怪我しちゃうよねえ

二階でまだ行っていない教室は校長室と放送室。理科室で入手した鍵は先ほどの探索で校長室のものだと分かっている為、まっすぐ校長室を目指す。中に入ると、奥に大きな机と椅子。そして部屋の隅に顔の面が抉れた像。恐らく銅像的なものなのだろうが顔の面がない分不気味さが増している。壁には歴代の校長と思しき肖像画が何枚か飾ってあって、それもまた像と同じように顔の部分に靄がかかったかのように黒くなっていた。

「まあ…普通の校長室といえば普通だけど…」
「不気味と言えば不気味っすよね」
「今までの通りなら銅像が動くな」
「待って葉月さんそれフラグ」
「もしくはあの肖像画」
「いやだから止めてってば!」

校長室をぐるりと見回して呟く私に高尾がのっかってくる。今まで、というよりさっきの理科室探索でのことを踏まえて危険物を銅像と肖像画に絞れば高尾がゲラゲラと笑う。そんな高尾に宮地さんが笑ってんじゃねえよと怒る。この人何でこんなに構いたがるのめっちゃウザいんだけど、と思っていると口からその気持ちが零れてたのか高尾が「ウザいって正直すぎる」と大笑いしていた。幸運にも宮地さんにその声は聞こえていなかったようだが、聞こえればよかったのにと思ってしまった。

「やっぱりなにもねえな…」
「だとすると花宮の言うように銅像や肖像画に何かがあると考えるべきか…」
「あ、花宮も同じこと考えてたんだ」
「理科室のこと考えたら当然だろ」
「ま、だよねえ。次はヘマしないから大丈夫だよ」
「何も言ってねえだろ」
「だって心配そうな顔してたから」
「してねえよ。目腐ってんじゃねえのか」
「残念。視力1.8で〜す」
「そういう意味じゃないと思うんすけど!」

少しの間、校長室で探索をしたが何も出てこないし何も起こらない。木村さんと大坪さんの言葉を聞いて声を上げるといつの間にか隣に立っていた花宮がふはっと笑いながら口を開く。私の隣に立っているのは何かあった時にすぐフォロー出来うようにするため、さっきからしきりに視線が動いているのは何かが動いた時にすぐ対応できるようにするためと踏んでニヤニヤ笑って花宮を見る。

隣の高尾も口元を抑えて笑っていて、二人で素直じゃないなあと笑っていると嫌そうな顔でこちらを見てくる。私の切り返しに高尾が耐えきれないと言わんばかりに吹き出した。あまりにも笑う高尾を見てその隣に立っていた緑間がうるさいのだよと声を上げていた。さっきまで一言も話さずに静かにしていたのに急に口を開いたのはあまりのうるささに耐えきれなくなったからだろう。

「おい、葉月」
「わーお、予想通りじゃん。よかったね」
「良い事がどこにあんだよ。どうやって仕留めるつもりだ、アレ」
「銅像だもんねえ…素手での攻撃はこっちが怪我しちゃうよねえ」
「この椅子投げればいいんじゃないっすかね。なんてったってNo.1シューターがここにいますから!」
「わー、ムカつくけど使えるね。緑間やれ」
「…おい、高尾」
「は?え?無視?舐め腐ってんじゃん」
「…いえ、そんなことは」
「葉月さんあんまり威嚇するから真ちゃんがビビってるじゃないですか!」
「ビビってないのだよ!黙れ高尾!」

真面目に考える秀徳三年生をよそにふざけていればズッと何かが動く音がする。その音の方向を見ればまこちゃんも同じ方向を向いていてあまりにも予想通りの展開にへらっと笑ってしまった。とは言っても状況打破の方法が見つかっていない今、ふざけてる余裕はあまりない。素手でのパンチは確実にこっちの手が死ぬし、私の得意技である蹴りも手と同じようにこっちが怪我をする可能性が高い。

さてどうしようかと思っていれば高尾が銅像が置いてある位置とは反対側に積まれた椅子の山を指さした後、緑間を指さす。指を指されたことが深いだったのか眉間に皺を寄せる緑間を見ながら思う。確かに、下手に素手で攻撃するよりも動きが遅い今のうちに何か他の物をぶつける方がいいだろう、と。少し機嫌が悪そうな緑間を見ながら銅像を指させば更に眉間に皺が寄る。命令されていることが不満なんだろうが私が先輩ということもあって態度は控えめだ。かわりに高尾がひどい扱いを受けている。

「じゃあ、真ちゃんがんば!」
「お前も頑張れよ」
「えー?じゃあ花宮さんも一緒にやりましょーよ!」
「何で楽しそうなんだてめえ」
「高尾はドМだから」
「いや違うから!」
「へえ…」
「待って花宮さん嘘だからその顔止めて!?」
「はいはい、М尾くんは静かにして」
「待ってその呼び方何なんですか」

積まれた椅子を引っ張り出してきた高尾がその椅子を緑間に渡す。自分は攻撃する気がないのか一歩引いた場所に立つ高尾に花宮が椅子を渡す。その椅子を受け取って、攻撃するのかと思いきや花宮の手を引っ張って緑間の横に立つ。高尾マジ勇者だな、と思いながらみていると花宮が何かすごい者を見るような目で高尾を見ていた。この危険が迫っている状況でも終始笑っている高尾が気持ち悪かったのだろう。三人と同じように椅子を持って隣に並んで、高尾の方に手を置きながら花宮に声をかける。銅像は着実にこちらに向かって動いてるけれどそのスピードはかなり遅い。今ばかりは銅像の動きが遅くてよかったと心から思った。

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