高尾に手当をしてもらって、好奇の視線を受けながらも壁に凭れかかって息を吐く。思っていたよりも疲れているようで、一度疲れたと思ってしまえば、どんどん疲労はにじみ出てくる。先ほど寝ていたとは言え、休息の為に寝ていたわけではない為、体は休まっていなかった。そんな私の様子に気づいた赤司が次の探索は確かめたいことがあるから私は体育館で待機するようにと指示を出してきた。

「健太郎、まこちゃん怒らないようにフォローしてあげてね」
「さすがに怒鳴りつけたりしないでしょ。まあ文句の一つや二つは言いそうだけど」
「何か、あの子のメンタル崩壊よりもまこちゃんの血管が切れる方が先なんじゃないかと思い始めてる」
「…確かに。ま、久しぶりにちゃんとした休みなんだしゆっくり休んでなよ」
「お父さんみたいだね」
「葉月のお父さん…?」
「そんな露骨に嫌な顔しないでよ」
「してないよ」
「してるっつーの。なんでそんな分かりやすい嘘つくの」

探索に行くのは秀徳、まこちゃん、健太郎、西条サンに決まったらしい。私が意識を失っていた時に西条サンが探索に出ても進展があった為、その条件とは何だったのかを探るために西条サンに行ってもらうことに決まったらしい。そして、その条件として考えられる可能性を見落とさない為に、まこちゃんと健太郎が選ばれたらしい。抜け目が一切ない采配にさすがだな、と思う反面生意気だなとも思ってしまった。

「葉月、少し寝たらどうだ」
「え、今?」
「顔色、すっげえ悪いぞお前」
「その顔じゃ多分次の探索連れてってもらえないと思うよ」
「いや別に行きたくて行ってる訳じゃないからね」
「いいから寝ろ」
「んぶっ」

まこちゃん達が出発してから、壁に寄りかかってぼんやりとしていると隣に康次郎が座り、正面に一哉とザキが座ってきた。鏡がない為、自分の顔色は見えないがあのゲス集団に心配させる程度にはひどい顔色らしい。これから先私に探索に行くことが少なくなるとしても言書きゃならない時があるのは当然だし、そうなれば具合が悪いですなんて言ってられない。

三人の言葉に甘えて目を閉じてみるけど、こんなに人に見られてる状態で熟睡できるほど図太い神経は生憎持ち合わせていない。眠っているように見せかけることもできるが、あくまでフリでしかないし逆に疲れがたまってしまう。それは三人も分かっていたようで目を閉じてものの数秒で目を開けた私に苦笑いを返してきた。

「…まあ、寝れないよね」
「ほんと神経質だね」
「こんな人がいっぱいいるところで寝れるわけなくない?」
「合宿の時は俺らの前で寝てるじゃん」
「それとこれとは別問題でしょ」
「まあ、目閉じてるだけでも休まるらしいし無理して寝なくてもいいだろ」

一哉が露骨に面倒そうな声を上げる。あんまり言いたくはないけれど、レギュラーメンバーは気を許しているというか、なんと言うかもう警戒するようなことがないから平気だけど、今ここにいる人達は信用に欠ける。その点については理解してくれているようで他の人たちからの視線を遮るように一哉とザキが座ってくれる。康次郎が自分の着ていたブレザーをかけてくれたのでありがたく使わせてもらう。鼻から下をブレザーで隠し、膝を抱えて隣の康次郎に凭れかかる。

「肩貸して」
「ああ」
「何?寝んの?」
「うるさい。壁は喋らないで」
「ひっど」
「俺ら壁扱いか」
「葉月、マジで寝れんの?」
「うるさ、ぃ…休ませてってば…」

康次郎は静かにしているのに対して全く私を休ませる気のない一哉を一蹴して目を閉じる。かけているブレザーから香る康次郎の匂いと、近くで騒ぐ一哉とザキの声に段々睡魔が襲ってくる。平気だと口では言っても、やはり体は休息を求めていたようだ。目はもうほぼ閉じきっていて、話そうと口を開くけど睡魔の方が勝る。ゆるりと誰かに頭を撫でられたような感覚と温かさに頬が緩んだ。

〜〜〜

(side:H)

「うるさ、ぃ…休ませてってば…」

そう言って目を閉じる葉月はいつも合宿の時に見ていた就寝直前の機嫌が悪い葉月だった。俺の肩に寄りかかって俺の貸したブレザーで鼻まで全部隠して寝る姿は合宿の時に布団を鼻まで持っていくのと同じだ。前に聞いたら理由はないけど落ち着かないらしい。すうすうと寝息を立てて寝る姿だけ見ればかなり可愛い。が、口を開けばあの調子じゃ彼氏なんてできっこないと原が言っていたことを何故今思い出したんだろう。

「よかったじゃん古橋、役得〜」
「?何がだ」
「古橋、葉月の事お気に入りじゃん」
「…そうなのか?」
「げえ、自覚症状なしかよ。そんだけ緩み切った顔してよく言うね〜」

原の指さす先を追って隣を見れば上下する葉月の肩と整った目元。眩しいのか少し眉間に皺を寄せて「ん…」と声を漏らす葉月の頭に自然と手が伸びる。頭を撫でれば眉間の皺がなくなって目元が緩む。何となく動物を撫でているような気分になって手が離せなくなるが、これ以上やると起こすことになる為、名残惜しく思いながらも手を放す。こちらを見ていた原が心底呆れたようなため息をついていたことだけが理解できなかった。



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