先程までいた第二理科室から目的の理科準備室までは大した距離がない。というより隣の教室の為、そこまで歩く必要もない。早々に辿り着いた準備室の扉の前でこちらに視線を送ったまこちゃんの言葉に一哉が呟く。緊張感だとかそういうものが欠けているこの男に何を言っても効果がないことは分かっているがため息をついてそれを指摘する。まこちゃんも分かっているようで完全無視のスタンスを決め込んでいる。予想通りに軽い音と同時に準備室の扉が開き、まこちゃんがちらりと私達に視線を向けてから扉を開ける。

中の様子を窺っていたまこちゃんが一度扉を閉めて嫌そうな顔をする。反応的に中に何か危険なものがあったとか、敵がいたという訳ではまいことは分かるのだが何があったというのだろうか。そう思ったのは私だけではなかったようで他のメンバーも首を傾げている。小さくため息をついたまこちゃんが意を決したように扉を開けて中に入る。続けて中に入った私達はようやくまこちゃんの表情の意味に気が付いた。

「最悪だ」
「超フラグ立ったじゃん」
「あれ見て止まってたってわけか」
「しかもいい感じに嫌な位置だな」
「学校の怪談ではテンプレだな」
「余計なこと言ってんじゃねえよ。さっさと探索始めるぞ」

部屋の隅に置かれた人体模型と骨格標本。まじまじと見たわけではないが不気味さなら今まで見てきたものの中で断トツNo.1だ。全員がそれを目にして動きを止めた。げんなりした顔をする私とケラケラ笑う一哉、納得したような声を上げる健太郎と頬を引き攣らせるザキ、そして目を輝かせる康次郎。数名緊張感に欠ける奴らがいるが当然と言えば当然のリアクションだろう。

「何か楽しそうだね」
「普段ネットで見るだけで体験できないようなことが目の前で起きてるんだ。楽しくもなる」
「ふうん。ま、いいけど緊張感持ってよ。まこちゃんに文句言われるよ」
「それは困るが、俺だって油断しているわけじゃない」
「そ。ならいいんだけど」
「…心配してくれているのか?」
「…は?誰が?誰を?」
「葉月が、俺を、だな」
「…悪い?」
「は…、」
「何」
「いや、珍しいと思ってな」
「ニヤニヤしないでウザいから。もう二度と言わない勝手にして」

探索しつつもチラチラと隅にあるそれらに分かりやすい視線を送る康次郎に小さくため息をついて声をかける。康次郎に限って油断だのそういうことがないことは私自身も承知している。それでもさっきの私のように何が起きるのかわからない以上気をつけろ、という意味を込めて言葉を紡ぐ。

珍しく表情が分かりやすく変わった康次郎をジト目で睨むと、そんな私を見ていた康次郎の目尻が下がり、口角が少し上がる。とは言っても普段の康次郎の表情を理解している人間でなければ分からない程度の変化なのだが、確実にニヤついている康次郎に腹が立って少し強めに腹に拳をぶつけた。


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