…開かないじゃん

一度体育館に戻り、校長室での出来事を赤司達に報告する。次の探索には自分が行くと名乗りを上げた古橋が私と一緒に行くことになった。放送室も校長室同様に人が多いと邪魔になってしまう事を考慮して霧崎からは私と古橋の二人が行くことになった。そして肝心の一緒に行く学校は赤司率いる洛山。

「一階の家庭科室の時と同様に今までと違うタイプの敵が出てくる可能性があるので、全員注意してください」

放送室の扉の前に立った私が鍵を開けるよりも前に口を開いたのは赤司だった。油断をしていたわけではないが、こうして第三者から言われると自然と気が引き締まるような気がする。カチリと鍵の開く音がして、扉から離れた私の代わりに赤司がゆっくりと扉を開ける。

「中に入るのは俺と黛さん、朝倉さんと古橋さんの四人。お前たちは外で待っていてくれ。何かあったら必ず知らせること。任せたよ」
「分かったわ。征ちゃん達も、気を付けてね」
「ああ」

扉を少しだけ開けて、中をのぞいた赤司は少し考えるような素振りの後、中に入る人を限定した。まあ、放送室の規模的にこの人数は厳しいと判断したのだろう。赤司の指示通り、廊下に鋭い目を向ける実渕達を横目に放送室内に足を踏み入れる。仲は至って普通の放送室で、スタジオと副調整室に分かれていた。

「古橋、黛さんとそっちよろしく。私は赤司とスタジオに行く」
「わかった。何かあったらすぐ言ってくれ」
「ん、了解。黛さん、うちの宜しくお願いします」
「…お前、コイツと一緒じゃなくていいのか?」
「一応私は要注意人物なんで。赤司が監視するのが一番でしょう」
「ああ、そういうことか」
「そう言う事です。なので、古橋の監視は黛さんに任せます」

チラリと赤司に視線を送った後、私と赤司、古橋と黛さんで分かれるように指示を出すと私の考えていることに気づいた古橋は素直に頷いてくれた。黛さんは、他校との慣れ合いを嫌がっていた私が率先して赤司と組もうとしていることに疑問をもったのか首を傾げる。肩を竦めておどけるように言って見せれば納得したように頷いてくれる。皆この人達みたいに物分かりが良ければいいのにと思うと小さなため息が零れた。

「赤司、行こう」
「はい」

赤司を連れてスタジオの扉を開ける。中に入れば複数の機材と椅子が二つ。機材のせいか少し狭く感じるスタジオには特に怪しいものは見当たらず、機材は全て壊れているようでスイッチを押しても何の反応も見られなかった。探すところが少ない上にこの狭さじゃ時間をかけて探索してもしょうがないと扉に手をかける。

「…開かないじゃん」
「予想通りですね」
「はあ…今度は何しろっていう訳」
「俺たちに何をさせたいかは分かりませんが、先程からノイズが聞こえていることに気づいてますか?」
「気のせいだと思いたかったけど、アンタが言うならそうなんだろうね」

扉をガタガタと揺らした私を見て赤司が落ち着いた声で呟く。ため息をついてスタジオ内の椅子に腰をかける。先ほどから気のせいだと思い込むことにしていたノイズは赤司も気づいていたようで機材指さして指摘してくる。ここにきてから何度目か分からないため息をついてそのノイズに耳を傾けた。

「用意した、ってことはやっぱり…」
「彼女で確定ですね」
「でも、あの話ぶりだとあの子も騙されてるってことになるよな…」

ノイズから聞こえた言葉は部分的にか聞こえなかった。話してたのは2人の男。私たちをここに連れてきた犯人と見てまず間違いない。更に話の内容。用意した女、入れ替わる、騙されて可哀想。確実に言葉として聞き取れたのはこの三つ。それ以外にも聞こえていたがノイズが酷すぎて聞き取れなかった。

用意した女、ということは恐らく私達と関わりが無かった彼女を犯人が用意したということになる。次に、入れ替わるという言葉と騙されて可哀想という二つの言葉。これらから考えられるのは彼女が誰かと入れ替わろうとしているということ。そしてそれは恐らく現実世界とこの謎の世界で。

加えて、入れ替わることで彼女にとって何らかのメリットがあると説明されて彼女はこの件に力を貸した。だがそれは男によって語られた有りもしない出来事。つまり、嘘。彼女は騙されてこの場所にいるということになる。憶測も入っているが大体シナリオとしてはこういう流れになるだろう。

「…ん?まって、じゃああの子は…」
「この世の人間ではない可能性が高い、ですね」

入れ替わることでメリットがある。つまり、彼女はこの世界の人間であり現実世界を生きる誰かと入れ替わることで現実世界で暮らせると説明されたのではないか。これが仮に真だったとすれば、彼女は初めから現実世界の人間ではないという証明になる。そしてその標的は恐らく私。入れ替わる方法として考えられるのは私が命を落とすこと、または犯人に私が捕まってしまうこと。ああ、予定よりもずっと悪くて面倒な方向に流れてしまったと、ため息をつかざるを得なかった。

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