突然ガダンと大きな音を立ててスタジオと副調整室を隔てる扉が開き、焦った様子の康次郎が中に入ってくる。

「大丈夫か」
「全然平気だけど…え、なに?どうしたの?」
「お前と赤司の姿が急に見えなくなったんだよ」
「ガラス張りなのに、ですか?」
「ああ。ついでにドアも開かねえしでコイツが無理やり開けたんだよ」

スタジオは副調整室側の壁はガラス張りになっていて互いの様子が伺える仕組みになっていた。それにも関わらず私と赤司の姿が急に見えなくなり、心配した二人が扉をこじ開けて入ってきた、というわけだ。先ほどのノイズは二人には聞こえていなかったようで、首を傾げていた。

「あの声の話は後にして…鍵、あった?」
「いや、それらしいものはなかった」
「たぶんここから出ようとすれば何かしら起きるんで一回出ますか」
「可能性があるならやってみましょう。周囲には随時気を配っていてください」

ノイズの中で聞こえたあの声については話だしたら長くなる。そう思い、探索の成果を聞けば返ってきたのは予想通りの欲しくなかったもの。理科室を探索した時とまるで同じだ。恐らく、放送室を出ようとした私達に何か仕掛けてくるつもりなのだろう。回避しようにも鍵を入手するための必須イベントだ。回避することなんてできやしない。

「、?今、誰か何か言った?」
「?いえ、誰も何も言ってませんが」
「…ごめん。私の勘違いだわ」
「大丈夫ですか?」
「大丈夫だから、早く行って」

赤司が扉を開けて外に出て、それに黛さんが続く。私も外に出ようとして、ピタリと止まる。誰かに声をかけられたような、誰かの話し声が聞こえたような、そんな感覚に放送室内に目を向ける。こちらを見る赤司にひらひらと手を振って大丈夫だとアピールをし、スタジオの前の扉を通ろうとした瞬間、ぞわりと肌が泡立った。

「っ、!」
「葉月!」
「わ、ぶ!」
「…大丈夫か?」

一瞬だった。スタジオの扉から伸びてきた白い手が真っ直ぐ私に向かってきた、と私が認識したのとほぼ同タイミングで後ろから手を引かれた。気づいた時には康次郎の腕の中にいて、何が起きたのか全くわからなかった。康次郎の問いに戸惑いながら返事をしていればガタガタとスタジオに繋がる扉が揺れ始める。

「ははっ、嫌な予感がするんだけど」
「奇遇だな。俺も同じことを考えていた」
「赤司!そっちはそっちで何とかしてよ!」
「分かってます!」

揺れる扉は少しずつ歪み始めていて。ここまで来れば扉の向こうから出てくるものが何かは大いに想像がつく。外に出たいところだけど、放送室から出るためには揺れる扉の前を通らなければならない。この状況でそんなリスキーなことをする訳にも行かないことは赤司達も分かっているようで反対側で各自持ってきていた武器を構えている。

ガタンと一際大きな音がして扉が外れる。スタジオから出てきたのは今までよりも大きなゾンビ。180以上はありそうな大きさでゆらりと体を動かした後、真っ直ぐにこちらを見て一度動きを止める。来る、と思った瞬間今までの奴らよりも素早い動作でこちらに手を伸ばしきたゾンビに一瞬対応が遅れる。腕を掴まれてそのまま後ろの壁に追い込まれる。ギリギリと締め付けられる腕が痛い。

「クッ、ソが!はなっ、せ!」
「葉月!」
「っ、はぁっ…はあっ…なんなのコイツ…!」
「今までのより動きが早いな。どう仕留める?」
「力も強くなってるし防御されかねないから下手に手出せないね」

足を腹部まで持ち上げて、ゾンビの腹を足で押し返す。康次郎がゾンビの襟首に手をかけて引っ張ったことも相まってぐらりとバランスが崩れたゾンビに追い打ちをかけるように再度蹴りを入れる。私を庇うように前に立つ康次郎がちらりと私を見て、もう一度ゾンビに向き直る。どうする、と言われてもあの力じゃ真正面からの攻撃は防がれてしまう可能性もある。

どうしようかと考えていると、視界の端で何かが動く。目線を向けた時には既にゾンビが膝をついており、ゾンビの足元にはたった今足払いをかけましたと言わんばかりの姿勢の黛さんがしゃがみ込んでいた。次の瞬間にはゾンビの首をハサミで横一文字に切りつける赤司の姿が視界に入った。流れるような攻撃にぽかんと口が開いてしまう。

「…つーか、私を囮に使うとはいい度胸ね」
「すみません。敵の狙いが朝倉さんである以上、真っ直ぐ朝倉さんの元に向かうのは分かっていたので」

ぐらりと倒れたゾンビ越しに見えた赤司の顔を見てすぐに囮にされたと気付いた。確実に仕留める為とはいえども囮にされていい気はしない。呆れたように肩を竦めて見せれば少しも悪いと思っていないすみませんの返事。つくづく可愛くない後輩だなと思いながらドロップアイテムの鍵を拾い上げた。


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