ふ、と意識が浮上してゆっくり目を開ける。隣から起きたか?と康次郎の声が聞こえたけどそれに空返事をしてかけていたブレザーを頭まで被る。思っていたよりも眠れたような気がしてどのくらい寝てた?と康次郎に聞けば15分くらいだと返ってくる。前言撤回、眠れたと思っていただけで全く眠れていなかった。眩しさを我慢しながらブレザーから目を出して体育館の様子を窺う。

まだまこちゃん達は戻ってきていないようで、学校ごとに固まって各々話をしていた。少し長い溜息をついて、隣に座っている康次郎の肩に頭をぐりぐりと押し付ける。眠いのに寝られないという状況はかなりストレスだし、何よりも疲れる。私がイライラしていることに気づいているであろう康次郎は何も言わずにされるがままになってくれている。

「あー…まこちゃん達、進展してんのかな…」
「どうだろうな。まあどちらにせよ葉月はこの後も行かなきゃいけないだろう」
「そうだけどさ…ふあ、ぁ…」
「もういいのか?」
「んー、もう寝れないわ」

ぐっと背筋を伸ばしてあくびをする。ブレザーを康次郎に返して足を伸ばして座る。一哉とザキは少し離れた場所で話をしていた。ザキの表情から一哉がくだらない話をしていることは分かった。寝て起きてすぐはどうにも頭が回らない為、ぼんやりと何もないところを見ていると急に出入口の当たりがうるさくなる。目線だけをそちらに向ければ探索に行ったまこちゃん達が戻ってきていた。

「…嫌な予感がする」
「俺も大体同じ気分だ」
「どうせ康次郎行かないから関係ないじゃん」
「本音は全部行きたいけどな」
「じゃあ来いよ」
「花宮に言ったんだが駄目だった」
「え、言ったの…?」
「ああ。即答だったがな」
「まあ、だろうね」

赤司や今吉さんと話をするまこちゃんの様子を見ながらため息をつく。どう見ても進展があった時の顔じゃない。確実に私が行かなきゃいけないやつだ。ちょっとは役に立てよあの女、と内心イライラしながら西条サンを睨みつける。そんな私の横で話す康次郎の言葉に気が抜けて笑ってしまう。つくづくこの男は私の機嫌を良くするのが上手い。

こちらに向かって歩いてきたまこちゃんから露骨に目を逸らして知らないフリをしていると頭を鷲掴みにされてギリギリと力が込められる。所謂アイアンクロー状態だ。痛い痛いと声をあげれば「くだらねえことしてんじゃねえぞ」とすごい目で睨まれる。イライラしているのは私だけじゃないようだ。先ほどの探索で何かあったのか西条サンの声が聞こえるたびに眉間に皺が寄っている。

「機嫌悪いからってあたらないでもらえます〜?」
「うるせえ、さっさと立てグズ」
「超機嫌悪いじゃん。さっきまでの優しいまこちゃんはどこに行ったの」
「誰が優しいって?」
「まゆげ」
「眉毛が優しいのか…」
「すぐ眉毛って言うのやめろ、アホみてえだから…ああ、アホなのか」
「はあ〜?喧嘩売られたムカつく〜」
「康次郎も一々リアクションしてんじゃねえよ」
「すまない」

まこちゃんを筆頭にウチの連中は一般の人たちよりも頭が良い為、会話がポンポン続くのだ。しかもそういう時にしてる会話は全員もれなくアホみたいなものばかりだ。頭がいいのにアホとはこれ如何に。立ち上がってまこちゃんの後ろをついていこうとすると後ろから康次郎に腕を掴まれる。振り返ってどうしたのと聞けば気をつけろよと言われる。純粋に心配されていることが何だかむずがゆくて苦笑いで答える。うーん、ラフプレーなんて心が痛みそうなことを平気でするくせに身内には甘いんだよなあ、この人たち。なんて思いながら康次郎に背を向けてまこちゃんの背中を追いかける。

「あれ、健太郎は?行かないの?」
「校長室の大きさ的に大人数は厳しいから外したんだよ」
「ああ、そう言う事ね」
「まあこの人数でも多いくらいだけどな」
「じゃあ削ればいいじゃん」
「削るはひどくないすか?葉月さ〜ん」
「重い」

体育館の扉の前に立つのはまこちゃんと秀徳の人たち。先ほどの探索で一緒に行ったはずの健太郎がいないことに首を傾げると至極面倒そうな顔をしたまこちゃんがため息交じりに答える。正直こちらの人員を削るよりも秀徳の人員を削る方が戦力的にもいいのではと提案していると後ろから高尾の声が聞こえてくるのと同時に背中に重みが加わる。首だけ後ろに向ければヘラリと笑う高尾の顔が目に入った。

「もし削るとしたら誰削るんすか?」
「…宮地さんと緑間」
「ぶっは!それ葉月さんが嫌いだからっすよね!」
「おいどういうことだ朝倉」
「何がですか」
「緑間はまだしも何で俺も削られなきゃいけねえんだよ」
「自分の胸に手を当てて考えてみたらどうですか」
「ぎゃははは!腹痛え!」

体育館を出て隣に立つ高尾と会話をしながら二階に向かって歩く。先ほどの会話を続けてきた高尾に適当に返事をしていると私の言葉に不満があったのか、宮地さんが横から声をかけてくる。それすらも適当にあしらっていれば高尾が隣でひいひい言いながら笑っていてちょっと引いた。前を歩いていたまこちゃんもコイツら頭大丈夫か的な視線を向けていたから私と同じで面倒臭いと思っているんだろう。なんでこうも緊張がない人しかいないんだと騒ぐ高尾と宮地さんに挟まれながらため息をついた。


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